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疾走


神父様は言った。宿命と運命の違いを説明できますか?にんげんは必ず死にます。死なないにんげんはいません。これが宿命。ですが、にんげんの死ぬときはひとそれぞれです。自分がどんな生き方をしていつどんなふうに死んでいくのか。それが運命です。


手越祐也を好きになった頃、私はまだ中学生だったんだけど親の影響で映画はよく観てた。重松清の疾走は上下巻で約800ページ(二段組)とかなり読み応えのある作品で過激な性描写と鬱すぎる展開に主人公は中学生の少年。よくもまあデビューして間もない演技経験ゼロのアイドルに演じさせたなと思う。彼は監督に脚本を読んでと言われト書きから読み始めたらしい。

主なキャストに韓英恵、中谷美紀、大杉漣、寺島進、加瀬亮、豊川悦司、柄本佑、平泉成と錚々たる顔ぶれが並んでいる。なんならエキストラで高良健吾まで出てるし監督助手の中には白石和彌の名前も。

こんなメンツを差し置いてもこの映画の一番面白いところは「全く演技ができていない手越祐也」なんよな。監督に何もしなくていいという演技指導を受け本当に何もしていない。感情が乏しく台詞も棒読み。会話のシーンでは台詞を言い終えるとすぐに相手から目を逸らしてる。Filmarksでも彼の演技についてはマイナスな意見が多かったけど個人的にはあれが大正解だったと思う。鬱々とした作品をより一層湿っぽくしていた。あの危うさはまだ何も分かっていない17歳の彼だから出せた味なのに。

まだ幼いシュウジとエリがあらゆる大人に翻弄されながらも懸命に生きる物語。中盤で家庭が崩壊してひとりぼっちになったシュウジが荒れ果てた家の隅でぶつぶつと呟きながら聖書を読む一瞬の描写が強烈に残ってる。当時20代でもう完成されている中谷美紀。夢に出てきそうなくらい怖い大杉漣。すでに異様な存在感を放ってる柄本佑に韓英恵。何よりも少しのシーンで全部持ってった加瀬亮の凄さに痺れた(敬称略)初対面の死刑囚に「お前は俺だ」と目を見て言われる恐怖、想像できるはずがない。

最初から最後までずっと曇り空のような映画。原作は更に重圧感があり、数日は引きずった。映像にできない描写が多すぎる。何せ主人公は中学生だからR指定を付けても厳しかったんじゃないかな。私は手越祐也のファンだったから当たり前にDVDを持ってるしドキュメント映像も全部見てるけど少なくとも妥協して作られた映画ではなくあれが精一杯だったんだなと理解できる。推しがキラキラ恋愛コメディではなく重松清原作で映画デビューをしたことはけっこう誇らしいよ。


東京でシュウジがシャッターに書き残した「誰か一緒に生きて下さい」という言葉。裏切られても傷付けられても生きたいと願った少年の最期があれなんだもんな。この映画については観てほしいと勧めるというよりかは私が書いておきたかっただけ。原作ではシュウジの目を「穴ぼこのような」と表現している。それを読んで何となく彼の抜擢が腑に落ちた。今も時々あの目、するよね。

ちなみに監督は一つ前のブログに書いたジョゼと虎と魚たちで麻雀を打っているSABUさんです。

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