見出し画像

とりぷるツイン第7話〜バレンタイン〜

【第6話はこちら】↓


あっという間に年が明け、冬休みが終わり、学校が始まる。中学2年生も終わり頃になると勉強も忙しい。気がつけば2月になっていた。

クリスマス以降、みくにと葵は、小っ恥ずかしくって喋れていない。

「で?みくには葵とどうなりたいの?」
みくには2組まで来て、奈々に相談していた。
「う〜ん、なんていうかもっと普通に喋りたいんだけど…。」
確かにお互い意識していないときの方がたくさん喋れていた。(というかケンカしていた…。)
「じゃあ友達関係に戻ればいいじゃん。」
「それはやだ!ちゃんと付き合いたい!」
そこははっきりしているみくに。
「じゃあ、あれしかないね。」
「あれって?」
「バレンタイン大作戦よ。今度の日曜日、春江さんにとびっきり美味しいチョコの作り方教えてもらおう!」

ということで、みくには再び坂井邸にお邪魔することになった。

◇◇◇

日曜日。

「いらっしゃい。」
出迎えてくれたのは、梨々だ。

「梨々さん、お邪魔します。」
梨々ともすでにわだかまりもなく、親しい仲だ。

坂井邸の広いキッチンに入ると、そこには家政婦の春江さんが立っていた。
そして、テーブルの上には、材料が並べてある。
「奈々お嬢様から、美味しいチョコを作りたいと言われましたので、今日はガトーショコラを作りますよ。」
「ガトーショコラ!?美味しそう!」
ワクワクするみくに。
「ってか、お前が食べるんじゃないからな。」
つっこむ奈々。
「えーちょっとは食べたいなー。」
「じゃあ、作り終わったら、ティータイムにしましょう。」
「やったー!!」
こうして、みくに、梨々、奈々のガトーショコラ作りが始まった。

◇◇◇

「まずは、チョコを湯煎で溶かします。」

梨々は手際良くチョコを溶かしている。

「わあ、梨々さん上手…。よし私も。」
みくにも挑戦。しかし…。
「きゃあ、お湯入っちゃった!!」
「…何やってるんだよ…みくに。」
「って言っている奈々もチョコ焦げてるわよ。」
「あ、やばっ!」
みくにと奈々は四苦八苦。

「まあまあ。ガトーショコラの工程は多いから、みんなで分担して作りましょうか。」

3人の様子を見て春江さんはそう判断した。

◇◇◇

「さあて、完成しましたよ〜!」
「やったー!」
オーブンの前で喜ぶみくにと奈々。

「さあ、ティータイムにしましょう。」
梨々は、みくにをリビングに案内した。

◇◇◇

みくに、梨々、奈々は、リビングで女子トークを楽しんでいる。
そんな中、奈々はみくにと梨々に問いかける。
「…あのさ、ちょっと気になってたんだけど。」
「ん?」
「なんかさ、葵に対してその、気まずいとかない?」

「…なぜ?」
すかさず、梨々が聞き返す。

「いや、その、みくにが葵と仲良くなる作戦だったのにさ…、よくよく考えたらその…。」
奈々がちらっと梨々を見る。

葵が今まで好きだったのは、梨々。その梨々が、バレンタインのお菓子作りに協力しているのが、奈々には引っかかっていた。

奈々の言いたいことを察したみくには、
「それなら、私や梨々さんも同じだよ。」
「え?」
「だって、奈々、皐くんのこと好きだったんでしょ?だからお互い様!」

「……。」

「奈々。」
今度は梨々が話し出した。

「私ね、みくにちゃんと葵くんのこと、心から応援してるわ。それに…。」

梨々は、ひと呼吸おき、
「皐のことは、今まで曖昧にしていてごめんなさい。でも、やっぱり私にとって大切な人だってわかったから…。」

「あ、いや…。」
奈々は梨々の真剣な表情に戸惑う。
そして、奈々はこう言った。
「皐くんのことは、もう何も思ってない。私にももう大切な人がいるから。」
そう言うと、奈々はみくにの方を向いた。
「奈々…。」
みくには微笑んだ。

◇◇◇

ラッピングが終えた頃には、夕方になっていた。

梨々と奈々は玄関先でみくにを見送る。
「じゃあ、お互い当日、頑張ろうぜ!!」
「うん!ありがとう。またね!」

みくには帰っていく。

「よかった…。」
「何が?」
「葵くんにいい人できて。」
「…1年間も片思いされてた相手、取られて寂しいんじゃないの?」
「まさか…。…どちらかというと…。」

梨々と奈々の会話。梨々はひと呼吸おき、

「ライバルがいなくなってホッとしているわ。」

そういうと、梨々は家の中に入っていった。
「ふっ、梨々らしい。」
奈々は、口元に笑みを浮かべた。

◇◇◇◇◇

次の日の月曜日。

みくには思い切って葵に話しかけた。

「あ、あのさ!今度の14日、一緒に帰らない?」

「……。」
葵は、しばらく考え、
「…その日は、そうやって俺を誘ってくる女がたくさんいる。」

ガーン!!

女子に人気の葵のことだ。バレンタインになると言い寄ってくる女子も少なくない。

「…だから、帰宅後、俺んちの近くの公園で待ち合わせな。16時に。」

葵は照れながらみくににそう言った。

「…!!うん!」

みくには嬉しさで心が踊った。

◇◇◇


2月14日。バレンタイン当日。

「…遅いなぁ…。」
先に待ち合わせ場所に着いたのは、みくにだった。

すると、遠くから駆け足で葵がやってくる。
よく見ると、服もよれ、髪の毛も若干乱れていた。

「…悪りぃ、遅くなって…。」

「ど、どうしたの?なんか、ボロボロだけど。」

「案の定、女子の大群が…。」

学校の女子たちをまくのに必死だった葵。
皐が早々に梨々とどこかへ行ってしまったため、標的は葵になってしまったようだ。

(そんな中でも、わたしのために、走ってきてくれたんだ…。)

みくには感激する。

「…で?なんか用があるから、誘ったんじゃないのかよ。」
葵もわかっている。だけどあえて聞いた。

(……うっ)
他の女子をまいてまで、自分のところに駆けつけてくれた葵の心はみくにもわかっている。それでも、ドキドキしていた。

「はい、これあげる。」

照れながら、みくには、ラッピングされた手作りガトーショコラを葵の方に向ける。

「言っとくけど、本命だからね!」

「……。」

葵は、しばらく黙った。
そして、口を開いた。

「…俺でいいのかよ。」
「俺は皐にみたいに優しくないし…。やっぱり皐みたいなやつがいいんじゃないかって。…あいつが皐を選んだように…。」
”あいつ”とは梨々のことだ。

「そんなことない!」

「私は葵がいい!だって…」
「なんかわかんないけど、いつもドキドキさせられるもん。それは、葵だけだもん!」

みくにの真剣な目に葵はハッとする。
そして少し顔を赤くし、
みくにの手を取った。

「…こんな俺だけどよろしくな。」

その言葉にみくにも笑顔になる。
「…うん!」

葵も微笑む。

「ねえねえ!」
「ん?」
「これガトーショコラなの!食べてみて!美味しいから!」
「…ここでか?」
「いいじゃん!食べてみてよ。」
公園のベンチに座る2人。
葵は箱を開けた。そこには、カップ入りのガトーショコラが2つ。
その一つを葵は、口に入れた。

「…!!うめー!」
「でしょ?やっぱり春江さんのガトーショコラは最高!!」

「…お前が作ったんじゃなくて?」
疑惑の目の葵。
「あ…いや、作ったのは私!私なんだからーーー!!」
焦るみくに。
「…ほんとかよ…。」

呆れつつも、みくにとの会話が楽しいと思う葵。

冬の木漏れ日の中、2人は幸せな空気に包まれていたのであった。

最後までお読みいただきありがとうございます!気に入っていただけたら嬉しいです✨