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「あの月がめぐってきた」

東京の川には 多くの死体が浮いている

1945年3月10日
東京大空襲で死んだ10万の人びと
そのうち何千何万もの死体が浮かんだ

ずっと時代は下り
1997年11月 元号だと平成9年
四大証券の一角 山一が24日に廃業
それに先立つ3日は準大手の三洋
15日には北海道の雄 拓銀が――
いずれも経営破綻した

大手の銀行 証券が消え
日本経済は崩壊か

世間が大揺れになった
パニックのような11月
あれから26年がたつ

勤め人の拠り所は会社だ
その会社が消えた
都銀信託など13あった大手銀行が
今ではメガバンクが3つだ
どれもこれも盤石で
一生つぶれないと思っていた会社だ

合従連衡離合集散統合廃業――
会社はあっさり消えた

振り払われた
サラリーマン OLという人びと
勤め先をなくせば
彼ら彼女らは死んだも同じ

山一本店 拓銀東京営業部 三洋――
それらは 橋の先にあった
隅田川をまたぎ
中央区と江東区を結ぶ
水色のアーチ橋 永代橋
1923年9月の大震災後
3年をかけて再建 架橋した

橋の先 日本橋大手町さらに進むと皇居
これが永代通りである
消えた3つの会社は
すべてこの通り沿いに存した

永代通りは
誰が言うでもなく
倒産通りとよばれた

隅田川には今も
行き場をなくした人びとの
死体が浮いている

あのビル 川面を見て
橋を渡るたび そう感じる

勤めに行く先がない ぼく


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