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ジョニーベア【9】2300文字

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【9】孤高の戦士 ジェロベア 前編

ハックルは無我夢中で吹雪の中を走りましたが、
よこなぐりの雪のせいで
あたりの景色もよく見えず、
いったいどこに向かって走っていけば、
ほら穴が見つかるのか見当もつきませんでした。
それでもジョニーベアとの約束を
絶対に守りたいと誓って、
ひたすらにどこかに向かって
走っているのですが、
前に進んでいるのか、
後ろに戻されているのかも
さっぱり分かりませんでした。
そのうちに凍るような寒さで
だんだんと足先の感覚がなくなってきて、
踏ん張る力も入らなくなってきました。
これでは風に巻かれてしまうと思った時でした。
いちだんと強い風に足をすくわれて、
ハックルは空中に投げ出されてしまいました。
ハックルはどうにか地上にもどろうと、
吹雪に飛ばされながら、
ぐるぐるもがいていましたが、
どうにもなりませんでした。
「こうなったら、やけのやんぱち、
この風にのってやる」
ハックルはそう叫ぶと、
風の流れに合わせて、
尻尾を右に振ったり、左に振ったりしながら
風の中をサーフィンでもしているかのように
飛んでいきました。
「やったぜ!うまくいったし、結構楽しいぞ」
すると白く光る雪一面の向こうに、
おぼろげにうす暗くなっている
場所が見えました。
ハックルはそれがほら穴のくぼみで、
周りの景色より少し暗くなっている
場所にちがいないと思いました。
そして尻尾をうまく使って風を操りながら、
うす暗い場所に飛び込んでいきました。
ハックルの思った通り、
その薄暗い場所はほら穴でした。
「イヤャホ――、見つけたほら穴。
ビンゴ、ビンゴ、ビンゴ!」
ハックルは小躍りしながら言いました。
 
ジョニーベアは大きな樫の木の下で
傷ついたクマに覆いかぶさって
凍ってしまわないようにしていましたが、
あっという間に雪に包まれてしまいました。
傷ついたクマには古い傷やら
まだ血が流れている傷やら、
無数の傷があることに気がつきました。
そして一番新しいキズは右肩でした。
穴が空いて、
血がどくどくと流れ出ていたのでした。
その肩の穴は、
人間の鉄の玉で打たれた穴だと思いました。
ジョニーベアは、このクマもまた人間との争いに
巻き込まれてしまったんだと思いました。
そうやって傷ついたクマの微かに温かい息を感じながら、寒さに耐えてハックルが戻ってくるのを信じて待っていました。
 
「ジョニー、ジョニー、ジョニー」
ハックルの声でした。
吹雪の音にかき消されながら聞こえた時、
無事に戻ってきてくれた事に安心しました。
そして声の聞こえてきた方を見ると、
ハックルが吹雪の中をサーフィンでもするように
こちらに向かってくるのが見えました。
「さすがハックルだ。
吹雪の中を楽しそうに泳いでるよ」
ジョニーベアは笑みをこぼして言いました。
「ジョニー、とっても良いほら穴を見つけたよ。
ここから西の方角に500歩も歩けば
着くところさ」
「よし、あと500歩だな」
ジョニーベアは傷ついたクマを背負い、
ハックルが頭に乗っかると、
西の方角に一歩一歩、
ゆっくりと歩いていきました。
 
ようやくの思いで、
ほら穴に着いてみて
ジョニーベアはびっくりしました。
あたかも誰かが用意してくれたように、
そこには寝るためのふかふかの落ち葉が
敷かれていました。
「すごいほら穴を見つけたもんだね、ハックル」
「オイラもこのほら穴を見つけてびっくり、
 吹雪の中を飛び込んでみて
 2度びっくりしたよ」
ふかふかの落ち葉ばかりでなく、
ほら穴の奥には、
樹の実もたんまりと蓄えられていたのでした。
ジョニーベアは傷ついたクマを落ち葉の上に寝かせました。そしてジョニーベアとハックルは、
ほら穴の奥に蓄えられてた樹の実を口いっぱいに放り込みました。
しばらくすると、
傷ついたクマの体も暖まり
意識が戻ったようでした。
「どこのどちらさんか知らないけれど、
俺の命を救ってくれたクマさん、ありがとよ」
傷ついたクマは目を薄く開いて言いました。
「おーーー、良かった良かった。
意識が戻ったようだね」
ジョニーベアが言いました。
「俺の名前はジェロ。
俺の命の恩人の名前を聞いてもいいかい」
ジェロは横になりながら聞きました。
「オイラはハックル。
このほら穴を見つけたのさ」
「僕はジョニー、君を見つけて運んできたよ」
「クマとリスの仲良しコンビかい、
面白い二匹だね」
ジェロは口元を緩めて答えると、
あたりを見回して言いました。
「君たちは俺のほら穴を見つけてくれたようだな。ここのほら穴ならひと冬ぐらいは越せる食料もある」
「このほら穴はジェロさんのほら穴だったんだ。
どうりで食べ物も寝床も揃っていたもんだ」
ハックルが言うと、ジョニーベアが続きました。
「断りなしに、樹の実を頂いてます」
「ハハハハッ、
そんなお断りは言うに及ばないさ。
それに樹の実の下の地面をほってみな。
特別な食べ物を隠しているんだぜ」
ジェロにそう言われて、
ジョニーベアが樹の実の下の地面をほってみると、干した鮭の肉片がゴロゴロっと出てきました。
「うぁ、ごちそうだ!」
ジョニーベアは思わず叫んでしまいました。
「俺の命の恩人だ、遠慮なく食べてくれ」
ジェロはゆっくり起き上がって言いました。
ジョニーベアは鮭の干し肉をモグモグと食べ始めました。
「ところで、ジェロさんは人間に襲われたの?
体にはキズがいっぱいだよ」 
ジョニーベアが聞きました。
 
「この俺の体のキズねぇ、
これは悲しみのキズだよ。
どんなに俺が傷ついても、
俺の悲しみは癒されないのさ。
どんなに俺が傷ついても、
俺の苦しみが救われることはないのさ。
あの人間という憎しみから俺は開放されないのさ」
ジェロはそう言うと、過去の悲しい出来事を話し始めました。
 
ーーーつづくーーー

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