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ジョニーベア【4】2000文字

↑ 前のお話 ↑

【4】月に願いを
鋭い鉄の歯がついたワナがママベアの足にグスリと食い込んでいました。
そのワナは鎖で地面につながれていたので、
その場から身動きが取れなくなっていました。
ワナにかかった足は火で焼かれているように痛かったのですが、
ママベアはジョニーベアに心配させたくなくて、
必死に痛みをこらえながら話し始めました。

「とってもいい子でやさしい
私のジョニー坊やよ、聞いておくれ。
もう少し二人して仲良く森の中を
お散歩したかったけどね、
どうやらお別れの時がきてしまったよ、坊や」
「お別れって、何を言っているんだいママ。
明日も川に行って、
サケをいっぱい食べようねって
さっき約束したばかりだよ、ママ」
「そうだったわね、
今日は本当に楽しい1日だったわ。
でも坊やはこれから一人で頑張るのよ」
「なんかおかしな事言っているよママ、
だって今も一緒にいるじゃないか」
「そうよね、
ママはおかしな事を言っているわね」
「ママは僕をおいて
何処かに行ってしまうのかい?」
「坊やを置いてどこかに行きたくなんかないわ。
けれどね、坊やが強い立派なクマになるために、
これからは一人で生きていかなくては
いけないのよ」
「それが今なの?」
「そう、それが今なのよ」
「ママ、、、、、、、僕とってもさみしいよ」
「ママも寂しいわ。けれどね、ママは坊やの事をずぅーっとお空の彼方から見守っているからね。坊やがしっかりやっているのをいつまでもいつまでもお空の星になって見ているからね」
「ママはこれから星になっちゃうの?」
「そうなのよ」
「僕も星になりたいよ。
星になっていつまでもママと一緒にいたいよ」
「ママみたいに立派なクマにならないと
星にはなれないのよ。
ジョニー坊や、しっかり立派なクマになって、
いつか素敵な星になれるように頑張るのよ」

その時風上から人間の匂いが漂ってきました。
ママベアは言いました。
「いいかい坊や、これから一人で生きていく中で守ってほしいことを
二つお願いするからよく聞いてね。
一つ目は絶対に人間に近づいては駄目よ。
それからね、ママの足に掛かっているこの硬い物はワナっていうの。
二つ目は、このワナとか人間の持っている棒の鉄の匂いにも近づいちゃ駄目よ」
ジョニー坊やがママの足を見ると
そこにはワナというものがママベアの足に食い込んで、足からは血が流れていました。
「坊や、もう時間がないわ。
今までありがとうね、
あなたのママになれて本当に幸せだったわ。
もうこれでお別れです。
私の可愛い坊やよ、ママは星になっていつまでもあなたを愛しているわ。
今は早く、早く、
風下のほうに走っておゆきなさい」
「いやだいやだいやだよーーーー
ぜったいにいやだーーーーーーー」
ジョニーベアは泣きじゃくって
ママの顔を見ていると、
ママベアの顔が急に変わりました。
それは今まで見たこともないような
怖い顔をしていました。
するとママベアは大きく腕を振り上げたかと思うと、バシーンとジョニーベアの顔を思いっきり引っ叩きました。
ジョニーベアはくるくるくると転げてしまい、
ママベアにぶたれた顔を押さえながら
立ち上がってママを見ました。
ママは目にいっぱいの涙を浮かべて、
いつもの優しいママの顔に戻っていました。
「しっかりがんばるのよ、さぁ行きなさい。
立派に生きるんですよ。愛しい私の坊や」
ジョニーベアは泣き叫びながら、
ママベアに言われた通り風下に
向かって走って走って走りました。
後ろを振り向いてもママベアが
見えなくなってしまうまでひたすら走り続けましたが、本当にママが見えなくなってしまうと
やっぱり寂しくなり、そこにあった木に登っていきました。
木の真ん中辺りまで登ると
向こうにママベアが見えました。
さらに向こうからは
人間たちが手に長い棒を持って
ママベアの方に向かってきました。
人間たちが持っていたのは、
いつしかシカを倒した時の
あの鉄の玉を飛ばす長い棒でした。

ママベアは人間達が傍まで来ると、
ワナにかかった痛い足をこらえながら
仁王立ちになり、大きく両手を広げると
グオワオーーン
と人間たちに向かって、
ありったけの声で雄叫びをはり上げました。
すると人間たちは手に持っていた棒を
ママベアに向けました。
ズドーン、ズドーン、ズドーン
耳をつんざく音がして、
ママベアはドスンとその場に倒れて
動かなくなってしまいました。
ジョニーベアは全部を見ていました。
涙が溢れて止まりませんでした。
そしてしっかりとママベアとの約束を
心に誓いました。
人間たちには近寄らない。
鉄の匂いにも近寄らない。
そして立派なクマになって、
ママと一緒の星になると決めました。
ジョニーベアは木に登ったままで、
動く気にはなりませんでした。
そのまま夜になると、
空には黄色い満月が昇っていました。
辺りには星が散らばっていました。
ジョニーベアは少しでも星に近づきたくなり、
木のてっぺんまで登りました。
そして夜空に向かって話しかけました。
「お月さまよ教えておくれ、ママのお星さまはどこにいるんだい」

―つづく-

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