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月と陽のあいだに

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「あの山の向こうに、父さまの国がある」 二つの国のはざまに生まれた少女、白玲。 新しい居場所と生きる意味を求めて、今、険しい山道へ向かう。 遠い昔、大陸の東の小国で、懸命に生き… もっと読む
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夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

ハクシン(7)

 やがて私が十七歳になった時、アンジュが帰ってきました。二十五歳の男盛りのアンジュは、近衛連隊の小隊長になっていました。家庭では優しい夫で二人の息子の父であり、誰からも一目置かれ将来を嘱望される存在になっていたのです。大人の男性になったアンジュを前にして、私の中で忘れていた性への好奇心が再びわきあがりました。
 十七歳の私は、病弱であってもそれなりに成長して、以前より柔らかい女性

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夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~ 

夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~ 

ハクシン(6) 成長するにしたがって、私はますます歪な娘になりました。知識を詰め込む一方で、自分には実感できない感情すら上手に演じられるようになったのです。そして十二歳になる頃、性について好奇心をかき立てらるようになりました。書物で読んだ強烈な感情を体験してみたくなったのです。

 私の興味の対象になったのは、アンジュという近衛士官でした。
 初めて私の護衛についた時、アンジュは二十歳になったばか

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夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

ハクシン(5)

 思い通りに歩けなくなった私は、月神殿の神官長にお願いして、特別に図書館の閲覧許可をいただきました。あの日あなたに話した通り、図書館が私の遊び場になったのです。それからは時間が許す限り、手当たり次第に本を読みました。
 どんな本でもよかったの。一人ではどこへも行けない私でも、本の世界では自由でした。杖なしで誰よりも早く走り、鳥のように空を飛び、魚になって大海原を泳ぎ回ることもでき

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夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

ハクシン(4)

 母に懐く私を見て、乳母は私を失うと恐れたのかもしれません。外でたくさん遊べるように「体を丈夫にする薬」を私に飲ませるようになりました。
 私は幼過ぎて、その薬が本当は何だったのかわかりませんでした。
 初めのうちは何の影響もなく、背も伸びて普通の子どもと同じように健康でしたが、一年二年と経つうちに風邪をひきやすくなり、背も伸びなくなりました。それが薬のせいだったと知ったのは、ず

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夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

ハクシン(3)

 もちろん私だって、こんないきさつを最初から知っていたわけではありません。でも幼心に「なんだか変だ」と思ったことはありました。母と私は、あまり似ていなかったのです。
 母は子を産んでも少女のようなところがありました。一緒に遊ぶときは、よくお人形遊びをしたけれど、私はそれがちっとも楽しくなかったの。
 私は囲碁や双六のような遊びが好きで、お人形を使った「ごっこ遊び」は嫌いでした。お

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夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

ハクシンの記憶(2) 父は、優しすぎる母に負い目を感じていたのでしょう。母をとても大切にしました。その証拠に、しばらくして母は懐妊しました。母は喜びましたが、父は本当の意味では母を愛してはいなかったのです。
 なぜなら、父には新しい愛人がいたのだから。そして彼女は、母とほとんど同時に子を産んだのです。

 父の新しい愛人は、祖母であるネレタ側妃があてがった侍女でした。ナーリハイ家の血を引く娘で、父

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夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

ハクシンの記憶 白玲。あなた宛ての手紙はたくさん書いてきたけれど、これが最後になるでしょう。あなたは聞き上手だったから、他の人には話さないこともずいぶん話しました。でも、あなたに見せていたのは私の姿の半分だけ。夜空に輝く月の裏側に誰にも見えない闇があるように、私の内側にも漆黒の闇がずっとありました。
 そのことを今日初めて話します。読んで楽しいものではないから、嫌になったら途中でやめて、そのまま焼

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月と陽のあいだに 231

月と陽のあいだに 231

落葉の章ハクシン(12)

 ハクシンの乳母の日記がもたらした動揺が一段落したあと、白玲は再び皇帝のそば近くに仕えることとなった。宮を離れた皇后に代わって、その職務をこなしながら、皇帝の御座所に控えて、日々の細かな仕事を見覚える日々だった。
 本来ならこの役割は、皇太子とその一人息子であるシュバル皇子が担うべきものだった。しかし、ハクシンに独断で毒杯を与えた皇太子は、皇帝の意に従わなかった者として

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月と陽のあいだに 230

月と陽のあいだに 230

落葉の章ハクシン(11)

 広間から連れ出されたハクシンとアンジュは、身分を剥奪され牢に繋がれた。
 明日はハクシンが幽閉の塔へやられるという日の夜、皇太子と皇太子妃がハクシンに別れを告げにきた。
 皇太子は、ハクシンが好んだ果実酒を小さな盃に満たした。塔で我が身を振り返り、皇帝の赦しを待つように言う父に、ハクシンは皮肉な笑みを返した。
「お父様は、やっぱりお父様ですね。お望み通りにいたしましょ

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月と陽のあいだに 229

月と陽のあいだに 229

落葉の章ハクシン(10)

 白玲は、力が抜けたように椅子の背にもたれて、ぼんやりと空を見つめていた。隣に座ったシノンがその手を握った。そんな二人を守るように、ナダルがじっと立っていた。

 広間に満ちていた淡い光が赤みを帯びて、窓際に置かれた香炉の影が、長く尖って床に伸びた。
「私、信じたくなかったの。ハクシンが私を嫌っていること」
 ようやく我に返ったように、白玲がぽつりとつぶやいた。
「私は

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月と陽のあいだに 228

月と陽のあいだに 228

落葉の章ハクシン(9)

「……直接手を下さなくても、あなたは立派な人殺し。一体、あなたのどこが優れているというの?」 

 白玲の言葉に、アンジュは直立したままうなだれた。皇太子は、呆けたように立ち尽くしていた。
「ハクシン、アンジュに命じて白玲を襲わせたことに相違ないか?」
 皇帝が念を押した。
「アンジュに命じたわけではありません。アンジュは私が白玲を憎んでいると知って、私の心を繋ぎ止めるた

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月と陽のあいだに 227

月と陽のあいだに 227

落葉の章ハクシン(8)

 叩きつけるような白玲の言葉に、ハクシンは初めて顔色を変えた。

「あなたに、私の何がわかるっていうの?」
 余裕のある笑みが、ハクシンの顔から滑り落ちた。
「私は自分の夢を叶えるために、自分の足で歩いていくことができなかった。そのもどかしさが、あなたにわかる? 友だちもなく、空想の中でしか自由に生きられない悲しさが、わかる?
 あなたを見ていると、本当にイライラする。あ

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月と陽のあいだに 226

月と陽のあいだに 226

落葉の章ハクシン(7)

「……それなのにあなたったら、ろくな防備もしないのだもの。頭が悪いだけじゃなく、詰めも甘いのよ」

 蒼白になった皇太子が、ハクシンを黙らせようと手を伸ばした。
 ハクシンはその手を振り払った。

「私はずっとネイサン叔父様が好きだった。それは、叔父様だけが本当の私を見つけてくださったからよ。
 愚かな大人たちは、私の見かけに騙されて、なんでも言うことを聞いてくれた。でも

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月と陽のあいだに 225

月と陽のあいだに 225

落葉の章ハクシン(6)

 ハクシンを抱きしめて、一番の被害者は自分の娘だと言い募る皇太子。
 それを見る皇帝の視線が、さらに冷ややかになったのは明らかだった。

「アンジュ、そなたは白玲皇女を嫌悪して排除するために、ハクシンを誘惑して金を引き出し、自分が疑われたのでハクシンに罪を着せようというであろう。守るべき主人に手を出して、己の意のままにしようなど、護衛にあるまじき行為ではないか」
 皇太子

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