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わくわくボックス

先週、末っ子が年に2回の「お弁当の日」だった。

もともとは「春の遠足」「秋の遠足」として電車やバスにすこし揺られてあちこちの公園に出かけてシートを広げていたのだが、このコロナ禍によって「お弁当の日」になったものである。

年少になったとき既にコロナの流行下にあった末っ子は、幼児組(3〜5歳児クラス)限定のイベントであった遠足を、そもそも知らない。遠足どころかイベントというイベントが中止されてきた世代である。

そのなかで、名前や中身は変わったものの唯一脈々と続いてきたのが、この「お弁当の日」なのだ。この日ばかりは園庭も園内もすべて子どもたちのフィールド。乳児組のスペース以外だったらどこでシートを広げてもいい。

いつもは子どもだけでは入れない事務所も、園長室も、お兄さんお姉さんのクラスも入り放題。好きなところでお弁当を食べられる。

駅ビルのなかにある保育園はかわいくて子どもたちが大好きな園庭はあるけれど、自然豊かとは言い難いことを先生たちはよくわかっていて、コロナ禍前はしょっちゅう外に連れ出してくれる園だった。

長男は2歳児クラスのころから区内の自然公園まで往復3〜4kmは歩いていたし、おにぎりだけ家から持参して、おかずは園から持っていく「おにぎり遠足」もよく開催してくれていた。

おかげで健脚に育ち、未だに長男のクラスのママ友と話していると歩くことに慣れてるんだよねえ〜という話題が出る。歩き慣れている、というだけではなく、ヨチヨチのころから友達と手を繋いで歩くことを叩き込まれた彼らは、誰かと並んで歩くことが上手い気がする。

すぐ「だっこぉ〜!」になる末っ子ももうすこし園で鍛えられてほしかった…と思わないでもないが、保育園だいすき!で元気にここまで大きくなってくれただけで感謝するしかない。

そんなこんなで外に出られる機会が少ないまま育ってきた末っ子は、それはもう「お弁当の日」を楽しみにしていた。何日も前からカウントダウンし、お弁当箱はこれ、中身はこんな感じ、と私へのプレゼンに余念がなく、覚えきれない、と慌ててメモをとったくらいだ。

さて、近くの公園に散歩して帰ってきたら園内でお弁当を食べる予定だったその日は、はたして雨であった。

4時半に起きて残念、雨か〜と思いつつ顔を洗っていたら、末っ子が起きてきた。くり返すが、4時半である。いつもは6時に叩き起こし、抱っこでリビングに連れてきても隙あらば寝ようとする末っ子が…起きてきた…!

もはやこのテンションに雨など関係ないな、とその時点で思った。

うきうきとわくわくとドキドキとその他あらゆる楽しい要素をパンパンに詰め込んだようなリュックを背負って登園した末っ子は、お迎えのときに「ぜんぶたべた!おいしかった!」と満面の笑顔で報告してくれた。

それはもちろん嬉しかったのだが、他の子たちも口々に「おべんとうだった!」「〇〇がはいってたの」等々、キラキラ澄んだ目で話しかけてくるのが妙に感動してしまって、そうかそうか、君たちイベント少ないしなあ、よかったなあ、とうっかり泣きかけた。

ふだんあまり交流のない隣のクラスの子までわらわら寄ってくる始末で、お弁当くらいでそんな喜んでくれるなら母ちゃんいくらでも作っちゃうよ!!眠いけど!!と勝手に心の中で拳を突き上げたお迎え時であった。

ちなみに、いつもお弁当の日は先生たちが「お弁当のご用意ありがとうございました!」と頭を下げてくれる。が、先生たちこそイベントの中止に泣き、悩み、それでも何かできることはないのかと子どもたちのために日々奔走しているのだ。その意味でも、いくらでも作っちゃうよ!!と言いたくなる。

キャラ弁なんて作ったこともないので末っ子が好きそうなかわいいピックをウインナーに刺すくらいしかしていない(できない)のだが、そんな私に末っ子は言う。

「〇〇ちゃんのはね、かにかまでね、もんすたーぼーるになっててね!」
「△△ちゃんのはチーズがおばけになってたよー!」

へえ〜モンスターボールねーおばけかーと相槌を打ちつつ、これを次回プレゼンされたらどうしよう、と今からドキドキしている。

私自身は中学校から毎日お弁当生活だったが、不思議なことにお弁当に何が入っていたのか、ロクに覚えていない。初めて買ってもらったお弁当箱がくま型で嬉しかったとか、ソースと間違えて黒蜜が入っててトンカツがとんでもないことになったとか、そんな取るに足らない思い出ばかり。

きっと、記憶にも残らないほどの日常的なお弁当だったに違いない。母の苦労も知らずに、呑気に毎日食べて、そして大きくなったのだ、私は。

息子たちもきっとそうなるだろう。

私の苦労など知らずに、記憶に残らないお弁当を食べて、今日は買い弁がいいーとか言いながら育っていく。それはお弁当であるかどうかに関係なくとても幸せなことであるし、だからこそこの「お弁当の日」は私にとっても特別な日なんだろうと思う。

折りしも来週は長男の遠足もある。

が、こちらは小学校入学と同時に臨時休校となり、7月に初の給食を食べるまで毎日お弁当持参だったし、その後も長期休暇のたびにお弁当なので中学入学を待たずして既に私の弁当に何の新鮮味もない。

それでもまあ一応遠足だし、と何かお弁当のリクエストある?と聞いてみたところ「え、じゃあ梅干し」。ラクだけど…なんかほらもうちょっとなんかない、ねえ?

冷蔵庫の梅干しの残りを確認しなくちゃ、と思ってから早くも3日が経過している。唯一のリクエストに応えられるかどうか、もはや自信がない。

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