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変化が減速している。未来予想が変わるかもしれない。

本書はスローライフ、スローな社会を提唱するものではありません。
様々なデータを分析して、これまで当たり前に思っていた、そして将来を予想する時の前提にしていた「変化する時代」「変化が加速する時代」を覆す事実を数字で提示しています。

この本を読み、人類の未来、今後10年の社会・経済の将来像を再考することが必要ではないか、と思いました。

「ドッグイヤー」という言葉があります。人間の7年が犬の1年に相当することから、通常7年で変化するような出来事が1年で変化する今の時代を表したものです。ビジネスの世界では、「変化」についていかないと競争に生き残れない、「変化」を生み出さないと技術革新はない、ということを疑う人は少ないと思います。

本書では、種々のデータ分析に加えて、私の子供世代、いわゆるZ世代について記載がありますが、なるほどと首肯する内容です。
「それ以前は、世界中の大半の人が、自分の親たちとほとんど変わらない暮らしをしていた。多くの場合、親と同じかよく似た仕事をして、よく似た生活様式を送り、同じ考え方を持ち、同じようなリスクに直面した」
「私たちは変化に慣れすぎて、それが当たり前のことだと思っている(P258)」。
まさに、私の生きてきた世の中です。

Z世代は、過去5世代の中で、親とあまり変わらない暮らしを送ることになる最初の世代になる可能性もある。所得は上がらない。富が大きく増えることもない。家の大きさも変わらない。車のスピードが上がることもデザインが洗練されることもない。休暇の過ごし方も変わらない。やることがどんどん増えて、起きている間ずっと活動するようなこともない(P297)。」

私はバブル世代であり、Z世代についての記述と真逆の生活様式を経験してきました。そして、これからもそれが続くことを前提に経済・社会活動を行っています。

ところが、Z世代を取り巻く生活・社会環境は、すべてが大きく変化するものではなく、今の自分の生活様式とさほど変わらないように思います。

では、これまで加速してきた社会が減速するとどのような社会になるのでしょうか。GDPはマイナスに転じるのでしょうか。筆者はそこまで見解を述べてはいません。

変化が減速すると経済活動が停滞し世の中に流通している貨幣の流通速度が減速することになるかもしれません。
経済学に貨幣数量説というものがあり、以下で説明されます。
MV=PT
M:貨幣量
V:貨幣の取引流通速度
P:物価
T:モノ・サービスの取引量

スローになる=Vが遅くなる、とすれば経済成長は停滞することになります。
果たしてそうでしょうか。

私は、世の中の変化が減速する代わりに、安定を維持するため、安定を享受するための費用は増加する、結果的にVは減速するが、サービスが多様化することからMは増加する、と予想します。

スローになっても、それほど悲観することはないと考えますし、むしろ私が経験してきた変化一辺倒とは異なる社会が訪れるのではないかと期待しています。

新年早々、未来を予想する材料になる良書に出会うことができました。

「減速する素晴らしい世界 ダニー・ドーリング著 遠藤真美訳 東洋経済新報社」


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