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食べなくなって身体におきた異変〜食べても太らないカラダがほしい3〜

前回の話はこちら。食べなきゃ、やせる。

できる限り、食べ物を口に入れないと決めると、面白いように体重は減っていった。

記憶があまりはっきりとしないのだけれど、56kgだった体重は、45kgになり、その後38kgくらいまでスルスルと落ちていった。体重が簡単に落ちることが面白かった。数字を減らしていくゲームのような感覚になっていた。

しかし、体重が落ちるとともに身体にはいくつかの問題もおきはじめた。

生理がこなくなった。

生理がこなくなったのが、何kgくらいのころか覚えていない。30kg台に突入したあたりだったような気もするけれど、もう少し、早かったかもしれない。

生理がとまるまでは、母は「ちゃんと食べなあかんよ」くらいにしか注意してこなかった。母自身もすこし太っていた。こんにゃくや、寒天やらばっかり食べるダイエットを行っていたこともあった。そのせいだろうか、娘のことを厳しく叱れなかったのだろう。

しかし、生理が止まると話は違ってくる。スーパーで生理用品を買って、トイレに補充してくれていたのは母だったし、ゴミを処理するのも母だった。母と姉と、私の女が三人暮らす家では誰かしら順番に生理になっていたし、母は娘たちの生理を把握していた。

私は生理が止まったことを、恐る恐る母に告げた。母は、「極端なダイエットするからや」と厳しい口調で私に注意した。私自身も、生理がこなくなってすぐのころは「やばい……」と焦る気持ちもあった。けれど、はっきり言って生理はめんどくさいのだ。トイレにいくたびに小さなポーチを持っていかなくちゃいけないし、ポーチの中身が少なくなってきたら、補充しなくちゃいけないし。夜寝るときも気になるし、体育のときもきになる。ごわごわしてて、股にあたる感触も気持ちわるいし、被れることだってある。むしろ、生理は無い方がすっきりしていて過ごしやすいじゃないかとすら思うようになってしまった。

今思い返してみれば、単純に正当化したかっただけだ。

もともと備わっていた身体の機能が、停止したのだから、あまり良いとは言えないはずだ。それは、分かっているつもりだったけれど、そのことには目をつぶってしまった。ただ、もうやせたい気持ちばかりが強くなっていたし、体重が少しでも増えることが恐怖でしかなかった。生理がとまったことで、私は何も不自由になっていない。むしろ、動きやすいし、ストレスは軽減された。良いことじゃないかと、思い込みたかったのだろう。

ただ、そのまま放置しておく、というわけにもいかず私は母に連れられて、病院へ行くことになった。しかし、その病院も精神科とか、心療内科とかじゃあない。私がほんとうに幼い頃、二歳とかそのくらいのころからずっとかかりつけだった内科の小さな病院だった。

その小さな個人病院は、女医のおばあちゃん先生と薬を調剤する小さな部屋があり、薬剤師のおばあちゃんのふたりでやりくりをしているところだった。いつ行っても、おばあちゃん先生は「なんでも、お見通しですよ」と言わんばかりで私はその病院に行くことが心底怖かった。母は嘘をついたり適当にあしらっておけば、どうにでもなるとおもっていた。けれど、その先生には嘘をつくことはできなかった。幼いころから通っているせいか、「先生の前に座ると、もう病気は治る」と思うくらいの意識があった。

中学生のころのにおきた拒食症は、このちいさな病院にしか相談にいかなかった。三、四回相談のために病院へ訪れたように記憶している。28kgくらいまで体重が落ちたときに、「お母さんの前で、体重、計ってみて。あんた、今何キロなん?」と母が泣きながら、わたしに怒鳴ったことと、病院の先生に「これ以上やせるともう、後戻りできない。身体には内蔵しかのこっていないから、内蔵がやせ衰えるしかない。そうなると、もう本当に死んでしまうよ」と言われたことで、私は「母も泣かせてしまったし、先生もこう言ってる。食べなきゃいけないんだな」と気持ちに変化がでたのだった。

この日の病院の帰り道。病院を出たところで、母は私に二千円を握らせて優しい口調でこう言った。

「帰り道、スーパでもコンビニでもいいから。なんか、これなら食べてみようかな? って思うもの買ってきなさい。お母さんには、あんたが何を食べたいんか、よう分からん。ゆっくりで良いから、ひとりで選んできなさい。でも、何にもないっていうんやったら、無理して買わんでいいからね」

母は、そういったあと自転車にまたがってさっさと帰ってしまった。

すごく、難しかった。食べたいものなんて、なにも思いつかない。

食べ物のことを考えないようにして暮らしてきた私に「好きな食べ物を買いなさい」とは、結構きびしい問題だった。

スーパーをぐるぐる何周もまわって、悩みに悩んだ。

食べたいものなんてなにひとつなかった。これは食べたら太るだろうな、とか、妙にカロリー計算ばかりしていたため、「あ、これはカロリー高そう」などとしか考えられなかった。だけど、ここで何にも買わずに帰ったら、母をまた泣かせてしまうかもしれない。そう思うと何かを買わずには帰れないとも思った。

結局いちごを一パックと、レトルトの野菜スープみたいなものをむりやり購入した。家に帰ってから食べたいちごは、あんまり味がしなかった。けれど、このときから「少しは、食べよう」と気持ちが変わったのは確かなことでもあった。


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