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人にみせるためじゃない

先週末、大型の台風が近くを通っていった。

もうすぐ収穫になるカキの実が落っこちちゃいそうだね、とか。枯れ葉があちこちに飛んじゃうとご近所迷惑になるから、できれば事前に掃除しておこうか、とか。

直撃まではしないだろうけれど、かなりの大型台風だし、被害がでるまえにできそうなことはやっておこうと夫と話し合った。

事前の対策のひとつに「月下美人の鉢を移動させておこう」というのがあった。ふだん月下美人の鉢は風通しの良い場所においてある。風向きにもよるだろうけれど風通しが良い、ということは強風が吹き抜けていくかもな、という不安があった。

ちょうど蕾を付けていてあと少ししたら花が咲くかも、という状態だった。せっかくの蕾が、台風でちぎれちゃってもいけないし、そういって台風が直撃しそうな前日の夕方に、月下美人の鉢は納屋の中にしまい、そこで過ごしてもらうことにした。

***

台風が去った翌朝。

土曜日で、仕事もお休みだったので家の周りの掃除を朝早くからはじめることにした。

思ったよりも枯れ葉は飛び散っていなくって、家の周りをぐるいとはくだけで片付いた。心配していたカキも、ぜんぜん落っこちていなかった。

「そうそう、月下美人の鉢も外に出してあげよう」そうして、納屋を開けると月下美人は思いもよらない姿になっていた。

蕾をつけていた茎は、だらんと下を向いて力尽き果てたような姿になっていた。

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咲いたかどうだか、わからない。けれど、茎にハリがない様子やつぼみから受ける印象を総括すると「もう、昨日の夜咲きましたえ」といった雰囲気を醸し出していた。

夫は「いや、まだ咲いてないんじゃない? 満月か新月の夜にしか咲かないんじゃないの?」と言っていたけれど、どうやらそんなこともないらしい。

わたしが月下美人を育て始めるきっかけともいえる、彫刻家の土屋仁応さんも、Twitterで「月下美人が咲きそうです」と10月1日に写真を投稿されていた。

やっぱりうちの子も、同じ日に咲いたんじゃないだろうか?

花を咲かせるタイミングが分からない、と土屋さんも呟いておられた。満月・新月が花を咲かせるタイミングとしては多いのだろうけれど、そのサイクルばかりではない、ということだろう。

念のために数日、蕾をそのままにしておいた。けれど、蕾はどんどん元気を無くしていくばかりだったので、摘み取ることにした。

花を咲かせるタイミングで見られなかったなあと後悔しているものの、月下美人にしてみれば「あなたにみせるために咲いたわけやなし」というところだろう。嵐がやってきたその夜に、花を咲かせると決めたのは植物自身なのだから。

こちらとしては、ちょっぴり寂しい気持ちが残る。けれども、また来年の夏に、花を咲かせてくれるといいなと願っている。

月下美人の花は見逃してしまったけれど、きんもくせいがたっぷりと花を咲かせていた。9月の中頃に少し咲いていて「ああ、もう秋なんだなあ」としみじみしていたけれど、どうやらちょっとあわてんぼうチームが咲いただけのようだ。

なにはともあれ、季節はめぐる。

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