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ふたりの記憶

「それ、押し花?」

読まなくなった本を片づけてほしいと母に頼まれ、久しぶりに帰省した。
ほんの少しの時間があれば、いつでもページをめくっていた母の姿を、わたしはそっと思い出す。
歳と共に目が悪くなっていった母は、本を読まなくなってどのくらい経つだろう。

欲しい本があれば、好きなだけあげるという母の言葉に甘えて、本棚から何冊かを選ぶ。
母のにおいが残ってる本をぺらぺらとめくっていると、一枚の紙がはらはらと足もとに落ちた。
色褪せた紙のまんなかには、赤い花びらが数枚、きれいに留められていた。

「あ、こんなところに挟んでたのね。まちがえて、捨てたんだとばっかり思ってた」
母は宝物を見つけたかのように、大事そうにその紙をそっと手に取った。

「これね、父さんがプロポーズの時にプレゼントしてくれたお花なの。どうしても捨てられなくて、押し花にしたのよ」
花びらをみて笑う母の目は、ときめきを隠せない少女のように輝いていた。

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