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吐き出すと、すっきりする。それは確かにそうだけど。〜食べても太らないカラダがほしい8〜

前回のお話はこちら 一人分の食事って、どのくらいが正解なの?〜食べても太らないカラダがほしい7〜

*今回は摂食障害のひとつである「過食嘔吐」について触れています。具体的で不快な描写もあるため、お食事中などに読まれるのは、あまりおすすめしません。

大学一年の12月。明日から冬休みが始まる、クリスマス目前のことだった。

その日は、アルバイトもなくて開放感に満ちていた。11月に付き合いはじめたばかりの年上の彼氏と一緒にごはんでも食べにいこうか、と数日前に話していた。クリスマスはお互いバイトだったし、クリスマスが終われば、私は実家の大阪に帰省することに決めていたからだった。

その日の夕方、彼から電話があり「スノボにいくから」ととても楽しそうな声で告げてきた。「ごはん食べにいくって言ってなかったっけ?」と聞いたけれど「そんなこと言ってたっけ? まあ、いつでも行けるでしょ」ざわざわと賑やかな声が後ろから聞こえてくる。そのざわめきに向かって、彼は何か言ったのち、「じゃあ」とわたしに告げて電話を切った。

なんだか、無性に寂しかった。

ひとりぼっちだとなぜか思ってしまった。大学のサークルの仲間に連絡する気も起きなくて、せまいワンルームのアパートで涙がこぼれてきた。彼氏に放っておかれたくらいで大げさだと思う。けれど、当時の私は、なんだか彼氏に裏切られたような気持ちになって、寂しかった。電話越しの彼はすごく楽しそうなのに、私はこうしてひとりでみじめだと、悲劇のヒロインぶっていた。

しかし、その直後、猛烈に腹が立ってきた。なんで、こんなみじめな思いしなアカンねんと、腹立たしくてイヤになった。よし、今日はスーパーでぱあっと食材を買って、家で一人で食べてやる。そう思った。

家から5分ほどの距離にある大きなスーパーに買い出しにいった。唐揚げやマカロニサラダ、カツ丼など総菜コーナーで目についた美味しそうなものを片っ端からかごに入れた。シュークリームとかデザートも入れちゃおう。たくさん買って食べられなかったら明日食べれば良いんだし。とにかく美味しそうと思ったものは買おう。手に持ったかごはみるみる重くなっていった。

ぎっしりと買い込んだスーパーの袋を両手にぶら下げて帰宅した。買ってきた食品を冷蔵庫に入れるまでもなく、もちろん皿に移し替えることなんてしないで、プラスチックパックをどんどん開けて片っ端から食べていった。食べているときは快感で、食べてストレス発散しちゃえばいいやと思っていた。

唐揚げも、マカロニサラダも、カツ丼も、シュークリームも。一心不乱に食べ続け、机の上には空っぽになったプラスチックの容れ物が並んでいた。

その時、急に罪悪感に襲われた。食べ過ぎてしまったことに対しての罪悪感だった。苦しいぐらいに食べ物がつまった胃袋を、どうにかしてからっぽにしないとと考えた。このまま消化したら、脂肪に変わってしまうだけだ。

そう思った私は、トイレで吐こうと決めた。食べ過ぎて苦しい胃をすっきりさせたいという気持ちもあった。けれど、このまま消化・吸収させるとまたデブへの道にすすむだけだと言う意識もあった。

トイレに駆け込んで、とにかく吐いた。右手の人さし指と中指を喉の奥に突っ込んで、ひたすら吐いた。胃液で喉が焼き付くような感覚もあった。唾液も口からこぼれてくるし、涙もこぼれてきた。悲しくてというよりは、吐き出す行為自体が苦しかった。

20分くらいトイレで吐き続けた。苦しかったけれど、全部吐き出しきったと感じた瞬間、妙に心が晴れやかになってすっきりした。はち切れんばかりの胃が空っぽになってすっきりした、というのももちろんあった。けれど、たくさん食べているときの快感と物理的に吐き出したことの爽快感と、満足感すら心に芽生えていた。

食べて吐き出せば、太らないし、すっきりするんだ。

そんな風に思った私は、そのときから摂食障害のひとつの症状である「過食嘔吐症」たくさん食べて、吐き出すという行為に没頭するようになっていった。

18歳の冬に発症したこの症状は、かなり厄介だった。28歳で結婚したのだけれど、結婚後も夫が仕事に言っている間、食べて吐き出すという行為をやめられずにいた。何がきっかけで、食べて吐くことをやめられたのかははっきり分からない。37歳のいまでは、過食嘔吐の症状はあらわれない。けれど、自分自身が思っていたより食べ過ぎてしまったり、うまく消化できず胃が苦しいと感じるときは「吐いた方が楽だな」と判断してさっさと吐き出すこともある。(これは胃が抱えている問題もあるのだけれど、また別の話だ)

食べ物を吐き出す行為は、かなり罪悪感がある。けれど、手っ取り早いストレス解消法だと気付いてしまった私は、繰り返し行った。食べて吐いてしまったことに対するストレスも溜って、また繰り返す。悪循環だったけれど、だれにも相談できなかった。

離れて暮らす家族には、これ以上妙な心配をかけさせたくなかったし、大学のクラスメートにも、もちろん彼氏にも言い出すことなんてできなかった。

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