見出し画像

数字だけでは判断できない、ECサイトM&Aに必要な視点

スモールサイズのM&Aが活発になるにつれ、Webサイトを売買する、いわゆる「サイトM&A」も盛んになってきました。多くはキュレーションなどでアフィリエイト収入を得ているサイトですが、ここにきてECサイトの売買も増えています。

以前は、楽天市場のアカウントは、特別な場合を除いて売買はできませんでしたが、今は譲渡しやすい規定に変わっています。それだけECサイトの譲渡ニーズが増えてきているということです。

ECサイトと言えど、立派な事業譲渡です。その価値を計る基本は、どれだけ利益を上げているか、です。しかし、他の事業にはない、EC(通販)特有の事情も絡んできます。数字だけでは判断できないポイントを、整理しましょう。

1.顧客リストが手に入るか

そんなの当然、自社のものだと思いますよね。しかし、例えば楽天市場では顧客リストは楽天のものです。広告を出して集客して、自社商品を買ってくれた人の情報だからといって勘違いしてはいけません。自社のものではなく楽天のものです。国内のECモールということで、No.1の楽天を例にしていますが、他のモールも概ねそうだと思います。

自社のものでない以上、顧客リストにメルマガを送るにも、料金が発生します。そして、モール外に流出する外部リンクも貼れません。なぜなら、そのリストはモールのものだからです。

仮に同じ商品、同じ売り上げと利益だった場合、自社サイトのECとモールECとでは、そこが圧倒的に違います。事業価値に差が出るのは当たり前です。企業にとって、生きた顧客リストは命です。それがあるのとないのとでは、バリュエーションが倍くらい違っても不思議ではありません。

2.在庫が必要か

通販ですから、通常はある程度の在庫は必要です。しかし、仕入れ先と良好な関係にあったり、場所が近かったりすると、ほぼ受注発注の形で通販を回していける可能性もあります(実際、当社のクライアントもその形です)。

在庫を抱えるなら、戦略的にやるべきです。「いつか出るだろう」で仕入れると、ロクなことにはなりません。私は、可能な限り在庫を抱えなくてもいい通販を推奨します。在庫勝負のような業界は、リスクが高い分、事業価値としても低くなりがちです

3.梱包しやすいか

通販は、バックヤード業務が半分以上です。中でも、商品の梱包や発送業務は、思った以上に時間と手間を取られます。そこに時間がかかればかかるほど、通販の収益を圧迫していくのは当然です

小さな定型サイズで、箱は一種類でいいような場合は、受注数が多くても比較的短時間で作業できますが、様々な形状やサイズがある場合は、それなりに時間がかかってしまいます。どんな業種でも人手不足の今、バックヤード業務に掛かる手間は、極力少なくしたいものです。

4.値段の割に重すぎたり大きすぎたりしないか

ECで、ユーザーが常に重要視するのは送料です。私は個人的に、送料はかかった分だけ払うのが当然と思っていますが、世のECを見ていると、送料は一律だったり、送料無料ラインが設定されていたりします。

マーケティング施策として、送料無料ラインはいいとしても、一律だと損することももらいすぎることもあるわけで、少なくともそこが「どんぶり勘定」になってしまいます。

そして、重量が重い商品が混じる場合は、一配送に掛かる送料も高くなります。商品単価もそれなりに高く、利益率もいい商品であれば問題はないかもしれませんが、そうではない商品の場合、その送料を他社との競争のために一律にしたりすると、結構なマイナスになる場合もあります。

5.需要の伸びは見込めるか

ECは全体的に「上りスカレエーター」ですが、その中でも商品によって成長、成熟、衰退の各ステージがあります。例えば、オリジナルブランドのアパレルなどは、芸能人の誰かが着て瞬間的に人気が過熱する時がありますが、大体長くは続きません。あるいは、一時的にブームになったグッズなどは、参入しようとしたらもう下火ということもあり得ます。

流行に左右されず、一定の需要が今後も見込める商品か、今後継続的な伸びが期待できる商品か。それ以外は、事業としての価値はどうしても一時的なものになってしまいます。

6.参入障壁はあるか

取り扱いメーカーが、新規取引を制限している場合や、取り扱いに何らかの許認可が必要な場合など、事業としての価値は上がります(ただし、事業譲渡の場合は許認可は引き継げないので、注意が必要です)。

特に有名メーカーは、ECでの取り扱いを制限したがる傾向にあります。誰でも取り扱いができる状態だと、価格もブランドイメージも瞬時に崩れてしまう危険性があるからです。そんなメーカーとの取引ができるECサイトは、それだけで事業価値は上がります。

”ゼロイチ”リスクを乗り越えるM&A

私はこれまで、自社ECの売却や他社ECの仲介などで、何度もECサイトのM&Aを経験してきました。自社ECはすべてゼロから立ち上げたものでしたが、いずれも開始1年で億越え(ひとつは3億、ひとつは1億)の売り上げに成長させ、売却しました。

どんな事業でもそうですが、ゼロから立ち上げるときに最も苦労します。ECは、それ自体参入障壁が低いものですが、ゼロから少なくとも事業価値のある年商数千万レベルまでもっていくには、時間も労力もかかります。

M&Aは、そこをスキップできるのが最大の魅力です。そして、私のように、ECを立ち上げて、ある程度軌道に乗せた後に売却する人は、思いの外多いのです。他の事業との兼ね合いや、人材不足でこれ以上できないとの判断など、理由はまちまちです。

上記のように、売上、利益だけでは見えない、EC特有のポイントがあります。これらを頭に入れて、ぜひECという「上りエスカレーター」に乗ってください。起業を考えている人や、リスクヘッジのために事業の多角化を検討している会社は、ECはぜひ検討に加えるべきだと思っています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?