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日本発祥の菓子パン「メロンパン」は伝統食品と言えるのか。伝統食品の定義は?

バンドン工科大学のMBAのマーケティングの授業で、外部講師を招いてお話を聞いていたときの話です。
その方はバンドン工科大学のMBAの卒業生ですが、建築家でもありデザイナーでもあるので、デザインを絡めたマーケティングの話が中心でした。

ユニクロと浅草のコラボの実例が出てきて、この写真を映し出し、「このお菓子は日本の伝統食品(Traditional food)でしょ?」と聞かれました。

以下サイトから引用(Timeout)
https://www.timeout.jp/tokyo/ja/news/newopen-uniqlo-asakusa-042721

「これメロンパンですよね。伝統食品ではありません。」と答えたら、講師の方はとても意外そうな顔をしたのです。

わたしもふと、メロンパンが伝統食品ではないとしたら、どこからが伝統食品なんだろうか、定義はあるのだろうかと気になりだしました。
あと、Traditional food=伝統食品と短絡的に解釈してよいものかも分からなくなりました。

インドネシア料理やお菓子は中国、オランダ、日本の影響を受けていて、ご当地グルメや伝統料理といっても純粋のインドネシア料理ではないものが結構まじっています。
また、古いかどうかの基準でいえば、おそらくメロンパンの歴史は相当に古く、インドネシアの伝統料理と肩を並べるくらいの古さかもしれません。

そもそも日本の伝統食品にしたって、多くは海外の影響をたぶんに受けています。
味噌、醤油、豆腐、うどん、お茶、からすみ、なれずしなどは中国発祥の食品です。米をはじめ多くの作物は海外からやってきました。
長崎の卓袱(しっぽく)料理はオランダ、中国の影響を受けていますし、明太子は韓国が元の食品です。

こうなったら権威のありそうなところが何と言っているかだと思い、定義をいろいろ調べました。いろいろと分かったのでご報告します。


1.農林水産省の定義

選定基準として以下7つの項目に当てはまる食品としてます。

1.加工食品であること
食品表示基準の加工食品に該当すること。
2.入手ができること
現在、市場にて流通している加工食品であること。国産消費拡大、食文化保護継承への貢献を念頭においた上で、現在入手可能な加工食品。なお、入手可能時期が限定的であっても可。
3.地域性があること
土地の風土や歴史・風習の中で、又は、その土地で生まれ、個性を活かしながら独自の食材や製法に則り創意工夫され、地域に根ざした食品であること。
4.伝統的な製法又は保存技術を用いていること
地域で実践されてきた伝統的な製法、又は保存技術(乾燥、発酵、塩蔵、くん製など)を用いた食品であること。現在は機械による大量生産が行われている食品であっても可。
5.歴史性があること
世代を超えて受け継がれ、その土地で育まれ食されてきた食品であること。原則として、その地域で戦前より継承され、現存する食品とする。(主として機械化による大量生産以前に生み出されたもの)。上記を満たさずとも、歴史的に残すべきと考えられる食品も可。
6.持続性(公共性)があること
地域の誇りや伝統的な文化としての保護継承への取組が確認できること。また地方自治体や関連団体が持続的な発展を支援する情報発信(Webサイトまたは冊子等)に継続的に努めていることが望ましい。
7.輸出可能であること
インバウンド、越境EC・輸出拡大を踏まえ、輸出可能な加工食品であること。

農林水産省にっぽん伝統食図鑑より引用

官僚が作った定義らしく隙がない出来になっています。税金を使っている以上、文句を言ってくる人たちに対応しなければいけませんからね。
サイトには定義を作るにあたって参考にした文献まで載せています。

この定義からは「地域振興」「輸出による産業育成」「経済インパクトが見込めること」という純粋な伝統食品の定義とは外れた農林水産省の意図が感じられます。
ちょっとバイアスがかかっているように感じました。勝手なことを申し上げ失礼いたします。わたしも経済インパクトを考慮すべき派なので、農水省の案には賛成です。

2.日本伝統食品研究会の定義

設立の趣旨に書いてある熱い言葉を読んでみると、伝統食品の名をかたった偽物が出てきていることを憂い、このままでは伝統の技が廃れてしまうことを恐れ、保護および記録するために作られた協会ということがわかります。

伝統食品は、特定の誰かがつくり出したものというよりも、多勢の人びとで時間をかけ、いわば磨きをかけて後代に遺されてきたもの。
農産、水産等を問わず、伝統の名を冠した食品が数多く市販されているのは確かですが、外観体裁は似ていても、本来の姿からはほど遠いものが少なくありません。
私たちは、伝統食品の品質・技術を再現させ、日本人の健全な食生活に寄与してきた過程の中で先人が到達したわざをできるだけ解明し、記録し、報告して、ひいては現代の食品加工技術にも寄与したいと考えた次第であります。

設立の趣旨からポイントを抜粋

伝統食品の定義は、
①特定の誰かがつくり出したものというよりも、多勢の人びとで時間をかけ、いわば磨きをかけて後代に遺されてきたもの、
②先人が到達したわざがあること、
③真の技法が省略されたりなおざりにされていないこと、
と読み取れます。

3.ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食;日本人の伝統的な食文化」の定義

農林水産省のサイトに、申請内容をまとめたページがあり、そこには申請書類の和訳もつけられています。

南北に長く、四季が明確な日本には多様で豊かな自然があり、そこで生まれた食文化もまた、これに寄り添うように育まれてきました。

このような、「自然を尊ぶ」という日本人の気質に基づいた「食」に関する「習わし」を、「和食;日本人の伝統的な食文化」と題して、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。

「和食」の4つの特徴
(1)多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
日本の国土は南北に長く、海、山、里と表情豊かな自然が広がっているため、各地で地域に根差した多様な食材が用いられています。また、素材の味わいを活かす調理技術・調理道具が発達しています。

(2)健康的な食生活を支える栄養バランス
一汁三菜を基本とする日本の食事スタイルは理想的な栄養バランスと言われています。また、「うま味」を上手に使うことによって動物性油脂の少ない食生活を実現しており、日本人の長寿や肥満防止に役立っています。

(3)自然の美しさや季節の移ろいの表現
食事の場で、自然の美しさや四季の移ろいを表現することも特徴のひとつです。季節の花や葉などで料理を飾りつけたり、季節に合った調度品や器を利用したりして、季節感を楽しみます。

(4)正月などの年中行事との密接な関わり
日本の食文化は、年中行事と密接に関わって育まれてきました。自然の恵みである「食」を分け合い、食の時間を共にすることで、家族や地域の絆を深めてきました。

農林水産省のサイトより引用

ご参考まで、申請書類は以下アドレスになります。

https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/ich/pdf/nf_wayakun.pdf

わたしは和食が無形文化遺産登録されたことは知っていましたが、どういう内容で登録されたのか今回初めて認識しました。
SDGsをかなり意識した内容に感じます。無形文化遺産に認定された時期はSDGsの設定より早く、時代を先取りしたのはさすがです。

日本人の特徴である自然との調和がよく表れている点を強調して和食を申請しています。
具体的には①地域に根差す(地産地消)②素材をいかす、③健康的で長寿の国ニッポンに貢献、④四季を表現し楽しむ、⑤行事と結びつきによる家族を大切にするところ、が特徴として挙げられています。

技術面だけでなく、日本人の心が現れている食品を和食であり伝統食だといっていると解釈しました。

結論:メロンパンは伝統食品にはあたらない

どの定義に当てはめても、伝統食品にはなりません。

ただし、経済産業省や観光庁の見解も聞いてみたいところですが、「世界遺産=和食」をてこにインバウンドを増やすという側面から見ると、もう少し日本の伝統食の幅を広げた方がよいと思います。
外国人が”Traditional food”という言葉からイメージする日本食の範囲を、日本の専門機関が定義する伝統食品と同じする必要はありません。
漬物や発酵食品ばかりでは、外国人にはハードルが高すぎます。

わたしの考える伝統食品とは(新定義:インバウンド促進用)

例えば、大阪の粉もん文化は伝統と言ってもいいんじゃないでしょうか。お好み焼き、タコやきは伝統芸です。
他にも地域色があるものとしては、お好み焼き以外に、餃子、唐揚げ、焼きそばもいいですね。
餃子や焼きそばは、インドネシアでも通じる言葉になってきています。

あと海外発祥の料理でも日本独自の進化を遂げたものとして、ラーメンとカレーがあります。これらも海外にどんどん拡大しており、外国人は日本の伝統料理と思っているかもしれません。

わたしのTraditional Foodの定義は、①地域色があること、②地域の人たちに親しまれ実際に消費されていること(観光用に作ったものではない)、③独自性があることの3点になります。
郷土料理、ご当地グルメが近いかもしれません。

わたしが旅行者であれば、地方に出かけて行って、その場所に住んでいる人と同じものを、同じ場所で食べてみたいです。
そして、「この料理はとてもおいしいですね。」と地元の人たちに伝え、郷土に誇りを持ってもらいたい。

またいつもの妄想モードに入ってしまいました。
ながながと妄想におつきあいいただき大変ありがとうございました。

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