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学生街の映画館

大学の近くに2本だて1000円で昔の名作を上映してくれる映画館があった。
私の勝手な大学生のイメージは、映画、文学、音楽などを喫茶店で語り合うという高尚なもので、私も大学生になったからには映画のひとつでも批評できるようになりたいと思っていたのである。

私の夢をかなえるのは簡単だった。クラスメイトに映画好きがおり、彼からそれならばとこの映画館を紹介されたのだ。通学途中に見かけていたあの映画館だったのかと行ってみて気づいた。

一人で映画を見に行くのは多分初めての経験だったが、いかにも映画通で通い慣れている人間ですといった風を装いチケットを買って、座席もこだわりがある感じに選んで座ったのをよく覚えている。
若者にありがちな、大人になりかけで何かと背伸びをしていた頃だ。

この時に見た映画がなんであったかはよく思い出せない。
ただ、ふらっと映画館に行き気軽に映画を楽しむ大人になったのだという、ちょっとした達成感のようなものを感じながら帰り道を歩いたことは記憶している。

その後は自堕落な学生生活の中で、二日酔いのまま見に行って途中で寝てしまったり、同じ映画を何度も観てその度に号泣したり、私の学生生活に文化的な彩りを与えてくれた貴重な存在だ。

社会人になってしばらく東京を離れて暮らしていたが、東京勤務になって戻るにあたって住んだのは西早稲田。あの映画館は昔と変わらない様子でそこにいた。
それから週末になるとこの近所の映画館に通った。その時に見た映画は、学生時代に見た映画がよく思い出せないのと対照的に不思議とよく覚えている。

今回思い出話を書くにあたってネットで調べたら、あの映画館はしっかり稼働していて、ホームページでは上映スケジュールや混雑状況が見られる。

そして、ウィキペディアにはこの間に何があったのか詳細に書かれていた。
2002年に一度閉鎖されたとか、改装され席数を減らしたとか、ナイトショーをしたり大学と組んでプロジェクトものをやったり、新しいことにもいろいろチャレンジしているようだ。
なんだか昔の友と卒業以来初めて再会して、これまでにあった出来事を語りあったような気がした。

お前にも色々あったんだな。でもお互い元気で良かった。




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映画館の思い出

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