見出し画像

資本主義は望ましくない仕組みなのか? MBAでの議論を通じて考えたこと

倫理(Ethics)の授業は、資本主義(Capitalism)について考える所からスタートしました。
最初にYouTubeの動画(2時間半)を見た前提で議論がスタートしました。

倫理の授業という性質上、また偏った映像(負の側面)を見ているので、資本主義の負の側面について意見がたくさん出ました。

わたしは今でこそ資本主義を支持していますが、学生時代は正直懐疑的でした。アメリカが作った価値観やルールを腹立たしく感じていましたし、日本は中国やアジアの成長を助けて、アジアの価値観を確立すべきなんだとか、若気の至りで浅い考えを持っていました。80年代後半から90年代前半にかけてです。
それが、資本主義の最も原始的な形態ともいわれるベンチャーキャピタル業界に入って180度考え方が変わってしまいました。20代でシリコンバレーに駐在した影響も大きかったです。アメリカに対する誤解や偏見が消えました。

こんな紆余曲折を経ているので、若いクラスメイトたちの意見もわからないではなかったです。


競争社会は悪なのか?

まずは悪だという意見がたくさん出ました。
過度な競争社会は不正を生み出すとか、格差を生み出し社会が不安定になるとか、大企業が競争がより有利になるように世の中をコントロールしようとするとかですね。

一方で、競争はモチベーションを生み出すことにもつながり、競争相手を出し抜こうとすると、結果として消費者にはプラスになるという意見も出ました。

競争を負の側面から見るか、正の側面から見るかの違いだという結論にして次に進みました。

わたしは発言しませんでしたが、一定のルールの元での競争は健全で、健全でないのであればルールを変えればよいだけだという考えです。
シリコンバレーを見たら、多くの人がわたしのように考え方が変わるでしょう。

会社(Corporation)の役割はなんだろうか

次に、じゃあ会社(corporation)の役割はなんだろうかという議論になったら、こんな意見が出ました。

利益を出して税金を払う、雇用を生み出す、事業を拡大して規模を追う、倒産しないで少しでも長く存続する、地域社会に貢献する。
わたしは黙っていようと思いましたが、1番大事なところが抜けているので発言しました。「イノベーションを通じて世界をより良く変えること」
地域社会の貢献と同じと思った人がいるかもしれませんが、スケールがまったく違います。

地域社会の貢献は企業メセナです。利益の一部を地域に還元するだけの話で、世の中を変えたりはしません。
起業家の夢を聞いてほしいものです。

イノベーションにもっとも大事なのは自由な競争です。
競争は悪ではない。自由な競争が活発なイノベーションを生み、はぐくむのです。競争の善悪の議論のところでは、議論を錯綜させてはいけないので黙っていましたが、うずうずしていました。

Youtubeの論調やクラスメイトが主張する競争はよくないというのは、どちらかというと大企業が自らの地位を守るためにルールをいびつにしたり、世の中にプレッシャーをかけて、自由な競争を阻害しようとするときにむしろ起きています。
アメリカでいえば東海岸のロビーイングの世界です。

また、わたしの考えでは、世の中をサステイナブルにするのに企業が貢献するのは正しいですが、企業自体がサステイナブルになる必要はありません。企業は長く生きることを目的にしてはいけません。長生きはあくまでも結果です。
わたしが日本アジア投資に入社したとき、よく日本のベンチャーキャピタルの父である今原さんに聞かされていました。
「創業30年ですとか、あるは100年とか自慢している企業があるけれど、30年も経つのにたったこれしか成長していないんですか?という話ですな」

考え方がベンチャーキャピタルに偏っているので、おかしく聞こえるかもしれませんが、外部から成長資金を集めようとか、成長して上場しようという会社であれば、会社の歴史が長いかどうかより、どれだけ成長できるかなんです。
自己資金だけで細々と事業を行うのであれば、無理に成長する必要はないですし、一族経営で保守的に運営すればよいです。1つの正しいやり方です。

長生きすることを目的にした会社なんて基本ありません。わたしが知る限り1社だけです。その会社の創業理念は「絶対につぶれないこと」です。
大阪にあるドウシシャという会社です。

最初ここの役員から理念を聞いたときは衝撃を受けましたが、これくらい振り切っていればむしろ気持ちいいですね。
よく聞けば、絶対につぶれないことを目標に、実際には競争力を高めていこうとしています。

企業倫理(Business Ethics)とはなにか

資本主義の世の中で、適切な企業倫理とはなんだろうかという議論に移りました。
倫理って難しいんですよね。時代や文化によって変わっていくのと、明文化されずふんわりしているところもあります。極端にいえば一人一人違う倫理の基準を持っている可能性があります。

Norm(規律)に反しないとか、Rule(法律)違反がないという意見も出ました。

授業ではアメリカの教授が提唱している理論も出ましたが、そんなものは近江商人の ”三方よし” に言い尽くされています。
有名な伊藤忠の経営理念ですね。

わたしの新人時代の上司である川分(かわけ)さんがフューチャーベンチャーキャピタル(東証:8462)を1998年に創業したときの理念でもあります。経営者が変わってもこの経営理念は残っています。
伊藤忠が「三方よし」を経営理念にしたのは2020年なので、川分さんの方が20年以上早いことになります。
ちなみに川分さんは近江の人です。

実はこの三方よしという概念は古くからあったものの、言葉自体は1988年に滋賀大学の小倉教授が「近江商人の経営」という本に言葉として出したのが最初と言われています。
結構最近の話なんですよね。
ご興味のある方は、伊藤忠の役員と滋賀大学教授の対談をお読みください。

英語の論文がなかったから世の中に広まらなかったのか、非常に悔しいですね。
アメリカ人の教授たちには、「お前ら後から言い出しただけだろ」と言いたい気分ですよ。

アメリカ人の企業倫理は有名なマックス・ウェーバーの「The Protestant Ethic and the Spirit of Capitalism(邦題:プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神)」です。
カトリックはお金を儲けることが悪だったのが、プロテスタントはむしろ神の意志に叶うとなったのが転換点だという議論です。ざっくりですいません。
この本はとてもおススメです。わたしの「海外赴任、留学予定の人たちにおススメの本」リストにも入れています。
わたしは娘にあげてしまい、今手元にありません。
ウェーバーがイスラムの倫理についてどう書いていたのか確かめたかったのに。。書いていたはずなんです。知識不足で間違いだらけだと批判を浴びているので、今ならどう感じるか確かめたかった。

わたしの結論

今時点で資本主義にかわる有効な経済システムは存在していないと思います。
際限のない競争、後先考えずに徹底的に資源を使い果たそうとする、広がり続ける格差、それに伴う社会不安、すべて正しい指摘です。

資本主義の負の側面は、このシステムにのっかる人間の倫理観の問題なので、ルールを変えたり社会的に批判してよい方向にもっていくしかありません。

わたしは欧米人の根本的な考え方の問題な気がしています。彼らが植民地でやったことを見れば、何百年も前から彼らの精神構造は変わっていません。
とどまることを知らない欲望、それを達成するために手段を選ばない(要は倫理観のかけらもない)ところは、彼らの本質じゃないかと思ってしまいます。
自分たちが贅沢をするために、弱者を徹底的にたたいて搾取する、この精神構造の問題です。

全員がそういう考えではないと思いますが、未開の地で乗り出していくような野心家は多かれ少なかれそうだったのでしょう。

彼らを教育によって変えていくことも必要と思いますが、そういう人たちが資本主義社会の競争に参加している前提で対応を考えることが大事だと思います。

MBAの学生は野心家が多いので、こういう理論を教え込むのは大事だと思います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?