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逢えない日

家に帰ると、姉が帰ってきていた。


「れいちゃんーー!久しぶり!もう高校生だね。これ、入学祝い!」

「ありがとう。開けていい?」

「もっちろん!」


CHANELの袋に入っていたのは、

薄いピンクのグロス。

「ほら。れいちゃんももう高校生だから、グロスくらいからいいもの使わないと!」

「ありがとう。」

「なんか、タバコ臭くない?まさか・・」


・・・!


「あー、さっき友達とファミレス入ったら、喫煙席が隣でさ。臭い移ったっぽい。まじ最悪。」

「やだねー。シュッシュしておきな!」

「うん」


姉は鋭いところがある。

たまに、見透かされてるんじゃないか、と思うことがある。

それはやはり姉妹で、姉が10も上だから…?


久々に家族4人で食事をして、両親も姉も楽しそう。

この場で、私が実は不登校で、タバコを吸ってお酒飲んでる毎日だよ。

と言ったら、どんな顔をするだろう。


そんなことを考えていた。


「私、明日も早いし、テスト勉強したいからもう部屋行くね」

「まぁ!えらい!私よりいい大学行くかもよ!ママ!」

「そうね。期待期待!!」

「やめてよー。じゃあね。」


はぁ・・疲れた。

そっか。本当に学校に行っていたら期末テスト前か。

どうしよう。

このままだと退学?バレるよね。

テストだけ受けに行こうか・・

どうしよう・・・


誰かに相談に乗ってほしいのに、、

本当の私を知ってほしいのに。助けてほしいのに。


あきとさん・・・

今の本当の私の一部を知っているのは彼だけなのに。

逢えない。

今何してるんだろう。



次の日もその次の日も、

彼と出会った場所で、彼と出会うことはなかった。


テストだけ、受けに行くか。

♪〜♪〜♪〜

母から電話だ。

「ちょっとれいちゃん!!あなた学校行っていないんだって!?

今先生から電話きて、期末テスト受けないと留年する可能性もあるって。

どういうことなの!?今どこにいるの!毎日どこ行ってたの!

すぐ帰ってきなさい!!!」


はぁ・・・やっぱりばれたか。

あんなにバレることを恐れていたはずなのに、

変に冷静な自分がいる。

もう正直に話そう。


点けたばかりのタバコを消して、駅へ向かった。


「ただいま。」

「れいちゃん!!」

「お姉ちゃん。まだいたの?」

「ママと話す前に、私と話そう」

「いいよ。」


私は、これまでのことを全て姉に話した。

学校に行かなくなった経緯。

タバコ・お酒

もうどうしていいか分からないということ。

あきとさんとのこと以外は全て話した。


「そっか。実はお姉ちゃんもね、高校生のとき、受験勉強に疲れて、予備校行くふりしてタバコ吸ったり、ゲームセンターで遊んだり、お酒飲んだりしたことあったなー。なんのために勉強しているのか分からないけど、ママは期待しちゃってるし。私の人生、ママのためにあるのかなって思った時期があったよ。」

「そうなんだ…全然気づかなかった…」

「私たちさ、せっかくのたった二人の姉妹なのに、全然本音で話してこなかったね。ごめんね、れいちゃん。」

「お姉ちゃんが謝ることじゃないよ。歳も離れてるし、しょうがないじゃん」

「ううん。きっとれいちゃんもこうなる気がしてた。ごめんね。気づいてあげられなくて。でも、ママも話せばわかる人なの。いい大学に入ってほしいと思うのも、私たちのためでもあるのよ。

それが私は今わかる。同年代と比べて、大学がいいってだけで、お給料も全然違うし、周りが見る目も違う。あのとき、何が何だか分からないまま突っ走ったけど、やりたいことも特になかったし、よかったなって思ってる。

れいちゃんは、やりたいことあるの?」

「・・・やりたいこと。ないな。考えたこともない。自分の将来なんて。」

「そうだよね。まだ高校生なんだからそれが普通よ。私たちが考えられないことを、ママは不便がないようにとりあえず導いているだけ。もしれいちゃんにやりたいことがあるなら、ママはきっと聞いてくれるよ。でもないなら、とりあえず先が困らないようにすればいいんだよ。もし途中でやりたいことが出てきたら、勉強なんてやめて、すぐにシフトできるんだから。」

「お姉ちゃん…ありがとう。本当にありがとう。私、お姉ちゃんがいてよかった。」

肩を震わせて、声を我慢して、過呼吸になるんじゃないかってくらい泣いたのを覚えている。

その日は、姉が母に話し、母とは次の日に話すことになった。


「・・おはよう」

「れいちゃん、おはよう。朝ごはんは?パン?ごはん?」

「ママ…パンにしようかな…」

「おっけい!今日も学校いかないでしょう?いかなくていいよ。れいちゃん、毎日顔を合わせているのに、気づかなくてごめんね。

生きていてくれて、ありがとう。

これからのことは、ゆっくり考えましょう。」

「ママ、本当にありがとう、ごめんなさい。こんな私でごめんなさい。」

「何言ってるの!まだまだ人生が長いんだから!老後はよろしくね!!子供は社会に出るまでは親に迷惑をたっくさんかけていいの。困らせていいの。一緒に考えればいいの。だから、心配かけないように、とか今から考えないでね」

「うん・・・わかった。ママ、私、期末テストは受けるよ。来週の月曜日、学校行って受けてくる。」

「大丈夫なの?無理しなくていいのよ。」

「うん、大丈夫。自分のためだもん。」

「わかった。れいちゃん、成績ビリかもね!笑 それはそれで記念だ!」

「やめてよー、リアルすぎるよ!!」

「ははは〜!今日は?家にいるの?」

「う〜ん、中学まで通ってたジムあるでしょ?そこに顔出してて。今日も行ってこようかな」

「あら、いいね!体育の授業だと思って行ってきなさい!」

「うん、ママ。本当に本当にありがとう。私、頑張る」

「自分のために頑張るなら、頑張れる所まで頑張りなさい。私はいつでも応援してるからね。お姉ちゃんも、パパも。」

「ありがとう。」

「じゃっ、ご飯作るね!ママと食べましょう!」

「うん!」


家族って偉大だ。

そんなことに、私は気づかなかった。

最悪だと思っていた事件なのに、その事件をきっかけに、

私は家族の温かさに気づけた。

もう振り返らない。前へ進もう。


それから、私はジムへ向かった。

いつものマンションには寄らず、ジムへ。


目の前に、あきとさんがいることも気づかずに、

ひたすら体を動かした。

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