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雨の日に聴きたい曲

“Just the Two of Us”との出会いはラジオだった。
グローヴァー・ワシントン・ジュニア & ビル・ウィザースという片仮名で書くとかなり長いクレジットに「クリスタルの恋人たち」という洒落た邦題がついている。
そんな前情報なしにいきなり耳に入ってきたのだ、あの可愛らしいイントロが。

英語が不得意な私でもサビの「二人で空にデカい城築こうぜ!」は分かった。絶望的な状況の恋人達がそれでも明るい未来を夢見ている。切ない設定が脳内でムクムクと膨らんでなんともセンチメンタルな気分になったものだ。
以来、雨の日にはこの曲を思い出す。窓ガラスに描かれるランダムな水玉、淡いグレーのどんより雲。閉塞の後には青空が戻ってきて、ともすれば虹も見られるだろう。いつかは必ず晴れるのだから。

久しぶりに立ち寄った写真屋さんで現像を注文する列に並んでいたらこの曲が流れてきたことがあった。知ってる、この曲知ってる。大好き。胸の中で一人はしゃいだ。あの日もちょうど雨で、だからこその選曲だったのかもしれない。
お気に入りの曲があるというのはなんだか、自分の居場所が現実ではないところにもう一つできたように私は感じる。辛い時や嬉しい時、その曲を心の中で流しては寛ぐ。慰めであり喜び、またはそれ以上の何かだ。

さて、恋人達はどうなったか。空に築いたお城でhappily ever afterなのか。はたまたそんな無理な注文は建てられっこなかったのか。
この記事を書くために怖々調べてみた結果、twoは恋人ではなく「トリニダード」と「トバゴ」のことを指すと判明した。曲の共同制作者ラルフ・マクドナルドがインタビューで語っているので確実な情報である。
夢が引き裂かれた……愕然としたが、トリニダード生まれというマクドナルド氏は二つの島がうまく手を取り合ってやっていくようにと願ったのだろう。
私はラブソングが好きだけど、世の中で素敵なことは恋だけじゃない。それに、恋人として解釈するに足る普遍性が歌詞にあることにも気付かされた。”Just the Two of Us”、やはり雨の日に聴きたい名曲だと思う。


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