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【エッセイ】人間の役がやりたかった

幼少期、お遊戯会という名の演劇発表会があった。

年少さんから小学校4年生まで続いたそれは、私の中でいまだにハッキリとした記憶として残っている。

特に思い出すのは保育園の時のこと。

なぜって、母親が張り切ってビデオカメラを回していたからだ。
当時、ビデオカメラ片手に我が子を撮りまくっていたのは、おそらく私の母だけかと思う。


4歳の時の演目は『桃太郎』。
出てくるキャストは、桃太郎・おじいさんおばあさん・犬・猿・雉・鬼だった。
23人いたので、犬は3匹いたし、猿も雉も大体それくらいの人数いた。

中でも多かったのは鬼だ。

何人いるんだというくらい多かった。



私が演じたのは鬼だった。ただの鬼じゃあない。大将の鬼だ。




・・・・犬になりたい人生だった。
4歳にして、クラスで1番大きいとこうなるのかと悟ったものだ。

ぞろぞろ引き連れて出てくる鬼たち。
ビデオカメラで撮影していた母は大笑いしていた。



5歳の時の演目は『グリーンマントのピーマンマン』。
ピーマンがヒーローとなってバイキン達をやっつけるお話だ。


にんじん、大根、きゅうり、ナス。
いっぱいの野菜たちと主役のピーマン、そしてバイキン。
そもそも他の同級生も人間ではないわけだが、私は野菜ですらなかった。



演じたのは牛乳だった。

正確に言えば、牛乳パックだ。

そう。1番大きかったから。
牛乳パックに身を包んだ私。5歳ながら、なぜだ?と真剣に考えていた記憶がある。


やっぱり母は大笑いしながらビデオカメラを撮っていた。


6歳の時の演目は『ピーターパン』。
キャストはピーターパン・ウエンディ・ジョン・マイケル・タイガーリリー・リリーの父・人魚・フック船長・ロストボーイズなど。


私が何を演じたか、分かるだろうか。
ここに書いていない唯一のメインキャスト。


そう。ティンカーベルである。



なぜ。なぜなの。今まで1番大きい役だったじゃないの。

どうして1番小さい・・・というか、小さいとも言えないほど極小の妖精役なの。



ピーターパンも、ウエンディも、ジョンもマイケルも、人数が多いからダブルキャストで行われた劇。



私だけぶっ通しで出た。本当にぶっ通しで、だ。ほとんど舞台にいた。

先生はすごく真面目な人だったのになぜこうなったのか、いまだに疑問に思ってる。


劇の最中、私はずっと怒っていた。というかずっとムスっとした表情をしたまま出ていた。


母はというと「ちゅんぺ、笑って!笑って!」と言いながら大笑いしていた。



これが私の3年間で演じた役だ。


人間を演じたい幼少期だった。





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