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読書感想『ソウルドロップ奇音録 メモリアノイズの流転現象』※ネタバレ注意

今週読んだ本は(読み終わって三日くらい経ってしまいました。)著作上遠野浩平のソウルドロップシリーズ第二巻『ソウルドロップ奇音録 メモリアノイズの流転現象』でした。

前作はロボット探偵との凸凹コンビが主人公でしたが、今作は東澱の倅であり、東澱の家から出ていった次男坊のお話でした。
自分では制御できない誰かの過去を見る力を持っている主人公(ブギーポップ・パンドラにも似たような子いましたよね。あっちは未来でしたが。)が、探偵としてある家の離婚騒動を終結させるべく赴くお話であり、大切なものを見失ってしまった一家の過去と未来の話でもありました。

にしてもやっぱり当たり前のように寺月出てきましたね。それにMPLSというブギーポップおなじみの単語も出てきました。アメヤさんはイマジネーターとかの系譜なんですかね。


人によって見ていることや見えることは違う、という事実を意外と生きている我々は意識していないような気がします。当たり前のように自分が見ているものとほとんど同じものを見ていてくれてるんじゃないかと思い込んでいる、特に日本人は察し合う文化が強いからこそ、言葉で言わず何となく通じ合おうとする。そんなことはほとんどできないというのに。

今回の事件はそんな感じの思い込みや押し付け合いや遠慮のようなものによって出来上がった事実を壊すお話であり、家族や奥さんの過去と向き合い、周りの人と向き合うことで唯一の真実を見つけるという話でした。


あとがきでも上遠野さんが言っているように、強烈な思い出という者は細部が欠けて歪んでいる割に自分自身に対しては恐ろしいほど強い思い出として残っています。
自分も小学4年生の終業式のあと、通知表を渡される際に担任の先生に言われた「君は今まで見てきた中で一番曲者だったよ」という言葉を忘れられません。ただ、周りの友達や自分がその時どんな感じだったかは思い出せない。細かな部分では歪んでいて、もしかしたらもっと違う言い方だったのではと思うことも結構ありました。

この作品は多くの人に共感を与えると思います。
顔すら思い出せないけど、言われた言葉は覚えている。YouTubeで誰の動画かは分からないけど、その内容が自分に刺さって抜けない。SNSで見ず知らずの人に言われた悪口や突っ込みが異様に立体感をもって自分に降りかかるなどなど。
そういう誰かの言葉が聞こえ、誰かの世界が見える時代だからこそ、この作品で言われているように、改めて自分というものを振り返るべきなんじゃないかと思いました。


自分の中の大切な記憶、自分を構成して生きた思い出、どれも歪んで細部が欠けてしまっているけれど、今の自分というものを構成していることには間違いがないわけで、なによりそれを信じて生きていくしか我々にはないわけで。
自分の中なんかより他人の生活や意見、他の世界のほうがよっぽどよく見える今の時代こそ、改めて自分の内面と向き合うきっかけをくれる上遠野浩平作品はかけがえのないものとなると思います。


というわけで今週読んだ本は『ソウルドロップ奇音録 メモリアノイズの流転現象』でした。
シリーズものなんでいつか続きが読みたいですが、とりあえずはここで終わりです。
今は一月に発売されたユリイカのpanpanya特集を読んでます。そのあとはモーリス・ブランショのきたるべき書物を読むつもりです。

ペルソナ3Rが終わり次第もうちょっと本に重心を置きたいんですけど、結構フルボイスちゃんと聞いてるせいで時間がかかりそうです。


それでは最後まで読んでくださった方いらっしゃればありがとうございました。
著者Twitter:まがしき @esportsmagasiki

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