見出し画像

「時空を超えて出会う魂の旅」特別編~印度支那⑰~

東南アジアのある地。
出家を経て、戒名「慧光」を私は授けられる。
”巨大寺院”に入門。
「賢彰」率いる兄弟子集団と、波乱に満ちた修行生活を送る。
浮浪少年だった「空昊」と出会う。

外出を終えた慧光は、大老尊師・空昊の小屋へ駆けつけていた。
二人の身の安全だけでなく、和やかに過ごせているか、
気になっていたからである。

小屋近くから、大老尊師の伸びやかな笑い声が聞こえてきた。
自分の姿を見ると、空昊は屈託のない表情で声をかけてきた。
「やあ、光にいさん。どこか出かけてたの?」

「うん、街にな。さあ、大老尊師ときみに食事だよ。」
「わあ、美味しそう。大老さん、今、食事持っていくからね。」

すぐに、大老尊師と空昊は打ち解けていたらしい。
二人の和やかなやりとりを聞きながら、慧光はほっとした。

画像1

賑やかに、空昊は大老尊師にも話しかけながら、食事を始めた。
その様子を見守りながら慧光は、空昊との会話を思い出した。

「あのな、空昊。大老尊師は、業の病をお持ちなのだ。」
「”業の病”?」

「病気で、体が崩れてくるんだ。目も見えなく、よく動けなくなった。」
「そうなんだ・・・。」

「ごめんな、空昊。そんな大変な方のお世話をお願いして。 」
「ううん、ぼく、楽しいよ。大老さん、おもしろいもん。」

「そうだな、大老尊師は素晴らしいお方だ。
 でもな、気になることがある。
 業の病は、きみにうつるかもしれない、恐ろしい病だ。

 だから、お世話をお願いしてよかったのか・・・。」
「光にいさん。
 病気にならない、死なない人はいないだろ。

 ぼくも、その時がきたら、そうなる。
 だから、それがいつだろうと、一緒さ。
 大老さんは、誰かからお世話されることが必要なんだろ。
 それをぼくがやる。それだけさ。」

空昊の言葉は、慧光の心を打った。

空昊はほとんど覚えていないが、
さわりをもつ浮浪少年として生きた今まで、過酷な経験をしただろう。
ここにいると、居所の自由はないが、飢えや蔑みで苦しむことは無い。
病に侵されてはいるものの、叡智に溢れる大老尊師に
近く仕えることができるのは、恵まれていると言っていい。

大老尊師は空昊と、空昊は大老尊師と共に過ごそうとしている。
互いにそう思う、この二人を巡り合わせることができた。
ただそれを、我は喜べばいいのだろう。
「ありがとう、光にいさん。ぼく今、嫌なこと、無いよ。」
空昊の言葉に、慧光は安堵した。

画像2

慧光は一日の大半を、この小屋周辺で過ごした。
大老尊師と空昊とのひと時は、寺院での厳しい生活の安らぎだった。
加えて、二人の身の安全のためにも。

高位にあっても、表立つことが出来なくなった大老尊師を見限り、
病を恐れて、僧達は通常、小屋には近づかない。
しかし、ついに先日、賢彰達は新参者の空昊の存在を嗅ぎつけた。
今のところ目立った変化はないが、予断を許さない。
ここは寺院内とはいえ、誰の眼もない。
業の病である大老尊師を疎ましく思い、その地位に執心する者もいる。
恐れ多いことをする可能性もある。

ある慧光が不在の時。
賢彰の取り巻き数人が小屋にやってきて、空昊と小競り合いとなった。
目に余る振る舞いに、大老尊師直々静止に入ろうとしたところ、
業の病に罹るのを恐れ、狼藉をはたらいていた僧達は退散したそうだ。
さぞ心身傷ついたのだろう、ぐっすりと眠るばかりの空昊。
その傍らで慧光は、大老尊師から事件の経緯を聞き、憤りを感じた。

画像3

その日は、突然訪れた。
近隣の寺院から使いが来訪。
隣国寺院からの査察団が、巨大寺院に到着する旨を告げた。

巨大寺院内、その権威を保つ室礼は常時保たれてきた。
しかし、内部の僧達は内部分裂した落ち着かない状態。
このような状況で、隣国一の寺院からの査察が入るとは、
如何なる計があるものかと、巨大寺院内は騒然としつつ、
歓待の準備を急いで進めた。

報を受け慧光は、大老尊師と静かに語っていた。
慈恵は無事隣国に到着し、自らの務めを果たしたのだ。
隣国の方向へ、二人は深い感謝を向けた。

ありがとうございます! あなた様からのお気持ちに、とても嬉しいです。 いただきました厚意は、教育機関、医療機関、動物シェルターなどの 運営資金へ寄付することで、活かしたいと思います。