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「時空を超えて出会う魂の旅」特別編~印度支那㉓~

東南アジアのある地。
出家を経て、戒名「慧光」を私は授けられる。
”巨大寺院”に入門。
心通う少年、「空昊(空)」、
巨大寺院に訪れた隣国の僧、「碧海」と出会う。

翌日、慧光は碧海尊師に目通りした。
”碧海尊師、隣国に旅立つ前に、我が為しておきたいことがあります”
”ほう、如何なることぞ。”

”我が巨大寺院に来る縁を紡いだ寺院を辿り、地方の里を訪れたいのです。”
”なるほど。遠方なのであろうな。”

”はい、そうです。我は婚礼を断り、家出をして数年以上経っております。”
”そうか。御家族は、仏に導かれた貴殿の行方をご存知ないことだろう。”

御家族、との言葉に、にわかに郷愁が生じた。
郷愁を感じたことは、これまで一度もなかったのに。
色々なことがあった、故郷での生活。
思い返すことも、無かったその生活。
今は理解ができる。
満ち足りたこの瞬間は、その故郷での生活全ても、あってこそ。

これから隣国に発った後は、
二度とこの国に戻らないように思われる。
故郷でのこと、人々を、自分から絶ってしまったまま、命を終えたくない。
自分の過去に向き合うことが、今の自分に必要なことであり、
未来の自分にも、欠くこと無いこととなるのだと思われる。
この時代、遠方への旅は危険や困難が伴っていた。
何かに突き動かされるように、慧光はそれを押しても出かけたくなった。

”慧光殿。御仏の加護あらんことを。
導きにより、貴殿は、故郷までの寺院・街を照らす光となる。
貴殿に、名を贈ろう。”
この地では、人生の節目や大事の前に、改名する習慣があった。
自らは同じだとも、名により、新たなる人生を送る。
さらに大きなことをなし終える人間となると、信じられていた。
「光環」
碧海尊師から、新たな名を賜った。

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光環は、空昊に語った。
「空よ。仏に導かれ、碧海尊師と共に、我は隣国へ行く。」
「へえ、光にいさん、そりゃ、いいね!!」

「~~~御仏の教えを深く知り~~~
~~~~~さらに世にひろめるため~~~」
「?? 難しいこと、わかんないけど。
 よかったねえ。碧海さんと一緒にいれるね、これからも。」

「・・・・・。
 そこでだな、空よ。
 隣国に行く前に、我は故郷を訪ねようと考えている。
 ここに仏縁を紡いだ寺院を訪問しながら。」
「わあ、にいさん出かけるんだ。楽しそう。」


これから今後の空昊の身の上について、
光環なりに長い間考えていた善処を話そうとしていた。
しかし突然の閃きに、言葉を変えた。
そうだ、空昊も一緒に。
「だろ、空よ。一緒に行くか?」
「うん。やったあ!」

これからの旅に浮き立った喜びを見せている空昊に、目を細めた。
旅には危険がつきもの、ここに無事帰ることができるか、
空昊はこの先どうなる、と気負ってばかりいた自らを光環は省みた。
そうだ、きっとこれは、楽しい経験となるだろう。
我に、そして空昊にも。

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実は、すでに定められた日であったのかもしれない。
光環と空昊はその後すぐ、巨大寺院を出発した。
大寺院への先導は、碧海尊師が務めてくれた。

朝霧の中を、皆で歩む。
夜の闇が柔らかく解かれ、空は黄金に輝いていく。
いつか、この肉体を離れる時、このように歩んでいくのであろうか。
満ち足りて、光に向かう、この歩み。
そっと、碧海尊師の魂に囁く。
我は、故郷を訪れ、然るべき日に大寺院に戻ります。
ぜひ迎えも、お願いできますか。

光環殿。もちろんだ。
そして貴殿の帰りまでに、
隣国に向けて出発するよう準備を整えておくぞ。
それから。
我らは、離れることが無い。
過去も、今も、未来も。

そうだ。
あの方と、我は離れることがない。
光環は後にも、この言葉を折々、思い出すことになる。

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大寺院は、あたたかく盛大に、光環・空昊を迎えてくれた。
あらためて、光環は仏縁により、
故郷からこの大寺院に導かれたことを、有難く思った。
穏やかで、清く、そして凛とした寺院のたたずまいに
”里帰り”することができ、とても嬉しい。

巨大寺院に戻る碧海を、光環は見送った。
空昊は、大きな声で、隣国語で別れを告げた。
”さよなら~っ、碧海さん。”
後に光環は、この時の空昊が「またね」でなく、
「さよなら」を言ったことを思い出す。
何気ないようでいて、人は日々、必然の旅へと歩を進めていたのだ。

大寺院で歓待を受けつつ、勉強会を開き。
しばらくの滞在の後、
光環は、かつて自らが導かれた歩みを記した白い反物を手に、
次なる街、寺院へ先導を受けながら、空昊と共に出発した。

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