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少女人形と機関銃

高校3年生の初夏、私にはとても忙しい日々が始まっていた。

ある『のっぴきならない事情』によって生徒会の副会長に引っ張り出され、
9月の文化祭へ向けての準備やら、生徒会の雑務やらで、授業以外の時間がそこに集中していた。

私は軽音楽同好会にも所属していたのだが、まともに顔を出す者は私をのぞいても4~5人程度。
多くはメインの部活をやりながら掛け持ち所属するユウレイ部員だらけだった。
この同好会も先輩からのひと言で会長を任されてしまっていた。

ふだんはカビた日陰の同好会だが、文化祭となると途端にスポットライトをあてられたように忙しくなるところだから、人の配置やグループ編成、機材調達など、やることがとにかくいっぱいあった。

それらの作業のために、夏休みもお盆を除くほぼ毎日、生徒会室と同好会の部室に登校することになるのだった。


そんな夏休みが近づいたある日、『ペケ』が生徒会執行部に自ら志願して入って来た。

『ペケ』は、「丸」という漢字のある苗字なので、それをもじって呼ばれていたのだろうと思う。
サラサラで栗色の髪をしていて、線の細い子だった。

誰かに例えていうのはちょっと御幣が生じそうだが、雰囲気であえていえば「栗色ヘアの羽生結弦」って感じだろうか。

ちょっと違和感が残るが、まあそんなところ。



生徒会長、副会長は選挙で選出されるが、執行部員たちは定員を満たすまで他薦、自薦によってほぼ誰でもなることが出来た。

だが、どこもそうだと思うが、生徒会の執行部なんてたいていは人数が足りないからということで頼み込まれて渋々、加わることがほとんど。

なので、自ら入って来るなんて殊勝だし、しかも一年生でというのも珍しかった。

ペケは学年は一年生だが、年齢は私の一つ下。
中学を卒業して実業高校に入学するも馴染めなかったらしく、半年ほどで退学し、私たちの高校へ入学し直して来た。

そんな経歴も執行部への参加も、そしてもうひとつ、ペケの外見からはうかがえないものがあった。

彼はベースギターがかなり上手い。
アマチュアのバンドに所属していて、地元のライブハウスにもちょいちょい出たりしていた。

そこで彼がベースを弾いているのを一度見たことがあったのだが、強い印象が残っていた。

ほぼ20代のメンバーの中で、彼らにまったく引けを取らないギターテクニック。
あんな線の細い男の子が、こんなすごい音を出すのかと驚きながら、ネックを滑るように動く長い指に見とれた。


ペケはうちの高校へ入学してすぐ、同好会へ入会して来た。
というより、彼のベースの上手さは有名だったので、彼を知る同好会のメンバーたちが放っておかなかったのだ。

私とも当然、部室で顔を合わせば話すこともあった。
最初、見た目の雰囲気から内向的で無口なタイプかと思っていたが、慣れてくるとギターを弾いているのを熱心に聞いてくれたり、「カッティングの音、キレがいいね」などと褒めてくれたりした。

ベースの達人からただ「上手」と言われれば「おべっか」と受け取ったかもしれないが、具体的に褒めてくれるのが正直なところ、嬉しかった。


こうして同好会の集まり、執行部の活動と、ペケと私は毎日放課後のほとんどを一緒に過ごすようになった。

あるとき、執行部の報告で職員室へ行き、先生と話し込むうちにいつも以上に遅くなった日があった。
うす暗くなった校門を出ると、一人自転車に寄っかかって立つペケがいた。

ペケも私を見つけるとニコッと笑った。

「あれ?どうしたの?」
と、私が聞くと

「会長を待ってた」
と、ペケはさらにニッコリして答えた。

「会長」とは私である。

生徒会は副会長だが、同好会では一応会長なので、下級生メンバーたちはみんな私を「会長」と呼んでいた。

オヤジ臭い感じがしてその呼称は好きではなかったが、前任もやはり女子の先輩で、彼女も「会長」と呼ばれていたので私も甘んじて受けていた。

「何か用があったっけ?」
と私がさらに聞くと

「何にもない」
と、ペケの笑顔はさらに人懐こくなる。

「ペケって、なんか小犬みたいな雰囲気あるね」

私がそう言うと、ペケは笑顔をしかめっ面に変えた。

その表情にゴメンゴメンと謝りながら
「そこまで一緒に行く?」
と、言うと
「そのつもりで待ってた」
ペケはまたニッコリした。

彼は私が駅の改札を入ってもまだ見送っていて、私が気配に振り返ると嬉しそうに小さく手を振る。

彼は自転車通学なので、駅まで行く私について来る理由はない。

ーー何で、私を待ってたんだろう?

ちょっと疑問もかすめたが、同好会も生徒会も同じメンバーということで、そのときはあまり気にしなかった。



夏休みに入り、執行部の作業はそれぞれ担当で決まったことをやれば、各自下校していいことになっていたのだが、ペケは毎日私を校門で待つようになった。

私を見つけるとニコッと笑顔になり、
私の話を人懐こい表情で聞いている。

そうして駅に着くと私が改札を出るまで見送る、
そんなルーティンが始まった。

ーーこれはどういうことなんだろう?
  もしかして・・・?



同じクラスで仲の良いヒトミとサナエが手芸部、茶道部とそれぞれの文化祭準備で登校する日を待って私は二人をお昼に誘った。

ペケのことを聞いてほしくなっていたのだ。


「いやいやいや!それって~!」
「ね~!」
二人はしたり顔でうなづき合う。

「たねちゃんのことが好き以外に理由ないでしょ~!」
「たねちゃんはどうなのよー」

二人から矢継ぎ早に言われ、やはりそうかと思った。

「うーん、年下だし、あの風貌だし、かわいい後輩って感じかなあ」

「あぁ、わかる~」
「あの子、小動物みたいだもんねー」
「いーじゃん、別に告白されたわけでもないんだし」
「まあ、そうだよねえ」

中庭のテラスの日陰になっているところを陣取って座り、三人でパンをかじっていると、そこへ噂のペケが通りかかった。

好奇心丸出しのヒトミは「たねちゃんを探して来たんじゃぁないのぉ?」と冗談っぽく私に耳打ちして

「ペケ君、お昼まだならここで一緒に食べる?」
と、声をかけた。


ヒトミはタクローという校則ギリギリ長髪の2年生の男子から「付き合って下さい」と告白されたことがあった。
タクローは偶然にもペケの近所の幼馴染みで、放課後に二人はよくつるんでいた。

「やだー!好みじゃないもん!」
ヒトミは無邪気過ぎるほどまっすぐにタクローをフッたのだが、なぜだかそれをきっかけに二人は妙に仲良くなっていた。

ヒトミは小柄で童顔な上、とても愛嬌のある話し方をするので、多少キツいことを言っても可愛くみえる得なタイプの女の子だった。

タクローはフラれてもなお、校内でヒトミを見つけると何だかんだと話しかけてくる。

そんなタクロー絡みでヒトミはペケとも顔馴染みであった。


「お昼はもう食べた」

ペケはヒトミに声をかけられてそう返しつつも、ニッコリ笑うと私たちの横に並んで座った。


「ねえ、ペケ君さー、たねちゃんのことが好きなの?」

ヒトミの突拍子もないひと言に私はギョッとした。

「ちょっとっ!」

私が慌ててヒトミの言葉を遮ろうとすると

「うん、好き」

ペケは笑顔で答えた。


「⁉・・・」

私たち三人は呆気に取られて固まった。


「それ、コクハクぅ⁉」
「え」というカタチで止まっていた口からヒトミはさらにカン高い声を出した。

「うん」

「・・・」

笑顔のまま、ためらいの微塵もないペケに、私たちがうろたえた。


「あ・・・私たち、お邪魔よね?」
我に返ったみたいにサナエがヒトミの肘をつついた。

「なんちゅうこっちゃ」

ヒトミも取り繕ってか、オヤジっぽいひと言を発するとサナエと立ち上がった。

「じゃ、お先に失礼しまぁす・・・」

二人は私にニンマリと目配せすると校舎へ戻って行った。


残された私はペケと二人、中庭の池を眺めていた。
ちらりとペケへ視線を向けるとペケもニコッと無言で返す。

ーー何か普通の会話のノリみたい
  こんなふうにニコニコ平常心で言うことだっけ?

  告白ってこういうパターンもありなのかなあ

  焼きそばパン好き、猫より犬が好き、
  うん、会長好き、みたいな。

  あ、何か言った方がいいよなあ・・・

適当な言葉が出て来ない。

・・・


「返事はいつでもいいよ、待ってる」
私が困っていることを察したのか、ペケはそう言って立ち上がった。


「会長、今日の帰りは何時頃?」

「あ、えーと、、4時頃、かな」

「校門で待ってていい?」

「あ、はいぃ・・・」

ペケは私の返事に笑顔でうなづくと、小さく手を振りながら部室の方向へ歩いて行った。


それから私も午後の作業に戻ったが、うわの空でまったく何も手につかなかった。





慌ただしく夏休みは終わり、新学期が始まるとすぐに文化祭の日はやって来た。

文化祭は日曜日を最終に三日間で組まれていた。

一日目はクラスや部活動を中心とした発表会、
二日目が展示会や催し物(一般開放)
三日目が体育祭とフィナーレの野外ステージライブ

土日には父兄や近隣の住民、他校の生徒たちで校内は溢れ返った。

私は同好会の受け持ちで、発表会などの合間を繋ぐミニコンサートの仕切りや機材の出し入れなど「体育館の番人」役で、熱気のこもる館内で汗だくだった。

次の催しが始まるのを待って、何か飲み物を買っておこうと私は体育館を出た。


歩きながらすれ違う下級生たちを見てふと、自分の視線がペケを探しているのに気づく。

文化祭が始まる辺りからペケをあまり見ていない。
「見ていない」というより、「近くにいない」のだ。

最終日の野外ステージで、ペケがベースを担当するグループが最後を飾るライブをやる予定なので、その準備だろうと思っていたし、私もバタバタとやることに追われてあえて気に留めないでいた。


夏休み、毎日ペケは私のそばにいた。
ひょいと顔を上げたタイミングにもペケは私の視界の中にいつもいて、ニコッと笑いかけて来た。
帰りがバラバラになる日も校門で待っていた。

部室や生徒会室で、周りに誰もいなくなって二人になると、ペケは顔に「スキ♡」と書くとこういう感じっていうわかりやすい表情になった。

私といるのが楽しくてしょうがないというのがストレートに伝わってくる。

私もペケの存在が当たり前のような感覚になっていた。


購買部は部室が並ぶ棟の裏側にあり、自販機もそこに数台並んでいた。
部室の棟を抜けたところで自販機の前に立つペケが見えた。

と、同時に
その横に背が低くて華奢な女子も見えた。

ペケに肩を寄せては何かを話し、楽しそうに笑い声を上げている。

彼女はユウコという私と同じクラスの子だった。
あまり目立たない大人しい人という印象。

私たちとはあまり関わりのないグループにいて、挨拶を交わす程度であまり話したこともなかった。

私はペケとユウコに何だか近寄り難い空気を感じた。

というか、
二人の姿にザワザワするものが胸の辺りに湧いてきてすごくイヤな気分。

ーー何?あれ。ニヤついて。

神経を逆なでされるような不愉快な感情に駆られ、私は踵を返すと体育館へ戻った。

ペケに無性に腹が立っていた。





最終日、怒涛の体育祭も終わって陽が傾き始める頃、私たちは最後の作業に入っていた。

野外ステージのライトが灯されるのを待って、着替えの終わった生徒たちがぞろぞろとそこへ集まって来る。

音合わせもそこそこに演奏が始まる。

曲に合わせて思い思いに踊ったり、歓声を送ったりしてみんなが盛り上がっているのをステージの裏側で眺め、私たち執行部員は「終わったねー」と安堵し合う。

ステージの上でベースを弾くペケの背中がすぐそこにある。

ーーやっぱり上手い

私の耳はメロディの中からベースの音だけ拾ってしまう。

曲の合間にペケとは視線が垣間合うのだが、いつものペケの表情と違うものを嗅ぎ取っていた。

自分が昨日、自販機の前の二人に勝手にザワザワしたせいかもしれないと思ったが、でも、やっぱりそれだけじゃない気がした。


コンサートも盛況のうちに終わり、生徒会長による文化祭終了の挨拶でみんな解散となった。

後片付けを黙々とやっている私にペケが近づいて来た。

私は気づかないフリをして作業を続けた。

ペケはしばらく私を見つめて黙って立っていたが、「これ運ぶの誰か手伝ってー」という仲間の声に返事をして私はそこから離れた。

ペケが何か言いたそうにしていたのはわかっていた。
私はちょっとホッとしながら、後悔もしていた。


ーーそういえば、「返事はいつでもいいよ」って
  言われたままだったなあ


わずかひと月ほど前のことなのに、遠い昔のことみたいに思えた。

帰り道、校門にもどこにもペケの姿はなかった。




通常の高校生活に戻り、生気の抜けたような顔で登校する私をヒトミとサナエは心配してくれていた。

気づいてみれば私は体重が7㎏近く落ちていて、顔つきも輪郭が変わったと言われるほどだった。
かなりげっそりしていたんだろう。

帰りの校門にペケがいないことも二人は気づいていた。

「何かあったの?」
「あれからペケとどうなったの?」

二人に聞かれても何と答えればいいのかわからなかった。
というか、「何にもない」のだから。

ーー自販機の前で見たあの二人。
  たまたまいただけかもしれないペケとユウコ。
  自分が勝手にザワザワしただけだし。
  ペケを無視したのも自分だし。
  見なきゃいいのにいちいちユウコを意識しちゃって
  ザワザワを蘇らせているのも一方的な感情だし。
  それを話したところでスッキリするわけもないんだけど


ひと言ふた言こぼすと、とりとめなく言葉が出て来た。

「たねちゃん、ペケが好きになってたんだね」

サナエにいわれて胸に小さく痛みが走った。
忙し過ぎたせいか、私は自分の感情に鈍感になっていた。

自販機の前の二人を見るまで。

「ああそっか、バカだねー、
わかんなかった~
だから腹が立ったんだね」

二人に向かって言葉にしてみると、おかしくなって来て笑えた。
笑えるんだけど、ちょっと苦しくなった。


実はこの頃、父の緊急入院も重なり、面会も出来ない状態だったのだが、そのことは二人にも誰にも知らせていなかった。
言ってしまうと弱音が堰を切ってしまいそうだったから。

なので、ヒトミは私がげっそり痩せてしまったのは執行部の激務と、ペケのことを悩んでのことと思い込んでいた。

そんな私を心配して、私の知らぬ間にヒトミは
「タクローにペケを探れって指示してたんだ」
と、私たちの待つ場所にタクローを呼び出した。


「タクロー、ごまかさないで知ってること、全部言いなよ」
ヒトミに迫られてタクローはバツの悪そうなカオで口を開いた。

「ペケは最近、伊藤つかさにすっげえハマってて」

「?」
私たちはタクローが何を言い出したのかと顔を見合わせた。

「ついこの前まで、ペケは薬師丸ひろ子の熱烈なファンだったんだけどぉ」

「こないだアイツん家行ったら、部屋の中の壁とか天井とか、伊藤つかさで埋まっててぇ」

「は?」
「何それ?」
「何の関係があんのさー⁉」

ヒトミはタクローに突っ込みまくる。


「いや、だからぁ」
「ペケは会長が薬師丸ひろ子に似てるって前々から言っててぇ」


「は?」



「んでぇ、優子さんてぇ、伊藤つかさっぽいっしょ?」


・・・


「はあッ⁉あんたふざけてんの⁉」

ヒトミはタクローをこづく。

「いやっ、マジでそうなんだって!
あいつ、めっちゃくちゃミーハーだし、
最近は毎日、ユウコさんの部活が終わるの待ってるもん!」


タクローの言った最後のひと言に胸がチクッとした。

やっぱり気のせいじゃなかったんだ・・・


・・・?


ヒトミとサナエの目が落ち着きがない。
ちらちらと私を盗み見しているような・・・

二人の視線はちょっと宙を泳いで、妙な位置に着地する。

え?
え?

たねちゃん・・・


さっきから二人が笑いをこらえているのもわかっている。

だよねー、友達だもんね。
うんうん、わかってるよ。

でも、そっち拾うんだ。

まあ、わかるんだけど。


ーーだったらお願い!ここは笑って!!




ペケは、機関銃持った子に憧れてたんだけど、夢の途中で少女人形が「かわいいッ♡」ってなっちゃって。
で、そしたら会長からユウコさんに目移りしちゃった。
タクローはそう言っている。

単なるミーハー野郎がこともあろうに年上の同じクラスの女子の出待ち、追っかけに興じてて、それにまんまとほだされた私。

そして。
ヒトミとサナエは薬師丸ひろ子で何かコラえていて。

ショックというか、恥ずかしいというか、
ばかばかしいとうか、

あまりにいろんな感情が混じっていて、
地面にぺたんと座り込んでしまいたい気分だった。

「あんなヤツ、もう気にしなくていいよ!」
「サイテーだね!」

帰り道、ヒトミとサナエは私に思いつく限りの寄り添いの言葉をかけてくれた。

でも私はぜっんぜん嬉しくなかった。





一週間ほど経って、下校しようと渡り廊下を私たち三人が歩いていると、ペケとタクローが廊下の向いから二人でやって来るところに鉢合わせてしまった。

「マズいよ、たねちゃん」
「どーする?」

二人は私に囁く。

「いいよ、知らん顔して通り過ぎよ」


・・・


ペケがうつむいて私たちの横を通りすぎると
ヒトミは立ち止まって息を吸い込み、勢いよく振り返って彼の背中に叫んだ。

一瞬遅れて、サナエも振り返った。



「ばーか!誰が薬師丸ひろ子だよ!」

「おまえ、ほっんとペケだな!」



もーヤメテ~(泣)


その言葉を受けてビクッとペケは立ち止まった。
ペケの隣でタクローが引きつった笑顔で口をパクパクさせている。

うつむいたまま振り向くとペケは小さな声で
「ゴメン」
と、言った。


・・・


ーーゴメン?
  何?ゴメンて。

  ペケ、てめぇ
  謝られるのがどんだけキツいかわかってんのか!

  おまえなんかどっかいなくなれ!

  も一回どっか他の高校受け直して消え失せろ!


一瞬で脳内会議でセリフは決議され、私は一歩前へ出た。


「ぜーんぜん、だいじょぶだから~

同好会も今まで通りでいいからねー」




満面の笑みで叫んだ私を
ヒトミとサナエが目を丸くして見る。

ーーうん、わかってる。

  二人が私に何を言いたいのかわかってる。
  あたしだって自分に聞きたい。

  っていうかさ、ヒトミちゃん

  「誰が薬師丸ひろ子だよ!」じゃなくて
  「誰が伊藤つかさだよ!」って
  言って欲しかった、せめて。

  いやいや、気にするとこちゃうだろー
  あー、何かもうどーでもいい。

  
  

曖昧な表情を浮かべて去って行くペケの背中を
私は穏やかな笑顔で見ていた。


こうして高校3年の短い夏とともに私の恋も終わった。

ーー始まってもいなかったのに?
  
  

それ以降、薬師丸ひろ子と伊藤つかさの話題に引っかかりそうになるとヒトミとサナエは急に無口になったりした。

そして私も、何に傷心しているのかわからないまま卒業を迎えた。



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長文をお読み頂きありがとうございました。


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