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過去も未来も変えた旅

私は会社員の頃、旅をする為に働いていた。

いわゆるバックパッカー的な旅もクルーズ船の旅も、それぞれの楽しみがあって好きなのだが、いちばんインパクトが大きかった旅は25歳の時に行ったヨーロッパひとり旅。

大学卒業時から勤めていた会社を辞め、当時カナダの大学生の間で流行っていた鉄道パスを最大限に利用した、バックパック旅行に出かけたのだ。

これと言った目的は無く、行ったことの無い場所に行きたい、ひとりでバックパッカーを経験したい、と言うだけの旅。5週間で9カ国を回ったのだが、言葉の通じない地域ではじめて訪れる街を歩き、先々のユースホステルでは面白い人たちに出会えて本当に楽しかった。

ひとり旅だったので、他の旅人から声を掛けられる事が多く、ユースホステルの共有スペースでご飯を食べたり調べ物をしたりしていると、他のシングルトラベラーとの会話が弾んだ。

大まかな日程だけしか決めず、その日の気分で行きたいところへ行く気ままなこの旅は、小さなドキドキと決断と発見の連続で、その後の私の在り方を大きく変えた。


旅に出掛ける前の私は、カナダに留学することや就職先など、進路に関する大きな決断は自分の意思で下してきた。なのに、その後の学校生活や仕事、日々の生活においては、「やりたいこと」よりも「やらなければならないこと」に翻弄され、自分がどうしたいかを探る感覚が著しく鈍り、なんとなく無難そうなものを選び、他者のご機嫌を伺いつつ淡々と生きながらえていた。

でも、ひとり旅においては、頼る人も居なければ設定されたスケジュールもない。その日どこに泊まるのか、どこを観光するのか、何を食べるか、あらゆることを自分で決められる自由と苦悩をはじめて認識したのが、この旅だった。

進路の決断などをする時は、熟考を重ね合理性で常識的と思われる方を選択していた。(16歳で単身カナダ行きは常識的なのか?!😅)しかし旅の間は、純粋に観たいもの・経験したいことを気の向くままに選ぶと言う自由に身を委ねてみようと、周りの旅人たちを見て思った。何故なら、出会った旅人の数名が、観光名所をひとつでも多く見て回る事に全力を注がず、自分のやりたい事・見たいものを見極め、のんびりと暮らす様に旅していたからだ。

とは言え、初めて訪れる土地ばかりだったので、パリではエッフェル塔とルーブル美術館、ノートルダム寺院は外せないし、ベルサイユ宮殿にも足をのばしたい…と、大概の場所では定番の観光名所を回った。それでも、気兼ねなく自由に道順を決め、好きな場所で好きなだけ時間を過ごし本当に楽しかった。自由である事は嬉しいし楽しいけれど、「次はどうしよう?悩ましいなぁ…」と、何にも縛られない喜びを噛み締めつつ、迷い悩みながらのんびりベンチに座ってみたりもした。

全てにおいて選べる自由がある方が良いと思っていたけれど、決められた道を歩むしかない場合もある意味楽で良いのかも…と、これまで思った事の無い思考が浮かんだ。全部自分で手配する個人旅行と、お膳立てしてもらえるパッケージツアーみたいに。


以前のnoteでも書いたが、イギリス・オックスフォードで出会ったイギリス人の旅人と話していた時。恐らく今後の人生をどうしようかと言った話をしている中で、映画「スライディング・ドア」を観たらいいよ、と薦めてくれた。

この映画は、グウィネス・パルトロウ演じるヘレンが、地下鉄に乗る寸前でドアが閉まり「乗れなかった場合」と、間に合って「乗れた場合」にその先の人生がどうなっていくのか、2つの展開を同時進行で描く。

私が思うに、どちらの展開の方が良い人生になった、とは一概に言えないこの映画の結末。どんな展開になっても、何を選んだとしても、正しいも間違いも無い、と言うのが5週間のヨーロッパひとり旅行後にこの映画を観て思ったことだ。


どの道を歩んでも、何を選択しても、また選択の余地が無くても、それを「正解」にするのも「間違い」にするのも自分。むしろ、間違いなんて存在しないのに、自分で「間違い」と決めたものだけが間違いなのかもしれないと思った。旅の最中にも、道に迷って辿り着いた場所の景色がとても綺麗だったり、迷ったお陰で心優しい地元の人に出会ったりもした。どんな展開、選択、試練や苦悩からも、その気になれば何かしら得るものが見つかる。行き止まりにぶつかったら、同じ道を戻る時に見る景色はまた少し違うし、楽しめば良いだけだ。

このひとり旅を通して、自分がどうしたいかという感覚を少しずつ取り戻し、「選んだ道が正しい道」と考える土台が私の中に築かれ始めた。そして今、これまでの歩みの中で、大きく後悔することは思いつかない。それは全て正しい選択をしてきたからでも、正しい努力をしてきたからでも無く、回り道も間違いも全てが私に必要なことだったのだと納得しているから。

今後この思いが覆る時が来るかもしれないし、来ないかもしれないけれど、それはまたその時考えよう。

aloha & mahalo.

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