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「色彩を持たない多崎つくる」が好きです。


おはようございます。今日は村上春樹さんの作品である「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」について書きたいと思います。

レビューとしてではなく、なぜ私がこの作品を好きなのかについて考えていきたいと思います。


というのも、私は大学時代に村上春樹さんの「羊を巡る冒険」を読み彼の作品にはまってしまい、大学時代にほとんどの彼の作品を読みました。

しかし未だに「なぜ彼の作品が好きなのか?」と問われるとうまく答えることができません。「本当に内容を理解できているの?」と聞かれても、「できている」とは断言できないと思います・・(笑)

そんな私ですが、村上春樹さんの作品の中で好きな作品を挙げるとすれば、長編なら「ダンス・ダンス・ダンス」、中長編なら「色彩を持たない多崎つくる」短編ならば、パン屋再襲撃に収録されている「ファミリー・アフェア」が好きです。

仕事や私生活で辛いことがあればいつも自然とこれらの作品を読み返しています。

そして最近では、約1か月前に切迫早産と診断され急遽会社を休まなくなってしまった際、個人的にはひどくがっかりしてしまい立ち直るのに数日かかってしまいまいした。その時に、自然とこの「色彩を持たない」を読み返してみようと思い、改めて作品に触れました。

そしていくつか自分が好きなポイントに気づく事ができたのでそれを書きたいと思います。

村上春樹さんの作品が好きな方にはぜひ共感・反論していただきたいですし、村上春樹さんの作品を好きではない方には、作品の魅力が少しでも伝わればいいなと思います。

①登場する女性の魅力

村上春樹さんの作品の主人公は男性が多いですが、その主人公をそばで支え進むべき道を示してくれる女性がよく登場します。彼の作品に登場する女性は物語の重要な軸となることが多く、ノルウェーの森の緑やレイコ、ねじまき鳥のメイ・マルタなど魅力的なキャラクターが多いです。

「村上春樹さんの作品で好きな女性キャラクターは誰ですか?」という議題があれば、村上春樹作品ファンは数時間語り合えるのではないでしょうか?(笑)

脱線しましたが、この「色彩を持たない」に登場する二人の女性、「木元沙羅」と「黒埜恵理」もとても魅力的なのです。

まず「木元沙羅」について。彼女は38歳の大手旅行会社に勤務する女性で主人公つくるの恋人として登場します。つくるは彼女の外見について

彼女の顔立ちが不自然に気に入っていた。標準的な意味での美人ではない。頬骨が前に突き出したところがいかにも強情そうに見えるし、鼻も少し尖っていた。

と説明していますが、その直後に

しかしその顔立ちには何かしら生き生きしたものがあり、それが彼の注意を引いた。目は普段は細かったが、何かを見ようとすると急に大きく見開かれた。そして決して臆することのない、好奇心に満ちた一対の黒い瞳がそこに現れた。

と語ります。”美人ではないけれども魅力的である”という女性についてここまで美しく描写ができるなんて・・・と思わず心を掴まれてしまうポイントです。沙羅さんの魅力が実際に目で見るよりもハッキリと読者に伝わります。

そしてその後のデートでも沙羅さんのファッションに関する描写が多く、

彼女の爪はバッグと同じえび茶系の(少しだけ淡い)に美しく塗られていた。それが偶然ではないことに、一ヶ月分の給料を賭けてもいいとつくるは思った。

など、お洒落で思わず憧れてしまうような美しい女性の描写が所々で出てきます。私もこんな38歳の美しい女性になりたい・・と思わずにはいられません。


この沙羅さんは外見だけでなく内面も豊かであり、ユーモア溢れる言葉遣いで、随所でつくるへ的確なアドバイスをしてくれます。

”自分が見たいものではなく、見なくてはならないものを見るのよ”
”記憶を隠すことはできても、歴史を変えることはできない”

どれも彼女がつくるにかける言葉です。彼女の優しい言葉たちは、主人公のつくるだけでなく作品を読んでいる読者の背中もそっと押してくれます。


そして二人目「黒埜恵理(通称:クロ)」について。彼女ついてつくるはこう説明しています。

クロは容貌についていえば、十人並みよりはいくらか上というところだ。でも表情が生き生きとして、愛嬌があった。大柄で全体的にふっくらとして、十六歳のときからしっかり胸が大きかった。自立心が強く、性格はタフで、早口で、頭の回転も同じくらい速かった。文系の科目の成績は優秀だったが、数学や物理はひどいものだった。父親は名古屋市内に税理士事務所をかまえていたが、その手伝いはとてもできそうにない。つくるはよく彼女の数学の宿題を手伝ってやったものだ。クロはきつい皮肉をよく口にしたが、独特のさっぱりしたユーモアの感覚があり、彼女と話すのは楽しく刺激的だった。熱心な読書家でもあり、常に本を手にしていた。


この文書も、自然と素敵な女性像が思い浮かぶ美しい描写です。

クロも外見だけでなく人間性も魅力的で、つくるに温かくて優しい言葉をかけます。

”私たちはこうして生き残ったんだよ。私も君も。そうして生き残った人間には、生き残った人間が果たさなくちゃならない責務がある。それはね、できるだけこのまましっかりここに生き続けることだよ。たとえいろんなことが不完全にしかできないとしても。”

彼女の温かさが伝わってくる言葉であり、不完全な私たちが持つ、心の負担や未来への不安を軽くしてくれます。


「沙羅」も「クロ」も女性として非常に魅力的でありながら、お母さんのような安心感を読者に与えてくれます。彼女たちの温かい言葉に励ましてもらうために、この本を開いてしまうのかもしれないと思いました。


②きれいな情景描写

この「多崎つくる」では物語の後半、主人公のつくるがフィンランドを訪れます。このフィンランドの情景描写が素敵で、読んでいるとフィンランドに旅行しているような気持になります。

村上春樹さんは小説だけでなく、長い海外生活を綴ったエッセイや旅行記も沢山出版されているので旅行好きな方には非常におすすめです。

つくるがフィンランドについてタクシーに乗ると、タクシーの運転手に話かけられます。

「あんた、どんな仕事をしている?」
「鉄道の駅を作っている」
「エンジニアか?」
「そう」
「フィンランドまで鉄道駅をつくりに来たのかね?」
「いや、休暇をとって友達に会いに来たんだ」
「それはいい」「休暇と友だちは、人生においてもっとも素晴らしい二つのものだ」


海外らしい陽気なタクシーの運転手さんの言葉に癒されます。この会話ですが、村上春樹さんが海外に滞在した際に実際に体験したとエッセイに書いていたような気がします。

そして景色についても細かい描写が続きます。

道路の両側はおおむね森だった。国土全体が瑞々しく豊かな緑色で覆われている印象があった。樹木の多くは白樺で、そこに松やトウヒやカエデが混じっていた。松は幹が直立したアカマツで、白樺は枝がしだれたように大きく垂れさがっていた。どちらも日本では見かけない種類のものだ。その間にときおり広葉樹も見受けられた。大きな翼を持った鳥が、地上の獲物を探しながら風に乗ってゆっくりと空を漂っていた。ところどころに農家の屋根が見えた。農家はひとつひとつが大きく、なだらかな丘陵に沿って柵が続き、放牧されている家畜の姿も見えた。牧草が刈られ、機械で大きな丸い束にまとめられていた。

文章を読んでいるだけで、日常生活を離れて遠い街を散策しているような気持ちになれます。時間がゆっくり流れていて、忙しなく生きる読者の心を落ち着かせてくれます。

会社に行きたくない・・と憂鬱な気持ちを抱えて乗る満員電車で、村上春樹さんを読むと心がホッとするのです。


長くなりましたが、私がこの「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」が好きな理由を書かせて頂きました。

ほかの作品に関してもどんどん書いていきたいと思っています。それでは!



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