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卒業制作展の話


祖母が習字教室を営んでいた影響で、幼少期から続けていた書道。
高校でも書道部に入り、18まで何となく筆を持つことが好きでした。


大学3年のゼミ選びの際、別学部の書道ゼミも選べることを知り、「特に他に学びたい学問もないし、書道好きだし、とりあえず入るか!」と勢いだけで書道ゼミを選びました。

別学部では、私の所属の学部より1年早くゼミが始まっており、卒業論文も卒業制作も、半年の遅れを取りながら他7人のゼミ生の背中を追う日々。

卒業制作展ではゼミ生が1人2点の作品を出すことが必須で、1点は臨書(書道の名品とされる古典作品を真似て書く作品)、1点は創作(題材や用具、規格等を選び、全ての構成を自身で決めて書く作品)となっていました。

卒業制作展とはいえ1つの展覧会。
先生の様々な作品を出したいという思いから臨書作品における書体はバラバラなものを選択するように決められていました。
書道における書体はザックリ5つで楷書、行書、草書、隷書、篆書。

私がゼミに入った時、既に他7人は臨書の古典作品を決めており、残された書体は楷書のみ。
楷書の古典作品をしばし観察し、1番気に入った欧陽通「道因法師碑」を臨書作品にすることにしました。


唐の時代に書かれた道因法師碑は楷書の中でも起筆や転折がハッキリとしており、端正な字。
以前九成宮を書いたことのある私にとって馴染み深い雰囲気があり、楷書の中でも見栄えがする(個人的見解)と思い、選びました。

とはいえ、経験の浅い私が一度文字を書いてみると、まぁ何というか幼稚。
最初に書いた時は小学生の夏休みのお習字コンクールのような文字でした(笑)


半切4枚綴りで、1枚に64文字の細字で書くことにした為、授業では1枚書けるか書けないかしか進まず、合宿ではみんなと休憩時間が合わずに1人で飯を食い、とにかく書き続ける日々を1年半送り…


出来上がった作品。
あと1週間あったらまた見違えたのかなと思いますが、私の1年半の集大成はこのような形でした。
とにかく自分に向き合い、字に向き合う時間。
これは書道(とくに臨書)でしか得られない、貴重な体験だったと思います。




創作作品は4年の夏から。
創作なんてしたことがなかった私ですが、「とにかく篆書の虫が可愛い!」などと困ったことを言い出します。

篆書体の「虫」

しかしこの意見を尊重してもらい、ここから題材は虫のつく漢字の「虹」に決定。

臨書作品で細字に取り組んだ為、ギャップから大きい文字を書きたいとなり、全紙一枚に大きな「虹」を描くことにしました。

「虹」はこんな感じで仕上がりました。
虫をメインにしたかったので虫をとにかく大きく、工の部分は虫を邪魔しない程度に右上に。



卒業作品という、ほとんどの大学生が携わることのないものに触れてみて。

まずは大学生活の一部が形に残るっていいなと。
自分なりに頑張った結果が見える、見てもらえるというのは何とも感慨深いなぁという気がしました。


見てもらえる、ということでいうと、卒業制作展には家族・友人・恩師合わせて20人に来てもらいました。
みんなに頑張ったねー、すごいね、って言ってもらえて、単純な私はほくほくです。ありがとうございます。


活字の普及が著しい昨今、書字文化は今後フォーマルな場では根付かないものになっていくと個人的には思っています。
それでも書字は長らく、そして広く、日本人に普及してきたものであり、未だ、私の未熟な作品ですら、見に行きたいと思ってくれる人間がいる以上、書道の文化的価値・芸術的価値はあるのかなと。
卒論のテーマがそんな感じだったので、沢山の人に書くことを感じてもらえたのが嬉しかったです✌️


高校時代の書道の先生2人に「書道は続けるの?」「やめないでね」って言われたのが、卒業制作展が終わった今も心に残り続けていて。
書字人口が少なくなっていくことが容易に想像できる中でも、文化として、誰かがずっと残していかなくちゃという気持ちを持っていなきゃいけないなぁと思うし、今までの人生で筆を持つことに長く携わっていた以上、私自身もそこに責任を持つべきだなと強く感じております。
細くでもいいから、長く、書道は続けていきたいものです。


そんなこんなで、卒業制作展で作品をつくった話でした。


【ひとこと】
先生、ゼミ生のみんな、卒業制作展に来てくれた人、頑張れって言ってくれた人、ありがとうございました。

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