見出し画像

サラリーマンと「梅干し休暇」。

「梅干し休暇がほしいよね」そんな会話をしてから5年。

今年はリモート勤務なので、梅雨明けの気持ちのいい日に梅が干せた。

ていねいな暮らしとは程遠い生活をしているくせに、梅干しだけは毎年作っている。それは、すてきな先輩たちの影響だ。5年前、「梅干し品評会」に参加したことから、わたしのささやかな梅干し生活が始まった。

会社の昼休みに白米を持ち寄った「梅干し品評会」

「明日の昼、白米持参で集合ね」と先輩に言われた。梅干しを作っている先輩2人が、去年と今年の梅をそれぞれ持ってくるとのこと。なんか楽しそうだな〜くらいの気持ちで、気軽に白米を持っていったらめちゃくちゃ楽しかった。

昼休み、フリースペースに集まった品評会メンバーは10人くらいだっただろうか。本当にみんなタッパーに白米だけ詰めて集まっていた。梅干しの師匠である先輩2人が、ふとっぱらに梅を配っていく。そして、スーパー編集者でもある梅干し先輩はすてきな手作りの冊子も配ってくれた。

「食べたら、この冊子に感想を書いてね!」

恵んでもらったのは4種の梅干し(2人×2年)。それぞれ比較できるように、記入欄が用意されていた。さながら教材である。すでに楽しい。

「この年は15%」「この年は、干すタイミング逃して8月中旬になった」といった梅干し先輩たちのコメントを拾っては、冊子の空欄に加筆していく。その上で、味や見た目について各々の感想コメントを記入。そうか、スーパーに売っている梅ってとんでもない減塩なんだな〜とか、「干し足りなかったんだよね」という梅はやっぱり水分が多めだなとか。

「塩分とか干し方とかでこんなに味が変わるんだ!」と、発見の連続の品評会。どんなきれいな写真をみるよりも強烈に、好奇心に火がついた(実際、この品評会をきっかけに梅干しを作り始めたのは、わたしだけじゃなかったはず)。

「梅干し休暇を望んでいいんだよ」

梅干し先輩の1人が、「本当は梅干し休暇ほしいんだよね〜」と言った。

梅干しは、梅雨明け直後のカラッと晴れた日に、約2〜3日干すのが理想。雨に降られるといけないので、家にいない日は危険だ。だがしかし、サラリーマンにとって「土日で」「梅雨明け直後で」「晴れていて」「予定がない日」というのは意外と難易度が高い。なにしろ、梅雨明けはあらかじめ調整できない。わたしも自分で作るようになってよくわかった。梅雨明けの予報を毎日のように探りながら、土日の昼はなるべく予定を入れないようにするしかない。

そのときはまだ、梅雨明けの絶妙なタイミングを確保する苦労がわかっていなかった。梅干し休暇を望む先輩に対して「梅干し休暇はさすがに無理でしょ〜笑」と軽口で返してしまう。すると、その会話を聞いていたもう1人の先輩は、あとでそっと教えてくれた。

"本来、梅干し休暇を望んでいいと思う。暮らしは大事。仕事で暮らしを犠牲にしなくていいんだよ"

ごめんなさい。表現はうろ覚えで、もっとすてきな言葉遣いだったかもしれない。でも、このときのことがいつも心に残っていて、梅を干すたびに思い出している。梅干し休暇なんて冗談みたいだと思っていたわたしに、当然のように「いいでしょ!」と言ってくれたこと。そして同時に、「梅干し休暇がほしい」と言った先輩を冗談でも否定してしまったことを後悔する。

休暇じゃなくて、リモートワークで解決した

梅干し休暇があってもいいんだなと思いながら梅を干すようになって5年。思いがけず、リモートワークで梅雨明けをむかえた。

仕事を始める前に、ベランダに梅を並べる。昼に、様子をみてひっくり返す。隙をみて、写真を撮る。(梅はかわいい)

梅干し俯瞰


「……あれ、あの時の梅干し休暇論争、解決したな」


それでもやっぱり、梅干し休暇はあってもいいと思う。