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読書レビュー:自然科学「クジャクの雄はなぜ美しい?」

ダーウィンの『種の起源』を日本語訳した著者による、生物は種の繁殖のために有利に進化してきたという性淘汰説を分析

クジャクの雄は明らかに不利にも関わらず残っているのはなぜか?という疑問を、生物の例と数々の実験データを元に紐解いています。

選り好み

性淘汰の大事な論点では、雌による選り好みが発生するということ。

今では交尾の時は雄がダンスしたり巣を準備したり、雄の懸命な努力が脳裏に浮かび当たり前の考えですが、ダーウィンが論文発表した19世紀当初は男性権威主義的で、「男性はパワーを持ち意思決定し、女性は従順で慎まやか」という概念が多く、雌が雄を選んでいる発想は受け入れられませんでした。(当時は宗教的側面でもセンセーショナルな発表でしたしね。)

しかし、クジャク以外の鳥類でも、尾が長い方が雌に好かれる傾向にあるという研究結果もあり、100年を経て雌による選り好みは確からしいというエビデンスが蓄積されてきました(でもまだディスカッション中らしい。100年経ったのに!)。

交尾する時の選択権はどちらが握っているか?

基本的には生物の間では、メスの方がリスクを負っている(=栄養を蓄える必要性、自分の身を守れない弱い期間が発生する、子育てする場合は摂取する食料が増える、子がいることで雄に狙われるリスクが増える、などなど)ため、繁殖相手を選択する権利が発生します。

※逆に、タツノオトシゴのように雌は卵を生んで雄がお腹にしまって受精させ生むという稀有な例では、雄が選択権を持ちます。お腹から出産する時に穴にひっかかって雄も子供も死んじゃうこともあるらしい。悲しい。

ハンディキャップモデル

選り好みを支える一つの論理です。ハンデがあるにも関わらず、それを持っていても生き抜いているタフさを証明しているという、目から鱗の発想です。

<クジャク>
大きな羽は不利(機敏な動きができない、敵から見つけられやすいなど)
→ハンデがあるにも関わらず、あれだけ立派な羽を持っている
→生命力が強いに違いない
→子孫残しやすそう!決めた!

読みながらそんな理由で選ぶか?と突っ込んだのですが、今考えると、雌雄の出会いも情報量も限られている動物同士が、パッと見で分かる標があるのは合理的かもしれません。

ランナウェイプロセス

雌による選り好みが発生すると、より雌に選ばれる=子孫を残しやすい身体的特徴が次の世代に引き継がれ、雌雄間で相乗効果的にその進化を促すということです。

雌の多数回交尾と精子間競争

これは、生物の個人による執着を示す面白い論点です。雌は、基本的に何度も交尾します。そうすると、もはや同種間の雄同士で、卵巣の中で、受精を競うようになります。

掻き出す
虫に多いパターン。既に雌の体内にある精子を掻き出すため、身体の一部が進化!精包という精子の袋で受精させる昆虫だから、袋を引っ張り出すことができる。
物量
掻き出せないなら、とにかく精子の数で勝負だ!哺乳類に多い。結果的に雄の精巣が大きくなります。
毒(化学兵器)
目を疑いました。他の精子を殺すために、毒を作って精子と共に送るとのこと。雌の身体にも悪影響があるらしくて毒の耐性をつけるらしく、結果雄はより強い毒を略。ここまで来ると種の繁栄でなく雄個人の意地っぽいですね。

配偶者防衛

前述の精子間競争を防ぐ雄による戦略。交尾後の雌を、雄が常時監視するというやや粘着質な方法です。子供の時に見たトンボが、二匹繋がってて仲良しだな〜って思ってましたが、雄が雌の首を握って飛んでいるのでまさにこれ。

所感

研究室の論文に近い文体実験データが半分以上を占めています。事前に「オスとメスはどちらが得か?」(感想文はこちら)を読んでいたので、前著でサマリー→本著で具体化できましたが、テーマに興味がないと実験ばかりで頓挫するかも。

内容自体は上記以外の発見もあり面白いので、学術的な読み物に慣れている方はぜひ。

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