スーパーマーケットというダンジョンを攻略する【普通の主婦 富士村ふじ乃のスーパーな日々 3カゴ目】

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この物語は、「自称:地元スーパーマーケット研究家」の富士村ふじ乃さんが、地元スーパーをこよなく愛し、地元スーパーでおいしいものを探し、この上なくおいしく食す日常を描いた、かぎりなくエッセイに近い小説風なものです。

この物語は、現実と妄想のはざま、フィクションとノンフィクションの間からお送りします。

地元スーパーのおいしい食材やお惣菜、スーパー自体の楽しみ方をお伝えできたらうれしいです。

第3回目の今回は、主人公ふじ乃さんが息子3人を引き連れてスーパーマーケットでのお買い物に悪戦苦闘するお話です。

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ふじ乃さんの母は、ちょっと変わっている。いや、だいぶ変だ。

もともとミステリー小説が好きだったらしいけど、その趣味に、いつしかゲームが加わった。しかも、RPGがお好きである。

本来であれば、

「ゲームばっかりしてないで勉強しなさい!」

とお小言を言う役目であるはずの母が、である。


ふじ乃さんが小学生になるかならないかの頃、年上のいとこからもらったファミコンに真っ先にはまったのは母だった。

時はドラクエ全盛期。その後、ファイナルファンタジーやロマンシングサガ、クロノ・トリガーなど…ひととおりのRPGはやっていたと思う。

RPGの世界の中を自力で歩き回り、情報収集し、謎を解き、悪を撃つ!

そんな冒険ファンタジー小説の中を闊歩する遊びは、小説好きの母にとって夢のような時間だったにちがいない。


家族旅行のときは、決まって車の中でドラクエのサントラをかけまくり、冒険気分を盛り上げた。「ダンジョンみたいだから〜」と、観光地には必ず鍾乳洞を選んだ母。

若い頃は、変わったお人だとしか思ってなかったけれど。

ふじ乃さんも人の親となり、あれはきっと、母なりの子どもたちとのコミュニケーションだったんだな、と思う(弟は、ご多分にもれずゲーマーとなった)。


そんなふじ乃さん自身も、少しはゲームをたしなんだけれど、だいたい、母や弟がゲームしているのを眺めるの専門だった。

そういうファンタジーな世界観は好きなんだけど、レベル上げとかめんどいと思ってしまうふじ乃さんには向かなかったようだ。


けれど、小さい時から染み込んだドラクエのサントラが、生活のあらゆるタイミングで脳内再生されてしまうことはよくある。

刷り込みとは恐ろしい。


今日も、幼い息子3人を連れてスーパーマーケットへやってきた勇者ふじ乃さん。

装備は、抱っこ紐とエコバッグ。

頭のなかでは、始まりのファンファーレが軽やかに鳴り響いている。

〜そして、買い物へ〜

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幼い子どもを連れてのスーパーマーケットでの買い物…それは、まさにダンジョンを攻略するが如し…!

買い物というミッションをスムーズに遂行させない強敵は、そう、子どもたちである。

充5歳、健3歳、光0歳…見た目はかわいい盛りの3人だけれど、スーパーマーケットでの買い物においては、ふじ乃さんの恐れるモンスターと化す。


ウィン!と音を立て、自動ドアがぽっかり口を開けると、

ちゃららららららら〜(♪モンスター登場の音楽)

さっそく、モンスターのお出ましだ。

カートボクガオスンダーが2体あらわれた!


スーパーに入って最初の難関は、充と健によるカートはどっちが押すか抗争である。

充はだいぶしっかりカートを押せるようになってきたし、ふじ乃さんが少しサポートすれば押してもらって一向にかまわないのだけど…。

問題は、健だ。

魔の3歳児真っ只中、自分でやりたい欲が人生で1番高まっている時期。しかし、まだ小さいその体や、拙いスキルでは、できることが限られてくる。

でも、兄にできることが自分にはできないだなんて、彼は微塵も思っちゃいないのだろう。最強のライバルがいつも1番近くにいるのだ。

しかも、ふじ乃さんがちょっとサポートしようものなら、

「ママはさわんないで!」

と鬼の形相…。


このモンスターに比較的効果があるのは、伝家の宝刀「順番ね!」という呪文である(富士村家比)。

「野菜売り場は、たけちゃん、お豆腐とか売ってるとこは、にぃにが押すこと!そのあとも、代わりばんこだよ」

と、区画ごとに交代でカートを押すことを約束する。

しぶしぶ顔のモンスターたちだが、一応、カートボクガオスンダーをやっつけることができた!

この時点ですでに、ふじ乃さんのHPは1/4ほどけずられる。

※HP=hit point(体力)


ふじ乃さんは、お客さんや陳列棚にカートをぶつけないように、かつ、子どもたちにはカートをサポートしていると気づかれないように…本当ーーーにさりげなーーーくカートを誘導しながら進む。

「事故が起きないように気をつけながらも、狩人のごとき視線で、新鮮でおいしいものをねらって買い物する」っていうこの行為は、ボディーブローのように、じわじわと地味にふじ乃さんにダメージを与えてくる。

でも、子どもたちにも買い物を楽しんでもらいたい(もちろん、他のお客様の迷惑にならない範囲で)。

充には時折、

「にんじんは、どこにあるでしょうか?」

などと指令をだしながら、宝探しのように買い物は進む。


最近のスーパーは、入り口付近にお惣菜売り場をでーんと構えるスーパーが増えたけれど、そのおいしそうな匂いにテンションが上がるのは、もちろんふじ乃さんだけではない。

今夜は、ちょっとお惣菜を買って1品追加するか~と、ふじ乃さんは丸々とした分厚いメンチカツをトングではさもうとした。

ちゃらららら~

ソウザイボクガトルンダーがあらわれた!

またもや、子どもたちにみなぎる「僕がやる!」という気合い。

ふじ乃さんにも、わかっている。

これは、成長過程で重要な通過点だということを。

自分でやりたい!とヒトはいつから言わなくなるんだろう。こういう積極性は、とてもとても、尊いものだ。それは、わかっているんだけど。

と、コンマ何秒かのわずかな間に、ふじ乃さんは心の中で何度も反芻する。

そしてたどりついた答えは。

「お惣菜は落としたら悲しいからね、お店にも迷惑がかかるから、ママがやるね」

ものによっては、充となら一緒にチャレンジすることもあるけど、たいてい、お惣菜売り場のトングで一緒につかむのは至難の業なので、あきらめてもらう。こればかりは、ごめんね。

その間にも、健がこっそりお惣菜を指ちょんちょんしないかどうか、ふじ乃さんは横目で目を光らせるのを忘れない。

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さて、そうこうしているうちに、抱っこ紐の中の光はすやすや眠り始める。

ふじ乃さんは出かけるときに抱っこ紐を使うことが多い。この方が小回りがきくので、スーパーのカートにはあまり乗せたことがなく、たまに乗せてもすぐ泣き出してしまう。

その点、抱っこ紐の魔法はすばらしい。腰や背中が痛くなる…という副作用を除いては。

抱っこした状態で、子どもたちが押すカートを後ろからサポートするのも変な体勢になるから、とても疲れる…というのもあるけど、それにしたって抱っこ紐の魔法はありがたい。

光が歩き出して、抱っこ紐が使えなくなったらどうなるんだろう?

先のことは、あまり、考えないようにしよう。

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このスーパーでは、よく試食コーナーが設置されている。

ちょっと前まで、ふじ乃さんは「試食したら買わなきゃいけないんじゃないか」と、試食をスルーしていた時期があった。

だけど、試食コーナーって、売れるかどうかじゃなくて、どれだけ試食をさばけるかが成果になるって聞いたこともあり、それ以来、積極的に試食している。

正直いうと、自分からは試食するのが恥ずかしいこともあるけど、そんなときは子どもたちが救世主となる。

子どもたちが目ざとく試食をみつけて、

「あれ食べたい!」

と言い出したら、しょうがないな~って感じで、ちゃっかり、自分もいただく。

もちろん本当においしかったら、お買い上げすることもあるけど、どうしても買う気分じゃなかったら、そそくさとその場を立ち去る。

子どもたちが、「もう1個~!」となる前に、『にげる』を選択する。

ざざざざっ!

たいてい、回り込まれることは、ない。

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ふじ乃さんはスーパーでおいしいものを物色したり、新しい商品をお試しするのが好きなので、本当は買い物をじっくりしたいんだけど、そうも言ってられない。

買い物も中盤になると、おふざけ小僧が2体あらわれるからだ。

カートをどっちが押すかとか、にんじんをどちらが早くみつけるか、とかでケンカしていたはずのモンスターたちだが、いつの間にか結託して、こちらが身構える前に襲いかかってくることがある。

何がそんなにおもしろいのかな~と、ふじ乃さんは思うのだけど。

テンションがあがってきたモンスターたち、カートを手荒に暴走させたり、1体がカートにむりやり登ったりし始める。

最初は、

「危ないよ!けがするからやめようよ」

と、理由付きで諭すふじ乃さんだが、何度言っても呪文がはね返されるとイライラがつのってきて、

「ヤ ・ メ ・ テ!!!」

と隕石でも降ってきそうな呪文を繰り出すしかなくなる。

でも、MPが足りない…!

※MP=magic point(魔法を使うための力)

しょうがない、こうなったら、「お菓子売り場」だ…!


ふじ乃さんは、あまり子どもにお菓子をすすめたくないけれど、ふじ乃さん自身、小さい頃にスーパーで買ってもらうお菓子が楽しみだったから、

「1個だけね」

と約束して、子どもたちに自分でお菓子を選んでもらう。

で、まだ字もろくに読めない健が真っ先に選ぶのが、お菓子はラムネ数粒くらいしか入ってないのに、うん百円もする、ほぼオモチャなヤツなのには毎度感心する。そして、それはお菓子ではない、と丁重にお断りする。

それぞれお菓子を1つずつカゴに入れて、やっとおとなしくなったモンスターたちを引き連れて、ふじ乃さんは手早く買い物を続ける。

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「今日は何食べたい〜?」

とみんなに聞きながら、献立を考えるのが、ふじ乃さんは好きである。

「ハンバーグ!」

という充の声に、

「ハンバーガー!」

と健も続く(たぶんハンバーグとハンバーガーの違いをよく理解していない。)

「うーん、ハンバーガーはパンがないからできないけど、ハンバーグなら作れるよ!」

ふじ乃さんのハンバーグは、玉ねぎを入れない肉々しいやつで、まぜるだけだから実はとても簡単。子どもたちも、陽次郎さんも大好きで、よく食べてくれる。

ふじ乃さんのやる気がふるわないときは、リクエストが却下されることも多々あるけれど、今日はふじ乃さんのやる気と子どもたちの食べたいもののバランスが合致したようだ。

ふじ乃さん、なるべく子どもたちの食べたいものを作ってあげたい。

みんなが好きなものを「食わす」ことができる、それがふじ乃さんの喜びだから。

ふじ乃さんはいそいそと合挽き肉のパックを2パック、カゴに入れた。

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さて、ずんずんダンジョンを進んでいくと、アイスホシインダーとか、プリンタベタインダーとか、次々とモンスターがあらわれる。

でも、いちいち買っていては富士村家のエンゲル係数も、メタボ指数もうなぎのぼりなので、ふじ乃さんはうまいことしりぞけていく。

そしてついに、ラスボスへと続く道へと足を踏み入れる。


ラスボスは、レジでのお会計である。

混んでるときは、行列が強敵となる。

止まることを知らないモンスターたち、たちまち飽きてカートを動かしたり、奇声をあげたりしだす。

注意しながら、まわりのお客さんの目が気になって、どんどんHPを削られるふじ乃さん…。もう瀕死。

そんな時、列の前に子ども好きな村人…ならぬ買い物客の方がいて話しかけてくださると、とても助かる。

ふじ乃さんは知らない方と話すのは得意ではないけれど、子どもたちはうれしいらしく、聞かれてもないことをペラペラしゃべっている。

ここで、抱っこ紐の魔法の効力が切れて光が目を覚ました。

起きたばかりでちょっとぐずっていた光も、お客さんが「ふわふわほっぺね、かわいいね~」とあやしてくれると、上機嫌になった。

それから、レジの店員さんを始めとするスーパーの店員さんにも、ふじ乃さんは頭が上がらない。

「お手伝いしてえらいねー!」

レジの店員さんがそんな声かけをしながら、手早く商品をスキャンし、子どもたちのためにお菓子にお会計済みのテープを貼って手渡してくれた。

カートボクガオスンダーとの戦いにも加勢してくれることもある。

子育てにおいて、まわりの方々の理解や協力というのは、本当にありがたい。

ふじ乃さんにとっては何よりの回復魔法になるのだ。


そして、真のラスボスパッキング大魔王の玉座へと進む。

もうここまでくると、子どもたちは飽きてきて制御不能になっているから、ふじ乃さんは子どもたちに注意を払いながらも、集中してエコバッグに詰め込む。

本当は、色々考えて詰めたいけれど、一刻も早くスーパーを出たいので、もうどうでもいいや!で詰め込んでしまうことも多々。

いいです、多少いちごがつぶれても、いいんです、はい、はい。

パッキング大魔王をエコバッグに詰め込むと、エンディングである。

子どもたちと手をつなぎ、足早にスーパーマーケットというダンジョンを後にする。

GAME CLEAR!!!

しかし、家に帰ってもふじ乃さんに平和は訪れない。ハンバーグ作りが待っている…。


本当は、子どもたちをフルメンバーでスーパーに連れて行くのはハードルが高いので、陽二郎さんがいる時に買い物には行きたいところ。実際、兄2人を連れて買い物に行く機会は多くはない。

でも、実は1人でスーパーというダンジョンをクリアすることをふじ乃さんは楽しんでるのかもしれない。我ながらドMだな。

そんなことを、ハンバーグこねこねしながら考えるふじ乃さん。


でも、モンスターたちがスーパーの本当の楽しさを理解し、仲間になってくれる日はそう遠くないだろう。

そして、一緒にスーパーマーケットというダンジョンで、おいしいものを探す旅をもっともっと楽しみたい。

勇者ふじ乃の冒険は、まだまだ続きそうだ。

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