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レバ、塩で・・

ふらっと暖簾をくぐった“やきとり屋”・・
初めてではないが、かなり久しぶりの店だ・・・
カウンターの中から大将が「いらっしゃい三人さん?」
「いや、一人!」と答えながら振り返ると若いカップルが後に続いていた・・
ちょこんとお互い軽く会釈をし中へ・・・
「カウンターしか空いてないけど、いいかな?」
「あぁ、いいよ!」
「はい、大丈夫です・・あっ良いですか?」と、こちらにも気遣いが・・
「もちろん・・」
「ありがとうございます!」と一つ席を開けて二人は座った・・
礼儀正しく、にこやかでとても好感の持てる二人だ・・
「飲み物は?」
今日の気分は瓶ビールだ!
「瓶ビール」
「麒麟とアサヒがあるけど・・・」横浜っ子だ!決まってらぁ〜とばかりに
「麒麟!」
「あいよ!…お二人さんは?」
少し悩みながら・・サワー系のものを頼んでいたような・・
「はいお待たせ!」とアルバイトらしきお姉ちゃんが肩口からビールを・・
「おっ!ありがとう!」(良いね!一番搾りの633だ)と心がつぶやく・・
タイミング良くカウンターの大将から・・・「はい、お通しです!」
鶏皮ポン酢・・これもいいね!
とにかくビールを注ぎ一気に流し込む・・たまらん!
さて、何を頼もうか…メニューは豊富だ、看板には焼き鳥とあるがどちらかと言うと大衆居酒屋・食堂?って感じだ!・・刺身あり・揚げ物・おでん・ピザ・ラーメン・蕎麦・うどん・・と豊富!
みんな魅力的だが今日の気分は「やきとり」と思いつつも思わず・・「ポテサラ」と言ってしまう。
さて、今度こそお目当ての・・・
「カシラ・のどぶえ・レバを塩で・・」
「はいよ!一本ずつでいいね?」
「うん!」
「あっすみません、こっちにもレバの塩2本お願いします」と隣のお二人さん・・
彼が懐かしそうに・・「レバの塩って、お父さんに勧められて食べたんだよね・・それまではレバは絶対タレって思ってた・・でもそ日以来、塩なんだよね」と彼女に話す彼!
その後・・時々こちらが注文した際に
「あっ!それこっちも良いですか!」と同じものを注文しているお二人さん・・
そして何度目かの時に・・・
「すみません、なんだかさっきから真似しているみたいで・・」
「いや、構わないですよ!」
「すみません、実は、・・・・・・・」と少し酔った彼が話しかけてきた・・
二人は小学校の同級生で、中学は別々だったが高校で再会し、高校2年の時から付き合うようになった、彼女のお母さんは彼女が幼稚園の時に病気で亡くなられ、それから男手一つで彼女は育てられた。彼女と付き合うようになり、二十歳を超えると彼女のお父さんから呼び出されては、良く2人で飲みにいくようになった。そして“レバは塩が美味い”と教わった。
お父さんがよく「これ美味いぞ!・俺はこれが好きなんだ!」と頼んでくれたものを頼んでいたので、なんだか、懐かしく、また嬉しくなって、“こっちも”と頼んでしまったと言う。
そして、今日はお父さんの三回忌の法要を終え二人で飲み直そうとここへ来たとのこと・・。
彼女が静かに話し出す。
「父は母が死んでからずっと私のためだけに生きて来たような感じで、大好きだったお酒を飲みに行くのも、ずっと我慢していたところがあって・・彼と呑めるようになってからは、本当に嬉しそうに“あいつちょっと借りるぞ!”って、本当に私抜きで、二人で良く飲みに行って・・・ねっ!」
「うん、俺もそれがすごく嬉しくて・・」
彼は目にいっぱい涙を溜め・・・少し声を震わせながら
「新婚旅行から帰って土産持って行った時に・・・お父さんが
“本当に良かった!改めて、〇〇のこと頼むな・・・〇〇、もう大丈夫だな…
 お父さんは、そろそろお母さんのところへ行くよ・・・”って」
彼女はぽろんと涙を溢した。
「何言っているんですか!」
「バカなこと言わないでよ!」と二人が怒るとニコッと笑い・・
「お父さんも、お前らみたいに、お母さんとイチャイチャしたいんだよ!」
それから二週間後にお父さんは静かに息を引きとった・・・・
最近、急に痩せたなぁ〜と思って心配して声をかけると…
“結婚式に向けてダイエット中!・・・
どんな出会いがあるかわからないからね!”と戯けたと・・
思わず涙が溢れた・・・
「あぁ〜すみません、変な話、しちゃって・・本当にすみません」
「いやぁ、良いお父さんの、また素晴らしい関係の話に感動しましたよ」
「注文のたびに“えっ?”って、お父さんみたいじゃんて・・・三回忌だっただけに・・正直・まさか?って思いましたよ!不思議な感覚でした!」
「やめなよ、そう言う事言うの・・失礼だよ」と彼女から叱られる彼!
「いや、大丈夫、お父さんと好みが合って光栄ですよ!」
「すみません・・もう!そろそろ行こう!だんだん迷惑かけて来ているよ!」と嗜める彼女!
「はい!」と素直な彼!
「もう一軒だけ、行ってみるか?どこが良い?……君のパパの真似!はははっぁ〜!」
「まったく!・・ほらぁ〜!」・・・思わず吹き出してしまった!
このモノマネ・・ある友人の酔った姿にそっくりだった!
二人は丁寧に「話に付き合って頂きありがとうございました。」と何度も頭を下げ店を出て行った。
二人の後ろ姿を暖かく、ちょっと寂しいような悲しいような気持ちで見送った・・
でも決してマイナスな感情ではなかった・・どこかホッとするような・・・
彼の微笑ましい酔い方・・
きっとお父さんもそう感じながら、彼と飲んだのだろうな・・
そんな彼を優しく包むように支える彼女・・
きっとお母さんもそんな愛情豊か人だったんだろうな
良い出会いだった・・・
責任・信頼・愛情・感謝・素直さ・豊かさ・・・
大切なものがたくさん詰まった話だった・・・
いやぁ〜泣かされた・・・!

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