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今が晩年と呼ばれる時期かもしれない

そもそも小さい頃から先のことを心配して不安になることが多かった。

小学生の夏休みお盆を過ぎる頃に、夜、急に宿題が終わらなかったらどうしよう、と不安になって泣き始め、呆れた母親にそんなに心配なら今やれば良いじゃないかと言われ、それもそうかと深夜に半べそかきつつ宿題をしたり(普通に宿題は間に合った)、1年で一番嫌いなイベントが年明けに行われるマラソン大会だったのだが(別段ビリになるとかわけでもなく、むしろクラスでは半分より早い方だったのにただただ嫌いだった)夏が終わる頃には、マラソン大会まで1年の半分を過ぎてしまった、と凹んだりしていた。

そういう性格もあってか、多分私は人より「死」について想像することが多い。
現在の仕事が、病気や医療従事者の方と関わることが多いこともあるが、多分もともと、先にやってくる「嫌なこと・悲しいこと」をつい想像してしまう性格なのだと思う。
想像の9割?は実際には起こらない、と言われているが、残念ながら「死」は絶対だ。

しかし、小さい頃の夏休みの宿題やマラソン大会と違って、いつか訪れる「死」は自分に与えられている時間が有限であること、そしてそのなかでできること、やりたいことに優先順位をつけなくてはいけないことを認識させられるので、個人的に「死」を思うことは嫌ではない。
それはまだ私が病気になっていたり、リアルに「死」を想像できていないからかもしれないが…。

よって「死」を思うことは、自分の選択の優先順位が誤ってないかを、自分の心に問いかけて自分と対話するきっかけになり、何かあった時に後悔しない為に、むしろみんな積極的に取り入れたら良いのに、と思うぐらいだ。

そんなことから、日常的に死が身の周りにあるお医者さんが書かれた(しかも同年代)本というのはとても興味深かった。

この本で、さすがお医者さんの視点だと思ったのが以下のアンケートに対するコメントだ。普段「死」についてそんなに考えないという人も答えを考えてみてほしい。

質問:
「あなたは、何歳くらいで死にたいですか?そして、理由は何がいいですか?」

多くの答えは以下の3つのうちに当てはまるそう。

・平均寿命の80歳くらいに、痛くない病気か一瞬で死ぬ事故でぽっくり死にたい。
・100歳頃、老衰で死にたい。
・わからない

ただ、この3つの答えには、ある共通点があるという。

それはなんと「どれも現実的ではない」という点だという。

実際に十分ありそうな事例としては
・40歳で課長になった頃に、過程と仕事のプレッシャーでうつ病になり自殺
・68歳で、胃がんと大腸がんを同時に発見され、大きい病院で手術を受けたがうまくいかずに死ぬ

などが挙げられている。
確かにそっちの方が現実味はある。
まぁ著者がお医者さんで、どうしても病気になってやってくる方の「死」をよく見られているので、多少偏りはあるのかもしれないが…。

でも、それぐらい「死」は突然やってくる。
家族に癌は多いけど、祖父母も元気だし、なんとなく自分は80歳頃までは生きる、と思っているかもしれない。
でもそれってなんの根拠もない思い込みに過ぎない。
今が自分の人生にとって「晩年」と呼ばれる時期かもしれない。

実際の統計で見ても、30代のうち100人に1人は癌で亡くなっている、と本で紹介されている。
40代では約30人に1人60代になると約3人に1人が癌で亡くなっているそうだ。

そして60代になると、今まで30代、40代、大きな病気をしていない人たちも多く、そのなかの3人に1人が癌で亡くなる。
このように見ていると、だんだん健康で70代、80代を迎えるというのは相当運が良いのでは…と思い始める。
60代で3人のうちの1人に含まれなかったから、70代、80代の枠組みに入れるのだ。

本の中では人生は締め切りも納期もわからないプロジェクトと例えられている。
これはとてもわかりやすい。
仕事でもテストでも、締め切りや時間制限があるからどこからやろう、と考える。
しかし、人生はそれがわからないから、つい後回しにしてしまっていることが多い。
いつか、と思っていたらその「いつか」は来ないかもしれない

本の著者は医学の目的は「いのちを延ばす」ことではなく「人を幸せにする」ことである、と結論づけている。

とはいえ、当然ながら、幸せに死ぬことをお医者さんだけに頼っておくわけにはいかない。
最期に良いお医者さんに出会えることは幸せかもしれないけれど、それだけで自分の人生全てよかった、とはなかなかならないはずだ。
人生は終わりよければ、では済まないことが多い。(もちろん終わりも大事だけれど)

では幸せに死ぬ為に、自分たちでできること、と提案されていることが以下のようなことだ。

・幸せのハードルを下げること。
これは闘病日記などを読んでいてもよく出てくるのでよくわかると思う。
何気ない日常、一緒にご飯を美味しいと食べられること、自分の足で歩いて好きなところにいけること、そんなことが実は本当に幸せだと、失って初めて気づく。みんながそう書いているので、本当に実感するのは難しいかもしれないけれど、幸せだと気づく。

・自分の代わりはたくさんいる。だから自由に生きていいと知る。
先日「嵐」が2020年で活動休止する、というニュースが流れていた時に、誰かがSNSで「嵐ですら嵐を辞められるんだから、辞められない仕事なんてない」といったことを流していた。
スティーブ・ジョブスが亡くなったあとですら、Appleは続いている。
私でないと、なんてことは殆どない。

でも誰かにとっての母親だったり、父親だったり、奥さんだったり旦那さんはその人だけ。
優先順位を間違えていないか、限りある時間を使う対象はそれでいいのか、普段から気にしていた方が良いはず。

人生の最期、どんな状態で迎えるかどうかは本当にわからない。
「死ぬより辛い状態は存在するかどうか」という問いに、一般人は3割くらいしか「存在する」と答えなかったのに対し、医師はほぼ100%が「存在する」と答えたと本のなかで紹介されている。
医療従事者と一般の人が見ている世界というのはこんなにも違うのだと感じた。

そんな医療従事者の方がわかりやすい言葉で書かれている本なので、さらっと読めてしまうし、是非自分の優先順位を確かめるきっかけにおすすめしたいと思う。


4冊目:幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと〜若き外科医が見つめた「いのち」の現場三百六十五日

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