やばい、まじやばい！
何がやばいって、友達のあずみが絶望的に目的地にたどり着かない女だってこと。

あずみとは高校２年からの友達。
高校の時は普通に毎日会ってたんだけど、東京の短大に進学してから、ほとんどまともに会えたためしがない。
あずみは代々木の白妻で、私が渋谷の端女だからすごく近いのに。
待ち合わせしても絶対に現れない！　というか、あの子はぜんぜん違うところに行っちゃう。
どのぐらいひどいかと言うと、代々木にいるあずみと原宿で待ち合わせると、あずみは津田沼に行っちゃうレベル。

あずみは地図とか読めない。路線図も全然だめ。まったくちんぷんかんぷん。
地名、駅名、路線名を言っても、はあ？ってな感じで無理。
それに駅とか鉄道の仕組みがまったく理解できない。
上りとか下りとかまったくわからない。
だから、ホームに最初に来た電車に上り下り関係なくぱっと乗っちゃう。
ホームがいくつもある駅だと、適当なホームに行って、とにかく最初に来た電車に乗っちゃう。
代々木ですらまともに乗れないぐらいだから、新宿だともういったいどこ行くかは運任せになっちゃう。

路線図が読めないから、違う方向に進んでいるとか全然わからない。
ずっと目的の駅が現れるのを待ってる。ひたすら待ってる。で、とうとう終点に着いちゃう。
それからようやく「今、津田沼ってところに着いたんだけど、ここから原宿ってどのぐらい？」ってのんびり私に電話してくる。

だから、駅探とかの電車乗り換えアプリも、あずみには無力。
グーグル・マップも同じ。
地図が読めないから、表示されたルート通りになんか歩けない。
というか、あの子とりあえず適当な方向にどんどん勝手に歩き始めちゃう。
それでもスマホの指示に従えばいいんだけど、地図が読めないから自分が今どっち進んでるかがわからない。
適当に右に曲がったり、左に曲がったりして、周辺をぐるぐるぐるぐる歩き回って、結局目的地にたどり着けない。
待ち合わせした店の道路を挟んだ反対側の歩道をスマホ見ながら通り過ぎて行くあずみをたまたま見てつけて、あわてて追いかけてつかまえたことが２回ぐらいあったよ。

多分あずみがわかるのは、代々木にあるあの子の短大とその女子寮と代々木駅の周辺ぐらい。
後は混沌とした世界があの子の前に広がってるんだと思う。
でも、あずみはいつも短大の友達といっしょだし、たまの遠出は彼氏の車だし、この２年どこに行くのも不便はなかったみたい。

そんなあずみが就活中に行方不明になったって聞いて、私はまったく驚かなかったよ。
あの子、スマホの充電とかろくにしてないから、いつかはやらかすと思ってた。
朝、大宮のIT系の会社の面接に行くって女子寮を出てから、夜になっても帰って来ない、連絡もつかないって騒ぎになったんだけど、結局あずみが保護されたのが、山梨の都留駅の交番。
「ここって大宮じゃないですよね？」って交番で聞いたらしい。
どこをどう間違えば、大宮に行くのが都留なんかになるのよ。

みんなを大騒ぎさせて、結局あずみは就活はあきらめて、鳥取の田舎に帰ることになったんだけど、新宿のバスタを出てからの足取りがまったくわからない。スマホもつながらない。
もう３日になる。

あずみ、あなた今どこにいるの？