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星になれたら



少女は歩道橋の手すりに体重のほとんどを預け、ブロンドヘアを靡かせ、綺麗な横顔を夜風に晒していた。


目を閉じて、呼吸を落ち着ける。もう何時間もそうしているのに、なかなか私の意識は落ちない。昔好奇心からオーバードーズした後覚えた嫌な不快感に似ている。自分が不安定になっていく恐怖と、肩の荷が降りる様な快感が交互に訪れ、やがて快感の方だけが薄れていく。6畳の寝室も無限の大きさを持ち、何故か壁だけが不気味な圧迫感を示す。とにかく遠くに行こうと、無意識に思った。

初めて来た時は骨抜きにされたこの歩道橋からの景色も、今では寝室の天井と何ら相違ない。人は希望を感じる時、何かを消費していて、その失われた何かは本来絶望から立ち直らせてくれる一筋の光だったりする。ただ、この開放感と閉塞感のバランスは寝室にはない性質だ。イチローは交通量の多い通りで車のナンバーを視認して動体視力を鍛えたそうだが、交通量も少なければ真っ暗で車のナンバーなど分かるはずも無かった。

甘党という訳でもないのだが最近は専らボンタンアメばかり食べている。甘ったるく刺激のない味に嫌気がさす時もある。しかし、依存してしまったものをそう簡単に手放せる程人間の身体は上手くできていない。ボンタンアメを拒む事を身体が拒んでいるのだ。よって最近は、嫌気ではなく悲しい性に抗えない敗北感の味までしてくる始末だ。私自身が悪いのか、想像できない試行回数を重ねて進化し、完成した未完成のこの身体が悪いのか。どちらにせよ私にはどうする事も出来ないと、ある種絶望し、まるで他人事の様に達観している。

小さい頃は何をやっても自分が1番だと思えた。こじ付けや正当化を繰り返して自分を着飾った。でもそんな荒療治も効かない程無慈悲に、地球は広大で果てしなかった。地球は私の豪華な見た目の衣服を残忍に剥いで、別の人にあてがった。かつて私が思い描いた未来が別の人に乗っ取られ、私は何者でもなかった。私は地球が、裸のままの自分を受け入れてくれるかどうかに自信がない。だから、私は星になりたい。

歩道橋の閉塞感を打ち破り、華奢な身体が宙に浮いた。冷え切った少女の横顔に血が滴った。ブロンドヘアはトラックに引きちぎられ、満天の星空の下でサイレンの音が近づいてきた。

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