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(57)Christmas Song

街がクリスマス一色に飾られる頃になると、あの時のことを思い出さずにはいられません。

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以前このブログにも書きましたが、
クリスマス休暇の数日を一緒に過ごそうと、それぞれ別の便で日本を発ち、
パリで待ち合わせしていた友人が、
出発の数日前に心臓発作で亡くなっていたというできごとがありました。

http://makipatricia.blog.fc2.com/blog-entry-46.html
「では、パリでね」と、交わしたのが、
彼女との最後の会話になりました。

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2016年の12月18日の午後、

待ち合わせの場所は、リア・スタンの自宅でした。

秋口から、彼女に手伝ってもらって
私が数年来リア・スタンにインタビューをしていた音声を
紹介小冊子にすべく、文字に起こしていました。

その日は、補足追加のインタビューに彼女にも同席してもらう予定だったのです。
何時間待っても現れず、
リアもなんどもキッチンの窓から外の様子をうかがってくれていました。

諦めて、滞在先のアパルトマンに戻ってからふと思い立ち
彼女が講師として勤めていたフランス語学校のサイトを見てみると、
そこには、彼女の訃報が掲載されていました。

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リアもぎりぎりの時間まで一緒に心配してくれていたので、
泣きながら電話をして事の次第を話すと、

「これからあなたのところに行く。
心配で一人にしておけないわ」
と、すぐにタクシーで駆け付けると言いだしました。

が、80歳の女性を夜遅くパリの東から西、反対側に来させるなどということはできません。

「私は大丈夫だから。こんな時間に電話してしまってごめんなさい」
と、リアまで巻き込んでしまったことを謝罪すると、
「それなら、これから泊りにいらっしゃい」とまで申し出てくれました。

丁寧にお断りすると、
「一日に一回は電話かSMSを頂戴ね、心配だから」と、リア。

「Oui Merci」
と返事をし、その晩はそのままベッドにうずくまっていました。

イヴの予定が空いてしまった私に
「大したことはできないけれど」といって
お孫さん夫婦にも声をかけてくれ、ファミリーの食事会に誘ってくれました。

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後日、娘のキャロルがその時のリアがキッチンで料理をする写真を
非常に珍しがって、欲しいと言い出しました。
物心ついた時から、両親は多忙で、アトリエで仕事をしていることが多く、
キャロルはよくそこでパーツを組み合わせて遊んでいたそうです。

10月4日修正後

リア・スタンという女性の
少女期に第二次世界大戦を経験し、
一度倒産したリア・スタンブランドを復活させた気丈さ、
85歳になる今なお現役でいるエネルギーは目を見張るものがあります。

事業成功した経緯から、
常にファミリーの中心であった懐の深さと深い情愛を持つ、
鋼(はがね)のように強い経営者であり続けました。

同時に少女のように天真爛漫でピュアな魂と、
気分のアップダウンの激しい、小さな怪獣のような気質も併せ持ちます。

リアと私は、どこか似ているところがあるとお互い感じていて、
以前そんな話をしたこともあります。
素人からこの仕事を始めた私を応援してくれているのは、
自分も乗り越えてきた様々なことがあるからなのでしょう。

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その一方、勿論、ビジネスの取引相手であり、
双方の思惑が行違うことも当然出てきます。

どういう状態に置くのがよいかは明白なので、
そこに着地させるためには
どうするべきか、その都度考えさせられます。

20余年勤めていた時とは異なる立場・環境、
加えて欧州人と取引する感覚・常識の違い等々で、
当惑する局面も少なくありません。

単にリアの作品の紹介者としてのスキルを培うだけでなく、
リアとのビジネスとは離れたところで
自分がどういう形で自分の事業をオーガナイズしていくか、
どういう理念で経営し、どういう自分でありたいか、
関わってくれている人達に、どう循環・還元できるのか、
を自分に問いかけます。

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【「私は素直な悪よりも頑固な善を好む」「物知りの馬鹿は無学の馬鹿よりも馬鹿ですよ」モリエール】

すべて順調にいっていたらわからなかったこと、
感じることができなかった心情、
大切な相手だからこそ、将来を見据えながら舵取りしていく術(すべ)を、
時には痛みをともないながら学ばせてもらっています。

アクセサリーと雑貨を売っているたかが小さな事業主ではありますが、
そこを意識することが仕事をしていく意味だと思っています。

リア・スタンとの出会いが、
様々な課題と対峙するチャンスを与えてくれていることに深く感謝しています。

ちょとした幸せ (52)リア・スタンのファミリーと

以前、関西のフランス展で、
百貨店側から私の主力商品の作家として
リア・スタンと夫のフェルナンを招聘するオファーをいただきました。
が、二人の年齢を鑑みて、
娘のキャロルがスケジュール調整して代行で来てくれることになりました。

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催事が終わって、奈良や浅草を案内し、
ゆっくりと話をする時間が持てました。

思春期に両親の会社が一旦倒産した時に起きたこと、
自分がなぜ建築家という職業を選んだのか、
パートナーと息子さんのこと・・・

一歩近づいて、
また仕事が絡んで距離ができ、
また親しくなれるきっかけができたり・・・

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今、BGMにChristmas Songをかけているものですから
少し感傷的になっているかもしれません。

リア、夫のフェルナン、娘キャロル、
リアのファミリーとは、
単にビジネスの関係だけではない、
なにかそこに意味深い学びやご縁があるように思えてならないのです。

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