見出し画像

8月1週目

『最後にして最初の人類』

画像1

(C)2020 Zik Zak Filmworks / Johann Johannsson

『少年の君』

画像2

(C)2019 Shooting Pictures Ltd., China (Shenzhen) Wit Media. Co., Ltd., Tianjin XIRON Entertainment Co., Ltd., We Pictures Ltd., Kashi J.Q. Culture and Media Company Limited, The Alliance of Gods Pictures (Tianjin) Co., Ltd., Shanghai Alibaba Pictures Co., Ltd., Tianjin Maoyan Weying Media Co., Ltd., Lianray Pictures, Local Entertainment, Yunyan Pictures, Beijing Jin Yi Jia Yi Film Distribution Co., Ltd., Dadi Century (Beijing) Co., Ltd., Zhejiang Hengdian Films Co., Ltd., Fat Kids Production, Goodfellas Pictures Limited. ALL Rights reserved.

『ハウス・バイ・ザ・リバー』

画像3

『ライトハウス』

画像4

(C)2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

『サマーフィルムにのって』

画像5

(C)2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

今週一番良かったのは『最後にして最初の人類』。

音楽家として広く知られるヨハン・ヨハンソンの映画監督としてのデビュー作は2015年の短編映画、『End of Summer(原題)』とのことで、こちらもいずれ日本でも上映されるのではなかろうか。

『最後にして最初の人類』は、マルチメディア作品として2017年にマンチェスター・インターナショナル・フェスティバルでライブパフォーマンスとして初上演されたそう。50%ほど完成していた音楽は、彼の死後、ヤイール・エラザール・グロットマンの手によって引き継がれ、完成を迎えた…。

ヨハン・ヨハンソンが映画撮るんだ、という好奇心だけで観に行ったのだが結果とてもよかった。ファーストデーで客の入りも8割ほどという感じだったけど音楽に興味のある人たちだろうか?友人は「坂本龍一がコメントしてたから観た」と言っていたが、劇場およびパンフレットで彼のコメントを確認したところ映画に対するコメントではなく追悼コメントだった。

実は本作を観るまでスポメニックというものを知らなかったのだが、これらを16ミリフィルム、アナモルフィックレンズで撮影することで、昔のドキュメンタリーあるいは記録映像のような不気味さと緊張感を演出している。ナレーション(ティルダ様である)の内容と、スポメニックは直接的には関連性がないのだが、途中あたりから「それがそう」であるかのようにマッチしてくる不思議な感覚。劇中音楽はもちろん良かったのだが、自分は「心地よいい…」と聴き入っているところでいきなりブチっと切られることに快感を覚えるのでそういうシーンもいくつかあってテンションが上がった。

ストーリーとなる原作はオラフ・ステープルドン。SF方面に明るくないのだが、アーサー・C.クラークなどに影響を与えた小説家であるということで、おそらく偉大な人物なのだろう。

詩のように語りかける人類へのメッセージと映像と音楽をひたすら心地よく体験する71分間は贅沢なひとときだった。しかし、やはりどうしてもヨハン・ヨハンソンが生前最後に遺した作品というのが頭をよぎり、それが内容ともリンクして「エモすぎだろ...」と呟かずにはいられなかった。

この週はモノクロ映画を観ることが多くて、シネマヴェーラの「恐ろしい映画特集」でフリッツ・ラングの『ハウス・バイ・ザ・リバー』も観た。この映画のすごいところは、これだけ内容盛りだくさんなのに1時間29分に収めているところではないだろうか。最近だとこういう内容の作品はだいたい2時間かかるものが多い。自分はべつに蓮實信者ではないが、氏の「90分がベスト」説には同意するところがあり、90分に収められるならそれが良いと思っていて(もちろんその作品に120分間や180分間の意味があるならどれだけ長くても良いと思う)、綻びなく澱みなく横着もせずに完成している本作をみて、やっぱ90分でできんじゃん!という気持ちになった。風がふわ~っとふいたり、人影などの描写をみて「黒沢清だ…」と思う癖はそろそろやめたい。

もう一本が『ライトハウス』だ。最近ことさらA24って持ち上げられるよなあ、とか思いつつも気になったので確認。観始めてすぐ思ったのが「これってモノクロで撮る意味あるのか」。なにせこの週すでに素晴らしいモノクロ映画を2本観ていたので…。

ただ、荒れ狂う海のシーンはモノクロならではの迫力がかなりあった。画が不明瞭な分、「海ってこんな風だった?」と、いままでに見たことのない海の動きやその造形に不気味さを感じた。あとは、ラストシーン近く、ついに灯台(ライトハウス)に登ったウィンズローが「ギャーーーーー」と発狂するのだがそこでの音がグリッチして「ブブブブブブ」と変な音になり、まるでフィルムが燃えていくように顔が発光していく様も良かった。

閉鎖された空間で精神状態がどんどんおかしくなっていく、というのはありがちといえばありがちなのでその辺で感情を揺さぶられるようなことは特になかった。どちらかというと淡々と「へー、なるほど」という具合で観進めてしまったのだが、どうやら考察記事を読むと意味ありげな各シーンには(当然ながら)意味があったようで。こちらの記事で詳しく解説されている。

佐々木さんと南波さんの解説も面白かった。『ウィッチ』はまだ観たことがないのでこれを機にみてみようかなとおもった。動画をみて知ったけど本作のパンフレットの分厚さにびっくりした。


残り2本。『少年の君』から。

これはとても良い映画だった。冒頭のタイトルコールから秀逸で、こういう映画を撮れるのはすごい…というのが本作に対する感想。すでに観た人の感想をみるに、ハードでつらい映画のようで、休日の朝から観るのどうよ、と思っていたけど案外そうでもなく、ちゃんと救いのある結末なのでそこが引っ掛かって観るのを躊躇している人はぜひ劇場へ足を運んでもらいたい。自分的にはピュアな青春映画としてカテゴライズしている。

自分も進学校へ通っていたけど、主人公の通う学校はそれとは比べ物にもならないぐらいの過酷な環境。中国は人が多いから生きていくの本当に大変そうだなと何度も思った。シーンとしては、給食(?)の牛乳を一足先に飲んでしまう女生徒の伏線が印象的。最初はちょっとした反抗の姿勢なのかなとか思っていたけど結果的にそうではなかったという…。「一足先」、そういう意味かあ。

というわけでとても良い作品だったのだが、物語が終わり、エンドロール前にシャオベイを演じたイー・ヤンチェンシーが昨今のいじめ問題について語り始めたところで椅子からずり落ちてしまった。確かにいじめは現代社会が抱える深刻な問題ではあるのだがここでわざわざそれについて語る必要があっただろうか、しかも彼はいまシャオベイではなくイー・ヤンチェンシーとしてそのメッセージを発している。いきなり現実に引き戻された気持ち。複雑な心境で劇場を後にした。

この結末がっくり話につながってくるのが『サマーフィルムにのって』である。

これは5月にはじめて劇場で予告編を観たときから「面白そうだな」と期待していた作品だ。なにせ女子高生の口から「勝新(勝新太郎)」とか飛び出てくるのだ。こういうメインストリームからちょっと外れた(便宜上そう言っているわけであって実際には自分たちこそメインストリームだと思っている)人物像には好感が持てたし、内容的にもSFを組み合わせるなどなかなか斬新。テンポも良いし、笑わせるツボ、間合いも悪くない。映画部、映画の未来、未来人…という様々なベクトルが次第に一直線上に集約していき、綺麗に着地しようとする。

ところがである、期待のラスト10分。確かに、物語の辻褄を合わせるためにはあの演出が正しかったのだろうが、わたしはそれが始まった瞬間だめになってしまい、スクリーンを直視できなかった。なぜ、ああしなければならなかったのだろう、私だったらジミヘンのごとくサマーフィルムを燃やしてしまうだろう。それではだめだったのだろうか?

そんな感じで今週もおわりました。

この記事が参加している募集

映画感想文

100JPYで発泡酒、500JPYでビールが買えます。よろしくお願いします。