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外堀から攻めていこう (防犯。隙を見せない旅・その2)


前回、ブランドだのハイジュエリーだのといった話をしたので、自分には関係ないと思っている人がいるかもしれない。
旅する日本人の中には「自分は見るからに爪に火を灯すような貧乏旅行者だから、きっと狙われないだろう」と希望的観測を持っている人がいるが、残念なことにそうとは言い切れないのである。
どんなに自分の旅は貧乏旅行だと豪語しても、現地の人たちには意味のないこと。国にもよるが、外国人はイコール、金持ちだ。結局、君は大枚積んでここまで飛んで来ているのであって、「豪華なリゾート旅行と比べるといくらか質素だ」というだけである。現地の人たちの目には、海外旅行者は貧乏系もリゾート系も大差なく映るということを肝に置こう(そもそもリゾート系の人も防犯のためにラフな格好をしているわけだから)。


そしてテレビで見た、旅のドキュメンタリー番組の様子も忘れること。あれを夢見てはならない。
ふらりと立ち寄った地元の家に招かれて、たくさんの家族に囲まれ、おいしい郷土料理をご馳走してもらって、みんなで乾杯。夜まで楽しく呑み明かす。そして翌朝、涙の別れ。ハグ。……ないない。ないね。それはもう幻想。イリュージョンだ。
やりたければ大枚を積んで、短期留学やホームステイのホストファミリーにやってもらおう。一般の旅行者がその状況に持って行くには、相当の長時間をかけて、彼らが安全か否かの見極めをしなければならない。短時間で判断できるものじゃないし、多くの犯罪は相手のテリトリーに入ってしまったからこそ起こるものだ。『万引き家族』じゃないけれど、家族ぐるみの犯罪だって十分あるのだ。「小さな子どもがいる家庭だからそんな悪さはしないだろう」なんて考えも、からきし甘いのだ。
考えてみてみよう。君は日本国内の旅行で、フラッと立ち寄った知らない田舎の人の家でここまで仲良くなってご馳走に預かるなんてある? 日本だってそうないこと。外国だってない。むしろ外国では誘われたら警戒すべきなのだ。
さらに、あそこに出ているタレントたちは、かなり隙だらけだ。
なぜなら、いつだって大勢の人に守られているから。テレビ画面ではタレント1人しか映っていなくても、実のところレンズのフレームの枠外には、カメラマンや音声、ディレクター、アシスタントディレクター、通訳兼現地コーディネーター、マネージャーなどたくさんの人たちが大名行列のごとくついている。たとえ零細番組で、同行しているのがカメラマン兼務のディレクター1人だけだったとしても、カメラが守ってくれている。回っているカメラの前にノコノコやって来たとしたら、そうとう呑気なワルである。


では「隙を見せない」とは、一体どういうことだろうか。それは、ピリピリと常に緊張を漲らせていることでは決してない。そんな身構え方では、周囲に「ハハァ。こいつ怖がってるな。慣れてないんだな」と思わせるし、「何ビビってんだ? 大金でも持っているのか?」と反応されるかもしれない。
だって、街中でそんなにビクビクしていたら完全に浮くのだから。緊張は伝わるもの。知らない街でドキドキするのは仕方がないが、できるだけ肩の力を抜こう。どうしても目が泳いでしまいそうだったらサングラスを掛けるのもアリだ。

そう。まず第一に、浮いてはいけないのである。要するに隙を見せないとは「場慣れしている雰囲気を醸し、周りに溶け込む」ということだし、「緊張していないけれども、相手が手を出す余地がない」ということだ。理想形としては、「この人、この街に住んでいるのかな?」と思わせること。

とはいえ、外国人の移住者が少ない街では、日本人の自分はどうしても目立ってしまう。あるいは、街に着いたばかりでどうしても大きな荷物を背負っていて「どっから見ても着いたばかりの観光客」というときは仕方ないよね。
そんなときは「ペイペイの観光客」に見えないように務めるべきだ。キョロキョロせず、「確かに私は観光客ですけれど、何か? ええ。この街は初めてではないんですよ〜、何度も来てますよ〜。なんなら今、別の旅からこの街へ『ただいま』と帰ってきたところですから」というぐらいのふてぶてしさを出してほしい。
心の動揺は表に出さず、が原則だ。「ここに住んでる人」を演じるのであれば、堂々と颯爽と歩こう。悪目立ちすることなく、街の住民に溶け込むことを目指してほしい。

だけれども時折、後ろを振り返ること。これが大事。たいてい犯罪者はつけ狙いながら、相手を物色する。後ろから人がついてきていないか常に用心深くしていることは、相手にとっても威嚇になる。注意深くない人がカモなのだ。振り返ることにより、手を出す余地を与えないことになる。
キョロキョロと挙動不審になるのとは違う。しっかりと振り返って、きちんと後ろを確認することだ。とりわけ日没後に出歩いたり雰囲気の悪い路地に入ってしまったときは、こまめに何度も振り返ろう。それだけでも防犯になるのだ。

また人混みに入ったときは、必ずカバンを体の前に回して抱えて歩くこと。「手を広げた範囲内に他人がいるような場所」では十分に警戒が必要だ。観光名所、パレードや大道芸を見るとき、チケット売り場、駅の構内、バス、電車の車内。エスカレーター、エレベーターなど。混雑した場所、人が密接する場所はプロ中のプロがスルッと貴重品を盗んでいく。あるいは、バッグをナイフで切り裂いて中のものを取り出そうとする。なので、こちらも隙を与えてはいけない。

住人であれば、道のど真ん中で地図やガイドブックを開くはずはない。もし確認したいのであれば、カフェなどでこっそりチェックすること。カフェならばWi-Fiもあるから、地図アプリで確認もできるしね。
なので、地図は小さなメモに簡単に写してから出かけるといい。一度紙に書き出すと、ざっくり場所も覚える。道を確認するときも、ただ手のひらのメモを見ているだけであれば、迷ったとも思われにくい。

そして、どうしてもわからなくなって人に道を聞きたい場合は、こちらから誰か通行人に聞くこと。大事なのは、慎重に人を選び、あくまでも「話しかけるのはこちら」からなのだ。
間違っても「道に迷ったかい?」なんて、笑顔を振りまきつつやってくる人を決して頼らないこと(本当に親切心で声をかけてくれることも沢山あるのだが!)。必ず、普通にぼーっとした顔で歩いている(できれば)女性に、自分から声をかけよう。そのほうがリスクはずっとずっと下がる。

同様に、頼んでもいないのに人がやってくるときは気を引締めよう。
歩いている途上で他人から道を聞かれるとき、アンケートを求められるとき、「何か汚れがついているから払ってあげるよ」と親切にも人が近づいてきたときは、警戒レベルをグッとあげて。
あどけない子どもたちが大勢囲んできたからって、ニコニコアハハハと戯れないように。彼らもプロである可能性がある。同様にカフェや車内で誰かに話しかけられても、荷物をそっと引き寄せて話を聞く。なぜなら、スリや犯罪者である危険性が捨てきれないからだ。
たとえ話しかけてくる人が1人だったとしても、背後や横に仲間がいる可能性もある。前方ばかりに注意しないで周りにも気を配ること。ホットドッグのケチャップやアイスクリームを服につけられて、拭いてもらって気を取られている間にもう1人の仲間に財布を取られるなんて話をよく聞くよね。アイスクリームをつけられたら、もうつけられたまま逃げ去って、誰もいないところで自分でぬぐい取る。


「場慣れした雰囲気」を身につけるために、旅慣れていなかった私が実際にやっていたことといえば。新しい国や新しい地域に行く際、できるだけただちに中心部や観光地から遠ざかるようにしていた。例えばイタリアだってスペインだって(ヨーロッパって案外、犯罪が多いんだよね)、まずは郊外の街へ移動し、そこからぐるりと周辺の街を回って最後に本丸の都心に入ったものだ。

経済の利便性のため、ほとんどの空港は都心に近いところにあるし、午後便の夜半に現地に着いた場合はそう簡単に近郊に移動ができないかもしれない。でも着いた当日は極力、人が多い場所や観光地にいきなり向かうのはやめる。
そして翌日には郊外の街に宿を取り、ゆっくりその国の紙幣やコインを覚えて、物価に慣れ、ボラれないような技術を身につける。ヤバい場所やヤバい時間帯などの鼻が効くよう治安に慣れ、こんな距離感でこんな態度で人が接してくるだとか、こんな振る舞いはトラブルに合いやすいだとかの人の気質に慣れてから、ようやく大本命の観光地や首都に乗り出すようにしている。

私が作り出した経験則では。
郊外に行く場合、同じ国内でも南の地方のほうが北の地方よりマイルド。山沿いよりも海沿いのほうがおおらか。国境周辺は何かと治安が悪いことが多い、などだ。
これらはあくまでも傾向で、すべてが当てはまるわけではないのだが、その国をぐるりと回ったときに感じた私なりの法則。
こんな要素も加味しながら、ガイドブックやネットなどで情報を集めつつ、南周りだとか海沿いスタートでプランを組んでいくのもいい。

だいぶ旅慣れてきた現在でも、私はここはちょっと治安が悪いという噂を聞くと、今言ったように外堀から攻めるようにしている。そしてじわじわと核心に近づいていくのだ。


(その3へ続く!)



ここまで読んでくれただけで、うれしいです! ありがとうございました❤️