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Infectious Diseases Society of America 2023 Guidance on the Treatment of Antimicrobial Resistant Gram-Negative Infections

Clin Infect Dis. 2023 Jul 18:ciad428. doi: 10.1093/cid/ciad428

  1. ESBL-E(Extended-Spectrum β-lactamase Producing Enterobacterales)

  • ESBLはほとんどのペニシリン系、セファロスポリン系、アズトレオナムを不活性化する。ESBL-Eはカルバペネムで治療可能である.

  • ESBLはnon-βラクタム剤(シプロフロキサシン、ST合剤、ゲンタマイシン )を分解しないが、ESBL-Eはしばしば違う耐性遺伝子やmutationを有しているので、耐性の場合も多い.

  • ESBLは、E coli、K pneumoniae、K oxytoca、P mirabilisが有している確率が高い(どんなグラム陰性菌も保有しうるが).

  • 米国ではCTX-M-15が最も頻度の高いESBLで、日本でもESBLsの90%以上がToho-1やMEN-1に代表されるCTX-M系ESBLsである.

  • CTX-M系はセフォタキシム(CTX)、セフトリアキソン(CTRX)、セフェピム(CFPM)に高度耐性を示すが、セフタジジム(CAZ)やアズトレオナム(AZT)は見かけ上感性と判定される場合がある.

  • ESBLsはクラブラン酸やスルバクタムによって酵素活性が阻害され(つまりAMPC/CVAやAMPC/SBTがS)、セファマイシン系(CMZやFMOX等)やカルバペネム系(IPMやMEPM等)は分解できない(Sになる).よって、「CTRXなどの第3世代セフェムがRで、CMZやMEPMがS」であればESBLsを示唆する。【臨床での耐性菌見分け方の基本】

  • ESBLは、第3世代セフェム R、CMZ S、MEPM S

  • AmpCは、AMPC/CVA R、CMZ R、CEPM S、MEPM S

Q1.1:ESBL-Eによる非複雑性膀胱炎の治療薬は?
【Recommendation】

  • ニトロフラントイン、ST合剤が推奨される.シプロフロキサシン、レボフロキサシン、メロペネムは代替薬となる.アミノグリコシド単回投与、経口フォスフォマイシン(大腸菌のみ)も代替薬となる.

【Rationale】

  • ニトロフラントイン、ST合剤はESBL-Eによる非複雑性膀胱炎に有効である.キノロン、カルバペネムは有効ではあるが、非複雑性膀胱炎に対しては使用を控える.特にキノロンの使用を避けることは、薬剤に関連するリスクを減らすことができる(QTc延長、腱炎、腱断裂、大動脈解離、痙攣、末梢神経障害、CDI).

  • アミノグリコシドはほぼ全てが尿路から排泄され、1回の静脈投与で、有害事象なく、非複雑性膀胱炎を治療可能(データは不足しているが).

  • 専門医委員会は、アモキシシリンクラブラン酸、ドキシサイクリンをESBL産生菌による膀胱炎に推奨しない.女性の非複雑性膀胱炎に対し3日間のアモキシシリンクラブラン酸とシプロフロキサシンを投与した結果、臨床的治癒はそれぞれ58%、77%であり、アモキシシリンクラブラン酸の成績が悪かった.In vitroではクラブラン酸はESBL産生菌に有効性があるが、臨床では効果は期待できない.

  • ドキシサイクリンは多くが腸管から排泄され、尿路への排泄は限られる.よってより臨床的有効性を示すデータが得られるまでは使用を推奨できない.

Q1.2:ESBL-Eによる腎盂腎炎または複雑性尿路感染症(cUTI)の治療薬は?
【Suggested approach】

  • ST合剤、シプロフロキサシン、レボフロキサシンが推奨される.エルタペネム(日本未承認)、メロペネム、イミペネムシラスタチンは、ST合剤やキノロンに耐性がある場合や毒性により使用できない場合に考慮される.アミノグリコシドも代替薬となりうる.

【Rationale】

  • ST合剤、シプロフロキサシン、レボフロキサシンはESBL-Eによる腎盂腎炎や複雑性尿路感染症に対し好ましい治療薬剤である.それらは尿路で十分で持続的な濃度が保たれ、臨床試験で効果が認められていることから好まれる.カルバペネムも有効な薬剤だが、ST合剤やキノロンが使用できない場合や、患者が重症の場合の初期治療に使用される.もしカルバペネムで治療が開始され、 ST合剤やキノロンへの感受性が良好だと判明したらそれらの内服薬に変更することが望ましい.カルバペネムは未来の薬剤耐性菌による感染症に使用できるように温存すべきである.

  • アミノグリコシドはTDMに基づいた治療設計により、(腎毒性が許容できる患者であれば)ESBL-Eの腎盂腎炎または複雑性尿路感染症に使用可能である.

  • ドキシサイクリンは使用を推奨できない.

  • ピペラシリンタゾバクタム、セフェピム、セファマイシン(セフメタゾール含む)の有効性については、後述する(Q1.4、Q1.5、Q1.6).

Q1.3:ESBL-Eによる尿路以外の感染症の治療薬は?
【Suggested approach】

  • メロペネム、イミペネムシラスタチン、エルタペネムがESBL-Eによる尿路以外の感染症に推奨される.重症患者、低アルブミン血症の患者にはメロペネムかイミペネムシラスタチンが推奨される.適切な臨床的反応が見られたら、 ST合剤、シプロフロキサシン、レボフロキサシンが推奨される.

【Rationale】

  • 適切な臨床的改善(clinical milestones)が達成されたら、 ESBL-Eによる血流感染症に対し、経口薬へのstep-downが支持される.生体利用率、血清の濃度の観点から、ST合剤とキノロンを内服薬として考慮すべき.Oral step-downには、(1) 薬剤感受性があること、(2) 患者の血行動態が安定している、(3) source controlが達成されている、(4) 腸管からの吸収に問題がない、が達成されている場合がある.

  • ニトロフラントイン、ホスフォマイシン、ドキシサイクリン、アモキシシリンクラブラン酸へのoral step-downは推奨されない.ドキシサイクリン、アモキシシリンクラブラン酸は十分な血中濃度を達成できない.

Q1.4:ESBL-Eによる感染症に対するピペラシリンタゾバクタムの効果は?
【Suggested approach】

  • 非複雑性膀胱炎に対しピペラシリンタゾバクタムが開始され臨床効果を認めている場合、後に原因菌がESBL-Eと判明した場合は抗菌薬を変更せずに治療を完遂しても良い.

  • ESBL-Eによる腎盂腎炎や複雑性尿路感染症の場合、 ST合剤、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、カルバペネムを選択すべきである.ピペラシリンタゾバクタムはESBL-Eによる尿路以外の感染症に対する治療に推奨されない.

【Rationale】

  • 臨床試験の結果について記載があるが、省略.

Q1.5:ESBL-Eによる感染症に対するセフェピムの効果は?
【Suggested approach】

  • 非複雑性膀胱炎に対しセフェピムが開始され臨床効果を認めている場合、後に原因菌がESBL-Eと判明した場合は抗菌薬を変更せずに治療を完遂しても良い.

  • ESBL-Eによる腎盂腎炎、複雑性尿路感染症、尿路以外の感染症に対して、(たとえ感受性があっても)セフェピムは推奨されない.

【Rationale】

  • 臨床試験の結果について記載があるが、省略.

Q1.6:ESBL-Eによる感染症に対するセファマイシンの効果は?
【Suggested approach】

  • ESBL-Eによる感染症に対してセファマイシンの使用は推奨されない(セフォキセチン、セフォテタンを用いた治療データが得られるまで).

  • ※セフォキセチン、セフォテタンは日本にはなく、セフメタゾールについての記載はない.

【Rationale】

  • 臨床試験の結果について記載があるが、省略.

Q1.7:ESBL-Eによる感染症に対するβ-ラクタム-β-ラクタマーゼ阻害剤とセフィデロコール(フェトロージャ)の効果は?
【Suggested approach】

  • ESBL-Eによる感染症に対する、セフタジジムアビバクタム、メロペネムバボルバクタム、イミペネムシラスタチンレレバクタム(レカルブリオ)、セフィデロコールの使用は(カルバペネム耐性菌を治療する場合に備え)控えるべきである.専門医パネルは、ESBL-Eに対しセフトロザンタゾバクタム(ザバクサ)を使用することを推奨しない(複数菌感染症の場合を除いて).

【Rationale】

  • セフタジジムアビバクタム、メロペネムバボルバクタム、イミペネムシラスタチンレレバクタム、セフィデロコールはESBL-Eに対する活性がある.アビバクタムはESBL酵素による加水分解からセフタジジムを守る.臨床試験では、セフタジジムアビバクタムは、ESBL-E感染症への有効性を認める.

  • メロペネムバボルバクタム、イミペネムシラスタチンレレバクタムのカルバペネム成分は、βラクタマーゼ阻害薬成分がなくてもESBL-Eに効果がある.セフタジジムアビバクタム、メロペネムバボルバクタム、イミペネムシラスタチンレレバクタム、セフィデロコールはESBL-Eに対する有効性が期待できるものの、それらはカルバペネム耐性菌による感染症の治療に備え使用を控えるべきである.

  • しかし、複数菌感染症の場合や、薬物相互作用が懸念される場面では、それらの薬剤は考慮してもよい(セフタジジムアビバクタム、イミペネムシラスタチンレレバクタム、セフィデロコールは、DTR-P. aeruginosaとESBL-Eの混合感染に対して、セフタジジムアビバクタム、セフィデロコールはバルプロ酸を使用している場面などで).

  • セフトロザンタゾバクタム(ザバクサ)は、in vitroでも臨床試験でもESBL-Eに対する効果を認める.しかし、Q 1.4で議論したように、専門医パネルはタゾバクタムがESBL産生を抑制できるかについて懸念がある.

  • 専門医パネルはESBL-Eに対するセフトロザンタゾバクタムの使用に反対である.

  • DTR-P. aeruginosaとESBL-Eの混合感染では、セフトロザンタゾバクタムが考慮される(ただしザバクサは嫌気性菌への活性はない).

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