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SF の役立て方

はじめに

最近「SF 的な考え方を持つことが、製品開発に役に立つ」という噂があります。言いたいことは分かるのですが、それって「想像力」「創造力」があるかどうか?の問題な気もします。とりあえず、今日はこの話を。

事例

SFプロトタイプとは、現実の科学技術にもとづいて創作された短編小説や映画、コミックのことである。そうした発想自体は新しいものではなく、それこそ百年以上前から、作家は事実にもとづくフィクションを手がけてきた。SFプロトタイプが他と異なるのは、創作物を開発の過程におけるひとつの段階、あるいはインプットとして使っており、その点を明確にしていることにある。デザイナーや技術者、科学者、アーティスト、学生、あるいは戦術プランナーと、さまざまな立場の人々にとって、SFプロトタイプは未来を想像し、描写するためのまったく新たな方法を提供するものなのだ。

下記 www.itmedia.co.jp の記事より

わかりにくいので、私的に超翻訳します。

今後売れる製品を、ユーザがはっきり言えることが減ってきている。昔なら「家族4人乗れる 100万円の車がほしい」と言えたが、今はユーザ自身が何が欲しいのかわからない時代である。iphone が出た時に、あれが欲しかった人はほとんど居なかったと言って良いでしょう。しかし、何十年も前からスタートレックシリーズでは、登場しています。こういうセンスがいるのでは?

宇宙暦1312.4 私的記録
TNG でのパッド

重要なアイテムたち

以下、かなり昔の SF 小説/映画等から、前述したパッドに相当する「未来予測」の事例を紹介します。何十年も前の作品です。それに沿って、いくつか考察します。

1.計算機=コンピュータ

SF 世界で「コンピュータ」と言えば、普通に自我を持っていて人間と言葉で会話できて、時に恐ろしいものです。横山光輝先生の漫画「バビル二世」には「バベルの塔」という基地があり、そこにはこんなコンピュータが。もちろん話ができるし、高度な知能も持っています。現在の AI のレベルではありません。バビル二世の曖昧な指示の下で、戦略分析等も出来ます。
この 100億倍は、1.5 EXA FLOPS に相当しますが、現在のスパコンは数EXA級となり、すでに追いついています。が、残念ながら忖度できないです。まだまだです(横山先生には、もう少し多めに書いてもらう必要がありました)。 

バベルの塔は、NASA のコンピュータの100億倍

2.人格の統合

次の進歩は、単なる計算機械ではなく、個人の人格そのものをコンピュータに再現する技術です。脳を機械化する方向と、機械を生き物に育てる方法があります。

キャプテン・ハーロックでの、アルカディア号とトチロー
天馬博士が息子の代わりに作ったアトム
コンピュータの方には意識は無いようだが…

最近、生前の作家の作品を元に、新作を生成するという試みが始まっています。これは部分的に、作家を電子化した事になりそうです。余談ですが一部の SF 小説コンクール(星新一賞)では、作者が人間でなくても良い事になりました。既に AI 差別をしないと、記載されてます。

■人間以外(人工知能等)の応募作品も受付けます。ただしその場合は、連絡可能な保護者、もしくは代理人を立ててください。人工知能をどのように創作に用いたのかを説明して頂く場合があります。
■人工知能を創作に用いた場合でも、審査に影響する事はありません。またその情報は審査期間中は審査員へ明かされません。

応募資格抜粋

また、過去の SNS の書き込みを元に、故人が生きてたら何をつぶやくのか?を生成する試みもあるようです。
人工知能の方は AI が流行っている訳ですが、これは一部の人がある性能境界「シンギュラリティー」を超えると自然に自我が目覚めるのでは?と、かなり真剣に議論されています。人間の脳の論理的な構造を全てシリコンで造った時、はたして自我が目覚めるのか。あるいは、脳は受信装置に過ぎず、何らかの「霊魂」のようなものが存在するのか、まだ科学の外側です。

ただ、SF 世界はその先に進みます。

市民権を持つ初めてのロボットを殺害する群衆

もし、ロボットに人権を認める社会ができたら、それを受け入れられるか?ということを SF ファンは結構真面目に考えています。故に歴史上人種差別が起こったことも、今でも抵抗がある人がいることも、解決する課題だということも、理解しやすいのかもしれません。
ロボットには三原則があり、これもずっと議論をされています。果たして、これはロボットへの差別ではないのか。ロボットを「奴隷」と置き換えたら、これは人種差別ではないのか等。SF ファンですら、ロボット差別からはまだ脱出できないのでした。

1条
ロボットは人間に危害を加えてはならない
2条
ロボットは人間の命令に服従しなければならない
3条
ロボットは1条2条に反する恐れがない限り自己を守らなければならない

アシモフのロボット三原則

また、実用的なロボットである無人兵器は、明らかに第一条に反している訳で、現実の方が追い越している実態もあります。様々な誘導兵器は既に画像認識で相手を判断しています。

ウクライナ軍のジャベリン

3.移動機械

身近な移動機械について。SF 世界では乗り物=宇宙船なのですが、一家に一台時代はまだまだでしょうから、地上を走行する?ものに限定してみましょう。

まずはアメリカの喋る車、KNIGHT 2000 です。完全な人工知能で、自動運転なんて余裕で、明らかに主人公より運転もうまい。自動運転の可能性を、1980年代に見せてくれた訳です。失神したけが人を一人で載せて、病院に送れるとか(病院側は驚くのですが)。

主人に皮肉を言ったり、ジョークを飛ばしたり

日本では1960年代の段階で、既に「流星号」が登場します(脚本を書いているのは、後に日本SF作家の中核をなすメンバ)。30世紀から来たタイムパトロールという設定ですが、何とこの流星号は車体が「曲がり」ます。作中設定では「マッハ15」ですが、これはスペースシャトルの大気圏突入速度がマッハ25なので、何とかクリアしていますが、この「曲がる」は難しそう。恐らく、操舵を車体の変形で行っているのでしょう。流星号も人工知能搭載で、自動運転できますが、無駄口は叩かないタイプです。
で、ここがポイント。人間の意図は理解出来るのが正しい。しかし、意識を持って喋るべきなのか、意識を持たず道具として忠実に黙っているべきなのか。SF界では、これは結構議論されています。

後ろに見えるのが流星号 馬の名前みたい
恐らく車体は金属ではない

4.コンピュータサイエンス

最後にセキュリティとHWの話を少し。
「敵は海賊」
40年前に、神林長平の「敵は海賊」がスタートしています。未来の海賊とそれを取り締まる宇宙警察海賊課の話ですが、2つのコンピュータ技術が出てきます。

1983年 星雲賞受賞

まず、各刑事は「インターセプター」と呼ばれる装置を身につけ、あらゆる組織のコンピューターへの介入が許可されています。いわゆる合法的なハッキングですね。
もう一つは、「CDS」と呼ばれる発射した範囲に存在するすべての光電子回路を搭載したコンピュータを破壊する兵器が出てきます。
これらも、今後の自動運転時代に必要な技術となるでしょう。警察は非常事態には周辺車両の走行に介入できる必要があり、また非合法な組織と戦うためには、電子デバイスを無力化する手段も必要であると。
SF感がすごい。ドローンを迎撃するマシンガン型ジャマー | ギズモード・ジャパン (gizmodo.jp)
前者は今後いわゆる合法的なバックドアとして、法令化が成される可能性があるでしょう。後者は、電子戦として軍事的にはある意味実用化が始まっています。

「三体」
SF界では、今更紹介するのもどうなの、という程の有名な作品(2015年)です。作者の劉慈欣(りゅう じきん)は1963年生まれの中国人ですが、コンピュータエンジニアでどうも発電所にお勤めのようです。それ故、コンピュータの記述はかなりリアル。
🌟 この劉慈欣やケンリュウが、中国SFとして近年話題です。ケンリュウは中国系アメリカ人ですが、コンピュータプログラマでした。

作中、色々事情があって?光速が遅い物理法則が曲がった空間に入ることになり、その中では通常の電子デバイスが「遅くて」使えなくなります。現在既にLSI内の距離が、電子の速度≒光の速度では問題になっている訳で、そこが1/100になれば困ります。
なので、人間の脳の様な複数の場所が独立して処理を行うデバイスに切り替えるのですが、そのプログラムのロードに数日かかるというシーンがあります。
もちろん現在我々は物理法則を曲げることは出来ませんが、そんな遠い未来もあるのかも知れませんね。

まとめ

今更 SF が役に立つ、と言われても、ピンとこない。みんな、日常的に「物理法則を曲げる」とか、考えてないんだっけ?
大体の新発明には驚けない。だって、何十年ほど前に、もっとすごいアイディアを読んだことあるから。
みなさんも、是非 SF 読みましょう。ただし、SF っぽいニセものと、SF 風味な軽いものと、SF がありますので、是非本物を。






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