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卒啄同時

その雛は、健気に沈黙し続けていた。
「6ヶ月後飲みごろ」という想いを胸に秘めて。

その親鳥は、すっかり忘れていた。
去年の冬、神社で初めて実をつけた貴重な「かりん」を漬けていたことを。

このままでは、その雛は忘れ去られてしまう、そう思われた。

が、その親子はちゃんと、見えない糸で結ばれていた。

6月14日(火)朝3時。

雛が夢に現れ、親鳥はふと目を覚ました。

「…そういえば漬けていたなぁ。」

眠い目をこすりながら、親鳥は雛のもとへ。
そして、瓶のメモを見て、我が目を疑った。

漬けたのが12月14日。
ちょうど6ヶ月前の今日だ。

そうだ、今日はかりん酒ちゃんの誕生日だ!

かわいい雛は夢で想いを送り、親は夢から覚めて瓶を探す。
あぁ、なんという麗しき親子の愛。

まさに、卒啄同時。

いや、本当は違う文脈で使う。
しかも、親は忘れていたし…。

何はともあれ、「乾杯!」なのである。

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