見出し画像

「癌が治ればそれでいいよね。」じゃねーんだよ!【癌治療と妊娠機能をのこす治療の狭間でもがく私の話、現在進行形】

あなたは、
妊孕性温存(ニンヨウセイオンゾン)
この言葉を聞いたことがありますか?

この言葉を聞いたことがある人は、今、この日本社会にどれだけいるのだろうか?と、今の私は思わずにはいられない。

それくらい、聞き馴染みのない言葉、聞く機会のない言葉であることは間違いない。

私自身も、昨年(2022年)12月、癌(悪性リンパ腫)になって初めて聞いた言葉だった。

2ヶ月前までは今まさに、これを読んでくれている皆さんと一緒だったから・・・。




癌(悪性リンパ腫)発覚。


12月1日、急な激痛に襲われ救急車を呼んだ。
近くの病院に搬送され点滴のルートを取られ、痛み止めを入れながら、緊急でCTを撮った。

搬送されてから
1時間で、胸の真ん中に大きな腫瘤があることが告げられた。
6時間で、すい臓にも小さい腫瘤があることが告げられた。
11時間で、悪性リンパ腫の可能性が高いと告げられた。

翌日に、生検検査を実施した。
(生検検査:悪性リンパ腫であろう組織に針を刺して吸い取る検査。悪性リンパ腫の確定診断には必要なことが多い。今も胸の真ん中に跡が残ってる。)
5日後に、悪性リンパ腫の確定診断を告げられた。ステージIV。そして、私の治療に使う抗がん剤には妊娠能力を落とす薬が入っていると告げられた。どれくらい妊娠能力を低下させるから分からない。どこまで行っても個人差が大きい世界が生殖。さらに、私の癌は治療開始を待つ猶予がないくらい急ぎで治療が必要なものだとも告げられた。

この意味がわかるだろうか?

妊娠能力の低下をわかっていながら、癌治療を進めなくてはいけないと言うことがここで確定したのだ。
治療開始前での妊孕性(ニンヨウセイ)温存治療を諦めざるを得なかった。




妊孕性(ニンヨウセイ)温存治療とは

この聞き馴染みのない言葉の正体は、簡単に言うと、「癌の治療で妊娠する力落ちちゃうから、あらかじめ治療して、妊娠能力残しておこうぜ!」という試みのこと。
言葉を細かく分解していくとこのようになる。

  • 妊孕性・・・妊娠するための力

  • 妊孕性温存・・・妊娠するための力を残す

  • 妊孕性温存治療・・・妊娠する力を残すための治療

癌治療の前に、卵子や精子、受精卵、卵巣凍結を行い、がん治療後にこれらを用いて妊娠・出産を目指す治療法を指します。
これは、ここから先、読み進める上で大前提になることなので先に説明した。


「癌が治ればいいよね。」の一歩先へ進もうとしている日本


癌が治ってからも人生は続く。

結婚・妊娠・出産という人生のイベントを「癌になったらから」という理由で諦めるのはどうなのか。なんとか諦めずに済む方法はないのか。そういった動きが世界全体としてあって、日本でも国を主導に各都道府県への働きかけが始まった。

その一つとして、2021年4月に妊孕性温存治療に対する助成金制度ができ、各都道府県が指定する医療機関での治療のみが該当にはなるが、そこでの治療であれば、治療費を国と県が一部負担しますよ。といってくれている。

ただ、問題はここから。
治療をしたい。助成金もある。
この次の段階として、医療機関を探していくことになるのだが、その情報が本当に分かりづらい。そしてさらに、全国のお医者様方を非難したい訳では全くなくて、さらに言うと癌治療をおろそかにして命を危ぶめてまで妊孕性温存をしたい訳でも全くなくて、シンプルな疑問として、

癌治療専門の先生たちが、妊孕性温存の話を議場にあげない。
そこが意味がわからない。

これが、まず1つ、声を大にしていたいこと。
国としても、妊孕性温存頑張っていこう!とはいっているものの、実態は、癌治療の専門医たちにはそれは全く届いていなくて、医療行為として義務化(表現があっているかわからない)されている「この治療(放射線治療なり、化学療法=抗がん剤治療)は不妊の可能性があります。」という本当に最低限の情報しか議場にはあげてくれない。というのがここ2ヶ月で私が感じた素直な感想。

だからと言って、諦めたくもないし、自分で可能性を探していくしかないんだなと、ここでは圧倒的に悪い意味で、私は腹を括った。
ただ、この時点で既におかしいと思う。
サポートの輪からは完全に抜けていて、突き放されているように感じる。自分で探すしかない・・・となる前に、ソーシャルワーカーなりがサポートする体制が築けていないんだな、とも感じた。
そんな思いも持ちながら、私の望む妊孕性温存をしている医療機関を探していく、という段取りに入った。

全く機能していない国と都道府県

現段階での途中結果からお伝えすると、

治療をやっているかどうかを調べるだけで、2日間で35件電話をした。
それも、岩手県、宮城県、東京都、埼玉県。この4つを調べるだけで。

これを見て、みなさんはどう感じたのかを、まず問いたい。
「自分の治療のことなんだから、自分で電話かけて当然」
そう思う方ももちろんいるだろう。それも一意見としてごもっともだと私も思う。

ただ、よく考えてほしい。
妊孕性温存と言う、
癌治療の合間で、
癌がある程度落ち着いている時(クール間)を見計らい、
抗がん剤でダメージを受けている身体の調子がいい時期を狙いながらも、
原則早急に癌治療に戻らないといけないという流れの中で、
今まさに、入院中で、抗がん剤を体にぶちこみ、
熱や吐き気と闘っている患者が、
この作業をすると言うことのことの重大さを。

これが今の妊孕性温存を取り巻く環境のリアルなのだ。

私がどういった動きをしたかも残しておきたい。
まず第一に、妊孕性温存治療助成金に関する各都道府県や厚生労働省が出しているホームページを確認した。これはあたりまえの行為だと思う。調べる前から問い合わせようなんて気はさらさらない。どこのお役所もお忙しいのは重々承知。

だが、見た結果、どの治療をしていて、どの治療はしていないかと言うことは行政のホームページではわからなかった。
女性の妊孕性温存に関することだけになるが、卵子凍結、受精卵凍結、卵巣凍結とあり、そのどれができるのかはわからない構造になっていた。

じゃあ、電話するしかないか・・・と思い立った際に、最初に思ったのが
「各医療機関に一件ずつ当たるなんて効率の悪いことないよね。まずは県に電話して、私の希望する治療をやっている医療機関を紹介してもらおう!」
と言うものだった。
県の指定医療機関を指定しているのは、当たり前だが県なので、まずは県に電話をした。すると、県はわからないと言う回答だった。岩手県、東京都、埼玉県、全部が同じ回答だった。(こっちでも調べてみます!と言ってくれる心強い職員もいたことも残しておく。)

「妊孕性温存ができる機関を認定しているだけなので、具体的にどの病院がどの治療を行なっている・いないの話は都道府県では把握していない。基本的には一件一件医療機関に電話してもらうしかない。」と言う。

思いもよらなかった。
こんなに連携が取れていない・・というか、
実態の見えない仕組みなのかと本当に心から驚いた。

でも私は、こんなところで諦めない。
次の策として思いついたのは、
都道府県がダメなら、国に電話かけるしかない!
と言う安直な考えだった。すぐに厚生労働省に電話をかけた。
そこでの回答も驚く・・というか、それを超えて悔しいとすら感じるものだった。

「国が推奨している事業ではあるが、各都道府県が主体で指定医療機関を指定しているので、国は把握していない。各都道府県に聞いていくしかない。それに、国から医療機関を紹介することはできない。」

と言われた。

私は別に、医療機関を紹介してくれと言った覚えはない。
「卵巣凍結治療をしている病院を一件一件当たっていくのが効率が悪いので、国の方で把握しているならそれを教えてくれないか?」
と言っただけだ。病院の斡旋なんて一ミリも頼んでもいない。

どうだろうか、結局、国も都道府県も何もわかっていない。

救うことができる人が救われない

私は悔しかった。
「あー・・、癌になったんだね、妊娠は諦めてねー。」
と言われている気になった。

誰も私を助けてくれようと思っていないんじゃないか、と思ってしまった。
(あーーーーー、昼間は1回も泣いたりしてないのに、字にしたのを見たら一気に視界が滲んだ。)

なんて、悲しい世界なんだろう。

私は、国に対しても各都道府県に対して、
「今の仕組みじゃ、誰も救えないですよ。もっと実態把握して動かないといけないんじゃないですか?私のためにそうして欲しいとかではなく、今後の社会のために、もっと考えて、動いてもらいたい。」
そういって電話を切った。

ひとつ勘違いしないで欲しいのは、私だって言わなくて済むなら言いたくない。
この一連の問題関しては、誰が悪いと言い切れるものではないからこそ、国や県の一職員に対して苦しいことを言ってしまい、申し訳ない気持ちで一杯だった・・・。
電話の向こう側の皆さま、これはシステム全体に対して物申してるのであって、あなたやその機関を責めているわけではない、ということをわかってほしい。
どこか一つが変われば簡単に変わるほど単純な問題じゃないことは、私でもわかるから・・。

ここまで見てもらったような、一連のわたしが身をもって実感した、そして、これからも実感していくであろう、今の国内における妊孕性温存の実態。
これに対し、歯に物着せずに正直いうならば、落胆というか、希望がないなと思った。

でも、それと同じくらい、
むしろ希望がないな、と思ってしまった気持ち以上に
希望を持ちたいな、とも思った。


私が、こうやってnoteを書くのも、国や都道府県に対して苦言を呈すのも、ソーシャルワーカーに物申すのも、全ての根底にあるのは、「社会は良くなる」と本気で信じている心だったりする。

私は、高校生の時から、あれやりたい!誰々に会いたい!私の話を聞く時間を作ってほしい!などと無理難題を言っては、
「お前の正義を振りかざすな」と言われ、
「テレビの撮影なんか行くな、夏期講習受けろ!」と止められ、
各方面に多大なる迷惑をかけてきた。
だが、結果的には、学校内、学校外、地域社会、一般企業、行政、たくさんの大人がサポートしてくれて、市長や県知事と会話する機会を設けてもらえた。
たくさん動いてきたおかげで、逆にお声をかけてもらう機会も増えた。
ミシェルオバマ夫人にも会ったし、海外での研修にも何度も参加させてもらった。
こんなのただの過去の栄光なので、別に自慢する気なんてさらさらない。

ただ、何が言いたいかって、社会は意外と動いてくれることを私は知っている。ということだ。

そして、さらに言うと、ぐちぐち言っているだけで自分が何も動かないんだったら、議会で居眠りしている国会議員と一緒。
声を上げないと何も変わらないのに、それもしないんて勿体無い!
って私は思う。(もちろん全員がそうしろ!なんて思ってない。私の話。)

信じているからこそ、声を上げることができるのだ。

誰よりも
妊孕性温存を取り巻く社会が
変わることを信じてやまない
26歳のナニモノでもない女の話。


おしまい。
_____
2023/02/10 20:10公開
2023/02/10 22:30修正
※熱量先行で書いたので語尾もぐちゃぐちゃ。
都度修正します。



この記事が参加している募集

この経験に学べ

先まわりしてここでもお礼述べておきます。ありがとう。Grazie mille!!