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「さくら」という響き。〜言葉、情緒、そして心〜

「さくら」

とても爽やかな響きの香る花の名です。

満開の桜が咲き誇る様は、どこか背中を力強く押してくれていたり、門出を祝福してくれているように感じられます。

枝垂れ桜が重力に逆らうことなく枝垂れている様は、自然体で、ゆったりとした時間の流れや、素朴さをまとっているように感じられます。前面に主張することなく、奥ゆかしい力強さとも言えるかもしれません。

桜の花びらが「フワッ…」と風に散ってゆく様子は儚さを感じますが、その舞い散る軽やかさが、どこか夢を見ているような、浮かんでは消えてゆく泡のような淡さをまとっているように感じられます。

これは私が感じる印象の一例ではありますが、「さくら」という響きが全てを包み込んでいるように感じられるのは、とても不思議です。もし「さくら」の花が他の名前であったとしら、もしかすると「しっくりこない…」という印象を抱いていたのでしょうか。

そして、さくらを眺めているうちに、気づけば自分の存在への意識は薄れ、「見る(主観)・見られる(客観)」の関係から「さくら=私」という関係へとなめらかに遷移してゆく。そうした感覚がありました。

おそらく「さくら=私」の関係へと移行する中で、先入観や印象を離れて、花のもつ情緒、心が少しばかり感じられていったからなのかもしれません。

言葉、響き、情緒、心。これらは全てつながっているように思えるのです。

さ:「さっぱり」「さわやか」な愛らしさ
いにしえからのイメージ:上品、一瞬の輝き、春

「さ」という音からは、春の気配も感じられます。その代表的なものが「さくら」。長い冬が終わって桜が満開になり、春の小川は「さらさら」流れ、海に「さざなみ」が立つころは、まさに「さち(幸)」多い気分になるものです。

高村史司『自分の名前の美しさに気づく やまとことば50音辞典』

く:くもり空に似たおくゆかしさ
いにしえからのイメージ:くぐもる、暗さ、はにかみ、おくゆかしさ

力強く空気が吐かれる「か行」の子音ですが、「く」は「う列」の母音なので、「か」や「き」と違って、吐いた息が勢いよく外に出るわけではありません。唇を小さく丸めて発音するので、息がこもったようになります。ですから、やや「くぐもった」音になるわけです。(中略)けっして派手ではありませんが、「く」はいかにも日本的な、内気ではにかみ屋さんのイメージといってよいでしょう。

高村史司『自分の名前の美しさに気づく やまとことば50音辞典』

ら:うららかな日にらんらんらんと歌いたくなる
いにしえからのイメージ:きらびやか、万能、腰の低さ

やまとことばは、「ら行」で始まることばがありません。日本語にずっと昔からあるように見えることばでも、漢語だったり外来語だったりするのです。(中略)擬声語、擬態語では、「きらきら」「すらすら」「ゆらゆら」など、50音の半数以上と組み合わせることができ、万能の音といっていいかもしれません。

高村史司『自分の名前の美しさに気づく やまとことば50音辞典』


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