海の上を新しいフロンティアにする

今日は『植物は<未来>を知っている 9つの能力から芽生えるテクノロジー革命』(著:ステファノ・マンクーゾ 他)から「海水で生きる」を読みました。

2050年には世界人口が100億人を超えると見込まれ、それに伴い食料需要も増加していく中、需要を満たすだけの食料供給ができるのだろうか。食物を育てるには土地が必要ですが、森林伐採等により農地を開拓し続けることはできません。

森林は、空気中の二酸化炭素を固定化したり、大気中の水と陸地上の水量を調節するなど能力を有しており、私たちの生活環境の安定化に寄与しているからです。そうした能力が失われると、土砂災害などの自然災害への抵抗力が弱まってしまうのです。

どうすれば、人口増加に伴う食料需要増加の要請に応えることができるのでしょうか。

じつは、増えつづける食料の需要を満たすことができ、しかも環境問題に配慮した解決策が存在する。それは、人間の生産能力の一部を海の上に移動させることだ。地球の三分の二は水で覆われていて、そのうちの九七%は塩水だ。地球の外を開拓するよりも、海を人類の新しいフロンティアにするほうが、ずっと早い。

著者はフロンティアとしての「海」に進出せよ、と説きます。海は魚介類や海藻などの貴重な供給源・場であるわけですが、海の上で食物を栽培するという発想は今まで思いついたことがありませんでした。

地球に存在する水の97%は海水である。海は水量に困ることはありません。但し、海水には植物の生育を阻害するストレス要因となる塩分などが含まれており、植物の栽培には適していません。

「水量は豊富だが水質が不適である」という難題を、どのように乗り越えることができるのでしょうか。著者は塩分を含む環境で育つ植物(塩生植物)が鍵になると述べます。

その植物とは、いわゆる《塩生植物》だ。塩分のある居場所(塩性砂漠、海岸地域、塩をふくんだ潟など)が原産地で、ほかのどんな植物種も枯れてしまうような土地でも、成長して繁殖できる。こうした植物の多くは人間も動物も食べることができるため、栽培植物化して耕作に取り入れられれば、塩分をふくんだ水や海水を灌漑用に利用でき、海岸地域や高塩濃度の地域でも栽培できるようになるだろう。

「塩生植物」という言葉を初めて耳にしました。塩分がある場所として、塩性砂漠、海岸地域などが挙げられています。海岸地域では塩分を含む風にたえずさらされますから、塩分に対する耐性がなければ生き延びることができません。

塩生植物にはどのようなものがあるのでしょうか。代表例が「アイスプラント」です。

アイスプラントの特徴は以下のようなものです(出所)。

  • 原産はアフリカのナミビア砂漠で、冬に湿度が高く、夏に乾燥する土地でよく育つ。

  • 葉や茎の表面についた透明な水滴状の「ブラッダー細胞」と呼ばれる細胞小器官がある。

  • ブラッダー細胞はカリウムやマグネシウムなど、土壌から吸収したミネラルを豊富に含んでいる。

  • 2つの光合成型を持っている。通常の環境下では「C3型」で、ストレス環境下では「CAM型」と呼ばれる砂漠などの乾燥した地域に育つ植物の光合成型に切り替える。

アイスプラントは栄養豊富な食用植物で、葉の表面に塩分を蓄えていることから食べると塩味がします。あくまでも一例ですが、技術的な課題を乗り越えて海の一部を農地として活用しながら、塩生植物を食用栽培することで食料需要に対する圧力を緩和してゆく。

海を開拓するというのは、何も陸地に変えるのではなくて、海の上に浮かぶ耕地があれば十分なのだと思います。

さらに、塩生植物はどうして塩分に耐性があるのか、その形態学的、生理学的、生化学的な要因について幅広く研究を行えば、一般的な植物にも塩耐性をつけさせる方法が見つかるかもしれない。

どんな環境にも「適応」的に進化して生き延びようとする植物。塩生植物に学ぶことで、自然に学ぶことで開かれる可能性があるということ。

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