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幸福と恐れ

正しい人でいたい、という欲が人より強い方だと思う。
でも「正しい」が何かわからない時代に突入すると、私みたいな人間は身のこなし方に困る。

理不尽に耐えている時は少なくとも、客観的にも正しい側にいられるという安心がある。
だからあらゆるしわ寄せを引き受けてしまうし、厳しい環境を無条件に選んでしまう。
それは私の強さを育てるためにはプラスかもしれないけれど、不要な傷つきも多い。その場所の存在の正しさを疑うことができなくなる時もある。

だから逆に、幸せになればなるほど、悪いことをしてしまっているんじゃないかと怖くなる。

これ以上求めると、その分何かを奪われたり壊してしまうんじゃないかと思って動けないでいる。
布団に出てしまえばあっという間に支度できるのに、勇気が出なくてずるずる起きれない朝、みたいな。
動かないと、むしろ今を守れないのに。
だから毎日が幸せで穏やかな今がたまらなく怖くて、昔よりも必死に祈っている。別に誰も奪おうと何かしていなくて、ただの時の流れとか現象でしかないのに。
手にした途端に執着がわくから、それなら最初からほしくない。
でもそんなこと考える余地が一ミリもないくらい、超幸せになりたい。正しい、よりも何倍も、そっちの方が欲しい。

ミラブルのシャワーヘッドみたいな雨が降る。東京では雪が降ったらしい。
夫は、隣の駅に自転車を止めたから、と先に手前の駅で降りる。

つないだ手をはなす瞬間に、どっと不安が押し寄せる。どうか、どうか何もありませんように。


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