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そのお土産は本当か嘘か:映画『蛇イチゴ』

以前にテレビで「東京にあるアンテナショップでお土産を買う人」にインタビューする企画を見かけた。
なぜ彼らが東京でお土産を買うのかというと、何らかの理由で「地方に行ったアリバイ」が欲しいからだという。

お土産とは本来、旅行先で買ったものを懇意にしている人たちに挙げるものであったが、逆説的に「旅行した証」という役割を果たしているのが何とも興味深い。

本当のお土産嘘を本当に見せるお土産を見分けるには、どうしたらよいのだろう。

見分ける方法はただ一つ、お土産を貰った人があげた人を信じているか否か、である。つまりそのお土産自体に嘘か本当があるのではなく、二人の関係にこそ本当か嘘があるのだ。

そのことに気が付かせてくれた『蛇イチゴ』という映画がある。

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『永い言い訳』『ゆれる』など、人間関係の機微を描くことに定評がある西川美和監督の初長編作。ありふれた家族の中に見え隠れする闇を通じて、真実と偽りに葛藤する家族を描く。飄々とした兄を好演する宮迫博之も見どころ。

一体なにがお土産なのか? そこに至るまでを簡単にネタバレ解説していく。(気になる方はnoteを閉じて、今すぐレンタルを!)


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どこにでもいそうな4人家族。父と母、娘、そして祖父。普通ながら幸せそうな家族の様子に、「良い家族だね」と娘の彼氏も言うほど。


ただ実際は嘘だらけの家族。父はリストラされたことを家族に黙っていて、給料をもらっているとごまかすために多額の借金をしている。祖父は軽い痴呆症で、その介護につきっきりの母は疲れ切っている。

そしてこの家には、数年前に勘当されてから行方知れずの息子がいる。

息子は大学に行くと言いながら行かず学費をちょろまかし、妹の下着を勝手に売ってお金を稼ぐようなどうしようもない奴だった。勘当されてから、他人の葬式に紛れ込み香典を盗む「香典泥棒」をして生活していた。

妹は唯一のしっかりもので、正義感に溢れ、教師として働いている。小さい頃から嘘つきの兄に振り回され、兄を心の底から嫌っている。


ある日、痴呆症だった祖父が亡くなり、その葬式で妹は偶然兄に再開する。兄はいつも通り香典泥棒を働こうと偶然葬式場にいただけだった。

兄はひょうきんな性格と巧みな話術で、勘当されたはずの家族の元に戻ってくる。父も母もすっかり兄に言いくるめられているが、妹だけは兄を疑っていた。お金にがめつい兄が、親切心で困っている家族のもとに戻ってくるはずがないと。

その時テレビで香典泥棒が頻発しているというニュースを目撃する。これまでの兄の行動から妹は兄が犯人だと思い込むようになる。

今度は家族から根こそぎお金を奪おうとしているに違いない。妹は決心する。例え嘘だらけの家族だとしても、私が家族を守るしかない。

葬式も全て終わった真夜中、妹は兄に「昔言ってた、蛇イチゴを取りに行こう」と持ちかける。小さい頃、小学校の裏山に美味しい蛇イチゴがあると言って兄が地図を書いてくれたが、地図通りに行っても結局見つからず夜の森で迷子になる大騒動があった。

今思えばこの事件から妹は兄を信じられなくなった。本当はない蛇イチゴの話で妹をからかう兄なのだ、と思うようになった。


二人は真夜中の裏山を進んでいく。蛇イチゴまでの道を知っている兄が先頭で、その後ろを妹がついていく。
川を渡る隙をついて、妹は兄を置いて来た道を走って戻った。そして警察に電話をかける「小学校の裏山に香典泥棒の犯人がいます」と。

妹は朝日の中、ふらふらと家に帰っていく。自分は正しい、兄は嘘つき。そのことをあの裏山で証明したのだと信じて。

家につくと、閉めたはずのリビングの窓が開いている。まさか帰って来ているのかとリビングを覗くが、そこに兄の姿はなく、代わりに机いっぱいの蛇イチゴが―。

***

あの蛇イチゴは本当のお土産だったのか、それとも嘘を本当に見せるお土産だったのか。果たして、二人の関係は本当だったのか嘘だったのか。

妹は兄を「嘘つきだ」と思うことで、自分の「正しさ」を保ってきた。その兄がもし嘘つきでないとしたら? 妹が「本当だ」「正しい」と思っていたことが、実は嘘なのかもしれない。


お土産をもらう側が思い込みすぎていると、真実を見誤ることがある。

さて、あなたが貰ったお土産は本物だといえるだろうか?


編集:アカ ヨシロウ

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