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閉店を知らせる「夕日の曲」 

わたしは、おばさんですが、
日々の暮らしで
昔を懐かしむことは、ほぼない。
目の前の仕事に振り回されているほうが、
昔話に興じるより、楽。

父が亡くなって、未だ間もない せいもある。
行事や手続き諸々に追われながら、
思い出されるのは、苦しんだことだから。
亡くなるまで父が抱えていた不満、が のしかかってくる。
自分なりには、それなりにやってきたとはいえ、
後悔というか 十分ではなかったという気持ちと
なんだろう、責められ続けたことへの怒りなのか?
なにか急にこみ上げることがある。
遺族となったのも初めてで、するべきことの、
知らなかったことの多さにも驚く。還暦なのにねえ。
はあーっ、、、しんど。
言ってどうなるものでもないのにねえ、、背負わざるを得ないのだから。

自分に言いたい、もういい加減 忘れろと。
もういいじゃん
ー忘れさせてくれ。
ーどうすればよかったんだよ、、
いつかは、解決できるのだろうけども。。
お恥ずかしい限り。独りよがりな、子どもっぽい話でございます。
ですが、常そういう 気分なのでございますよ。

♯おもいでの曲

何かのきっかけで、
忘れていた言葉や光景を、つらつら思い出すことが あります。
めずらしく、父 関連の思い出ではなく、
自分の昔の姿を、思い出したので
自らに驚きつつ、書いています。

好きだった曲だけど、しばらくの間
何故か、
聞く機会がなかった  ショパンのピアノコンツェルトNo.1
第2楽章を、私は「夕日の曲」と、勝手に名付けていた。
昔々、まだ会社務めをしていたころの、おもいで。

父が亡くなる直前
今年の元旦は、不思議なくらい穏やかでした。
(家族で過ごした、それだけですが)
息子は今年大学院を卒業予定で、住んでいる街を離れ就職することになっている。久々に帰省し、年始を共に過ごした。
その街は私の故郷でもあり、父母の居る街でもあるのだが、
今度、そこでピアノのコンサートがあるので、行きますか?と
誘ってくれた。
空席2席のみ。ひえー、
辻井伸行さんのコンサート。演目はショパンのコンツェルト1番。
私は、反射的に思い出した。「夕日の曲だ」
急げ、チケット、買いなはれ!
残念ながら、父の死後のあれこれと、仕事でいっぱいいっぱいで
私は行くことはできなかったが、息子殿は行ってきた。
素晴らしかったよ。
そうでしょう、そうでしょう。

辻井さんのピアノについて、以前記事に書かせて頂きました。
私は専ら、ラフマニノフ2番を聴いていたのですが、
アシュケナージも、
その懸命に、そして純粋に紡がれる音を「彼の心、そのもの」
と評したように
心動かされない人はいないだろう、と思います。

最近の私は
心を落ち着けるために、バッハやブラームスばかり聴いていて、
それでも、落ち着きはしなかったのですが、
ショパンの1番、と聞いて
目の奥に、夕日が差し込む、40年前のデパートの光景が
静かに広がりました。
そのお店は、今はもうなくて
テックヤマダになっていることを、私は つい最近知りました。

故郷の街の、そのデパートでは、
閉店の少し前から、美しい女性の声の
閉店を知らせるアナウンスと共に
「夕日の曲」、つまり
ショパンのピアノコンツェルト1番の二楽章を流していました。
9分50秒。
「本日もご来店頂き、誠に有難うございました。。。」
ショパンらしい、コロコロ転がり流れるピアノの調べと
店員さんたちの、少し慌ただしい雰囲気の中で、
場の空気を読まない私は、
夕日の差し込むウィンドウの内側で、品定めをすることが多かった。
その頃は、
今のように、遅い時間まで開けているお店は少なくて、
勤めが終わってから、デパートに駆け込んだら、間もなく閉店だった。
私の記憶の中では
デパートのショーウィンドウは、大抵 夕日にあかく染まっていて
ショパンの調べとアナウンスが
渾然一体になっている。ものすごくピッタリ合っているのだ。
夕日の光景と2楽章は、もはや切り離せない一連である。

2楽章のどのあたりで、
シャッターが降り始めるかも、なんとなく覚えている。
その時間、もう夕日は沈み切る寸前で、
ウィンドウの外の街は、信号機も車も、人々も茜色一色だ。
私はかなり焦って、追い立てられるように出口に向かう。
店員さんたちが、1列に並んで首を垂れ、帰る客たちを見送る。
時間がなくて、目当ての買い物ができなかったこともあったが、
私は
閉店前の、その時間、
夕日の調べを聴くために、それを楽しみに、
デパートを訪れていた、ように思う。

今はもうなくなってしまったが、
かつての、このデパートの店員の皆様、
閉店間際に突撃してばかりで
ほんとにごめんなさい。
美しい夕日のおもいでを ありがとう。

思い出した頃の自分は
まだ若かった。そう、息子と同じくらいの年でした。
早いね。
今を大切に
生きていかなければ。
心からそう思った おさんぽばあさん でした。

お読みいただきありがとうございました。











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