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新たなコーポレートガバナンス・コードを礎とするサステナビリティ経営とは

前回のnoteで「日本企業は、持続的な成長と中長期の企業価値向上に向けて、今回改訂されるコーポレートガバナンス・コードを礎とするサステナビリティ経営への戦略的かつ実効的な取り組みが期待されます。」と書きました。

今回のnoteでは、新たなコーポレートガバナンス・コード が企業のサステナビリティ経営に求めていることについて私見を述べさせていただきたいと思います。

ガバナンスコードが求めているサステナビリティ経営のあり方

・先ずは、取締役会がサステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を取り入れた経営についての戦略的な方向性を打ち出し、実際の経営は執行側の経営陣(社長以下の業務執行役員)が行い、その進捗を取締役会がしっかり監督すること(モニタリングモデル)が基本になります。

・そのようなガバナンスの下で、経営陣が長期視点でグローバルなメガトレンド(環境・社会問題含む)を収集・分析し、自社の経営理念やミッション、パーパスと照らし合わせた「長期ビジョン」(10〜30年先くらいの自社の目指す姿)を策定します。

・その際、外部のステークホルダー(投資家、政府、国際機関、NPO/NGO、大学など)ともしっかり対話をする必要があります。ステークホルダーとの対話・エンゲージメントはサステナビリティ経営の基軸です。

・次に、長期ビジョンを実現する上での重要な経営課題(マテリアリティ)を特定し、その課題を解決するための当面(3〜5年)の戦略(中期経営計画)を策定、実行します。

・その際、人材戦略(多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針含む)や知的資産戦略なども自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ並行して検討します。

・長期ビジョンや経営戦略及びそれらの遂行状況については、投資家を始めとするステークホルダーに適宜・適切に開示し(統合報告書、サステナビリティレポート等も含む)、積極的に対話・エンゲージメントすることが重要です。

・特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析(シナリオ分析含む)を行い、TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進める必要があります。

6月改訂予定のコーポレートガバナンス・コードでは、企業のサステナビリティ経営について大体このようなことを上場企業(プライム市場)に求めていると考えられます。

なお、人的資本の情報開示を求める動きがグローバルで加速する中、プライム市場への上場予定企業は、標準的なガイドラインとなりつつある国際規格ISO30414に基づく人的資本の開示についても積極的に検討することが重要です。

取締役会がガバナンスのPDCAサイクルをしっかり回す

気候変動やセキュリティなどを重要課題(マテリアリティ )として特定し、それらを解決する製品・サービスを開発・提供するということ(社会課題解決型事業)は既に多くの企業で実践されているのではないかと思います。

しかし、それらはどちらかというと現場(各事業部門)の頑張りで実現している面が大きく、事業ポートフォリオの最適化を含む長期的かつ総合的な視点に立った取り組みができている企業は少ないと思われます。

重要な点は、自社の強み(独自性、競争優位性等)を見極めた上で、どのような社会課題にフォーカスし、どのようなビジネスモデルと戦略で社会価値(≒顧客価値)と経済価値を持続的に創出し続けるのかという「価値創造ストーリー」を経営陣が徹底的に議論することです。

その際、ステークホルダーとの対話・エンゲージメントが必要になることは言うまでもありません。

その上で、取締役会が了承(修正要求を含む)した後は、サステナビリティ 経営の執行状況をKPI・KGIなども活用しながら取締役会がきちんとモニタリングする(必要に応じ経営陣に改善を促す)という「ガバナンスのPDCAサイクル」をしっかり回していくことが重要になります。

従業員に求められること

個人(各従業員)のレベルで必要なことは、なによりサステナビリティへの感度を磨くことだと思います。

サステナビリティを巡る課題(気候変動等の地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理、サイバーセキュリティへの対応など)と自社のビジネスとの関連性をリスクと機会の両面でしっかり把握し、経営や事業に活かすことが重要です。

長期志向で市場環境がどう変わっていくかを常に予測しながら、製品・サービスやビジネスモデルを考えることが個人レベルでも求められます。

その際、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の活用は必須です。サステナビリティを巡る課題の解決・実現手法としてDXを位置づけることが重要です。

所謂ミレニアル世代、Z世代の従業員は、この辺りには比較的敏感ですので、その意味では将来的には日本企業の経営も徐々に変わっていくと思いますが、地球温暖化や海洋汚染などの問題の深刻さ、複雑さを考えると残された時間は多くありません。

まとめ

サステナビリティ経営には、取締役会、経営陣、従業員が総力で取り組むことが重要です。

取締役会と経営陣は、新たなコーポレートガバナンス・コード を礎とするサステナビリティ経営に真摯に取り組み、従業員はサステナビリティとデジタルに対する感度と能力をしっかり磨いていくことが必要です。

そのような日々の取り組みが、日本企業の持続的な成長と中長期の企業価値向上に繋がっていくものと確信しています。

【参考】

サステナビリティ経営とは、「企業のサステナビリティ」と「社会のサステナビリティ」を同期化させる経営です。
私のnoteでは、以下の要件を満たすような長期視点の経営を「サステナビリティ経営」と呼んでいます。

・メガトレンド(SDGs含む)および長期的な競争環境などの理解と分析(リスクと機会の両面)
・企業理念/パーパスに基づく長期ビジョンの策定(持続的な経営の姿・方針・成長イメージなど)
・長期ビジョン実現に資するビジネスモデルの構築(社会課題解決と経済価値創出の同時実現)
・ビジネスモデルの持続的な競争優位実現のための戦略の策定(マテリアリティ(ビジネスモデルの持続性に関連する重要課題)の特定、事業ポートフォリオの最適化、有形・無形資産の適切な投入・強化など)
・戦略の実行(組織設計、人材強化、KPI(財務、非財務)の設定、PDCAマネジメントなど)
・ステークホルダーへの情報開示(価値創造ストーリー、ESG情報開示など)および対話・エンゲージメント
・経営の意思決定および行動を担保するサステナビリティ重視のコーポレートガバナンス

サステナビリティ経営の要諦は、「利益を稼ぐ(経済価値の創出)という軸はぶらさず、その上で自社の強みを活かしながら社会への貢献(社会価値の創出)を果たしていくことをステークホルダーとの協働を通して実行する」という点にあります。

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