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『くもをさがす/西加奈子』


西加奈子さんの本は今まで何冊も読んだことがある。
例えば『白いしるし』『さくら』『ⅰ(アイ)』。
どの作品も、様々な境遇にある”今”を生きる人を、現在だけではなく背景も丁寧に描かれているためか、とても惹きつけられる。


そんな彼女の初ノンフィクションが『くもをさがす』だ。

私がこの本を手に取るきっかけになったのは、映像作家・演出家、yhayelのメンバーとして音楽活動も行っている山田健人氏のインスタグラムのストーリーだった。

彼が本をストーリーに上げていたことが珍しく感じたので、『おお、これはよっぽどだ。読まねば。』と思い、寝る時間すらちゃんと取れないくらいに慌ただしかったが、自身をいたわる時間として、授業を1コマ蹴って数フロアある大きな本屋に足を運んだ。

その日買った本たち。おそばせながら三体にドはまり中。
左2冊はずっと読みたかったもので、立て続けに目に入ったので運命を感じ購入。


まあ、本屋に行くと数時間出れなくなり、英世と一葉だと足りない冊数を買ってしまう。ちなみに今回も諭吉が飛び立っていった。




そして、『くもをさがす』を読み始めた。
(ここから若干内容のネタバレを含みます)

まず、この本を読むまで、西さんががんを患っていたことを知らなかった。

『自転しながら公転する』の著者である山本文緒さんの死について触れている部分もあった。
私が彼女の死を知ったのは、『自転しながら公転する』を読み終わった直後だったのを思い出した。Twitterで他の人の感想文を見たいと思って調べた時にヒットした公式アカウントで、彼女ががん闘病の後に亡くなったことを知ったのだった。
彼女の新刊はいつ出るのか、他にはどんな作品があるのかと鼻息荒く調べていたのに、息を吸うのを忘れてしまうくらいに驚いたのを今もはっきり覚えている、ベットの上だった。

他人事の軽い言葉になってしまうが、西さんが今も生きていて、良かった。
と思った。

そして、彼女の海外(カナダ)でのがんとの生活は、日本に住んでいる私自身にとって想像しがたかったが、彼女の書く文章の柔らかさや優しさのようなものと、”生きている”という力強さが私を心酔させた。

一般的な闘病記録や美談ではなく、
西加奈子の書く、西加奈子ががんになった話だ、と感じた。


強く気丈にみえる彼女にも、声を出して泣く日があること。
悲観的な考えになってしまうこと。

彼女の赤裸々な文章から、人それぞれに人それぞれの喜怒哀楽のものさしがあるのだから、比較して落ち込んだり強要されることは決してないんだよ。
と、彼女からの大きなハグを受け取った感覚になった。



読み終わって1番に感じたこと、それは、
『くもをさがす』は私の名刺代わりの本たちの1冊になった。
だった。

大切な1冊、出会えてよかった1冊になった。


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