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オリジナルとは趣向が異なる、英ITVドラマ『The Ipcress File(イプクレス・ファイル)』。単なるリブートに留まらないから面白い。


少し前にも書いたが、英民放ITVのドラマがとても良い。特に日曜9時枠がなかなか興味深い。

現在放送中の『The Ipcress File(イプクレス・ファイル)』をビンジで観た。

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PR用のポスターが、このドラマのトーンや雰囲気、すべてを物語っている。


英国の作家、レン・デイトンの同名スパイ小説(1962)をTVドラマ化したもので、1965年の映画化のリブートだが、ストーリーがやや違っている。全6エピソードで完結しており、脚本は、『トレインスポッティング』のジョン・ホッジが担当している。

【あらすじ】1963年、冷戦下のヨーロッパ。西ベルリンに配属されていた英国陸軍下士官、ハリー・パーマー(ジョー・コール)は、軍のウイスキーやロブスターなど配給物資を盗み、東側に転売した罪でイギリスへ戻され、投獄される。時を同じくして、核兵器を開発していた英国人科学者が研究所から何者かに誘拐され、ダルビー(トム・ホランダー)率いる特別諜報機関は、捜索を始めるが、そこで誘拐に関わったスパイのハウスマーティンが、パーマーと面識があることを突き止め、パーマーを刑務所から出すことを条件に、彼のコネクションを提供し、協力することを約束させる。こうして、特別諜報機関の一員となり、お国の為に働くスパイとなったパーマーだが、事ははるかに複雑で、捜索は困難を極める。


広島に投下された原爆よりもはるかに破壊能力の強い核兵器の開発を実現しようとする大国間の攻防がカギとなる。冷戦下により、敵は東かと思いきや、事態はそこまでシンプルではない状況に次々と巻き込まれる。

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撮影はリバプールで行われたということだが、街並みだけでなく、車や電話、タイプライターなどが時代を物語っており、現代的ながらもタイムスリップしたような感覚に陥るのも心地よい。


確かにスリリングな筋書きなのだが、あまり冷や冷やさせられることが無いのは、全体のトーンが60年代を意識したレトロ調だからか。音楽もそれを意識している。65年の映画ではマイケル・ケインが演じたハリー・パーマーにジョー・コール(ピーキー・ブラインダーズ)が抜擢されているが、ベイビー・フェイスであるが故、なんだか真剣みが足りない。ニヤリと笑うその口元には、イギリス人特有のサーカズムと、労働者階級出身のシニシズムを醸し出しており、時折、頭脳明晰な面を露呈する。だが、ここで特筆したいのは、ダルビー役のトム・ホランダー。一貫して、冷静に着々と任務をこなしていくその姿は、愛国心に満ちており、時に一瞬冷酷ともとれる表情を見せるが、実は果しえなかった過去があり、そこからは一気に人間味を増していく姿が痛々しくもある。

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先に観終わっていた友人に、「ヤバい、マジ、ダルビー好きやわ。いや、多分トム・ホランダーを好きになってしまった」とテキストしたら、「知ってる。皆そうだと思う」と返事が来た(笑)。


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ドラマの見どころの一つは、ジーンのコスチューム。60年代を意識した、テイラー・メイドのスーツはどれも上品で、帽子や手袋などのアクセサリーまで趣向を凝らしている。しかもこれを着こなすルーシー・ボイントンの美しさと言ったら。メイクやヘアスタイルまで、まるで本当に60年代から出てきたよう。


興味深いのは、カメラ・アングルが頻繁に傾いていること。地面と並行ではなく、少し斜めに景色・登場人物を撮影することによって、遠景の時には視聴者がそのシーンを覗き見ているような、近景だとその場にいるような感覚を覚える。

プロットに関しては、シンプルなモグラ探しとは多少異なるので、誰を信用すればよいのか本当に分からなくなる。ここは、注意深く状況を把握していくのが一番かと思う。

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トレードマークの黒縁メガネは健在なものの、やっぱりマイケル、ハンサムだわ。


最後に私の一番のお気に入りキャラクターを紹介したい。

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秘書のアリス。冷静で、知的で、実は怖いもの知らず。


トレイラーはこちら。


早川書房から翻訳版も出ている。1988年初版。

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