一人暮らしをどこでするのかを決めた時の話。

20代後半。
漠然と一人暮らしをしてみたかった。
学生時代も、実家から通学している友人が多かったため、まれに一人暮らしの友人の家に遊びに行くと、炊事洗濯などを一人でこなしている姿に感激したものだった。

しかしながら、一人暮らしをどこでするか。
実家の近くでは意味がなく、かといって、離れすぎていてもなんだか色々と面倒だし、職場の近くがよいけど、近すぎると微妙だし…と、色々と候補が上がりながらも、いまいち決め手にかけていた。

そんな中で、センセーショナルな出来事が起きる。
それは、友人の家でお花見をしたときの話だった。

社会人になってから出会った友人とは、なんだかんだでもう10年近い付き合いになるのだろうか。
忙しい職種ながら、遊びも仕事も謳歌していて、本当にすごいと思う。

そんな友人が誘ってくれて、わたしも同期を誘って友人宅を訪ねることとなった。

駅から目とはなの先にある友人のマンションは、誰もが憧れる立地だった。

誘われるままにそのお家に入った瞬間、

窓から見える桜に心を奪われた。

本当にきれいな桜。

日本有数の桜の名所ではあるものの、毎年したから見上げていた桜が、同じ目線に感じられるベランダで、お酒をのみながらおいしいごはんを食べた。

なんだろう、この感じ。

昼下がりであたたかく、それは本当に天国のようなひとときで、時間が流れるのがゆっくりと感じられるとはまさにこのことだったのだと、いまでも思う。

「こんなお家に住んでいたら、毎日天国のようなひとときを過ごせるのか…」

ということで、その数日後、友人宅から歩いて10秒ほどのならびのマンションに引っ越した。←

行動力が取り柄と言ってくれた上司の言葉を反芻しながら、友人と内覧に行った。

2軒ほど見せてもらい、やはり川沿いでないと意味がないため、最初に見せてもらった物件に決まった。

その家では、二回春をむかえた。

念願の一人暮らしということで、多くの友人を招いた。
たこパとウノと大貧民に心底はまった。
父を招いたときは、なぜかウイスキーを手土産に持ってきた。

春夏秋冬のどれもが素晴らしい土地だったが、やはりそれは近くに友人がいてくれた安心感もあった。

近所にはその友人の友人もいたため、なんだか漫画の世界のように充実した日々を送った。

お金はそんなになかったかもしれないけれど、近所を歩いているだけで楽しくて、朝起きたときに窓から見える木々が最高に美しく、ただただしあわせなひとときだった。

いまはもうその地に、友人もわたしもいない。
それぞれ別の生活をしているが、それでもそのときの日々を引きずっているふしがある。

昨年、たまたまなにかのついでに、桜を見に降り立ったことがあった。
人が多すぎて、歩くこともままならず、すぐに退散してしまった。

たぶん、この目線から桜を見て「ここに住みたい」とは思わなかったと思う。
少し目線が変わるだけで、見えてくる世界すら変わってしまうのだと帰り道に感じた。

ただただ、だらだらと書いてしまった。
もうあの場所に住むことはないのだろうなと薄々気づいている。

本当に貴重な時間で、これからも美化し続けていきたい。

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