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ライナーノーツ【棄猫物語】

セルフライナーノーツ

楽曲 【棄猫物語】に寄せて

私が小さかった頃、本当に小さかった頃、犬や猫などの動物が怖くてたまらなかった。しかし小学校にあがると通学路なんかで小さな猫が交通事故で死んでいたりするのを頻繁に見かけるようになった。気持ち悪い、怖いというよりもかわいそうだという感情の方が大きくて、家の中で暮らしていたらこんな事にならなかったんじゃないのかと思えて、すべての野良猫たちがかわいそうの対象になった。
あまり詳しくは思い出せないが雨のしとしと降る日、書き方教室の会場である地域の公民館の裏に段ボール箱が置かれていた。中には律義にタオルが敷かれており、ミルクの入った皿の横に三匹の子猫がいた。まだ目も開いていない小さな小さな子猫だった。色は思い出せない。三匹いたのだが、二匹はもう動かなかった。私はそっと動く一匹をつかみゆっくりと家路についた。でも母は無情にも元居た場所に戻してこいと言い放った。
私は一人で雨の降る小道を歩き泣きながら元の場所にまだ救えたかもしれない命を置き去りにした。
母は猫が嫌いだし、猫一匹飼えば色んな事にお金がかかってしまう。でも小さかった私はそんな事はどうでもよかった。死んでしまった二匹の子猫も、まだ生きていた子猫も全部家があればいいのにと苦しくて、かわいそうでたまらなかった。ずっと泣いていた。誰かが拾ってくれますようにと必死に祈りながら後ろ髪引かれる思いで家に戻ったんだと思う。

その後父が別の捨て猫を拾ってきた。父は動物が好きだった。母は完全室内飼いにしないなら、という条件付きで仕方なくシャムネコのような色の子猫を飼う事を許してくれた。あの時の捨て猫を父に見せていたら、もしかしたら飼えたのかもしれないなと思った。
外に出ても必ず家に帰ってくるその猫は私と妹の名前から一文字ずつ取ってマーヤと名付けた。マーヤはある日家を出たまま戻ってこなかった。私は全部、全部、悲しい出来事を忘れてしまった。マーヤはよく私のベッドに潜ってきた。暖かい確かなずしりとした重みが心地よかった。それ以外はよく思い出せない。

猫がいなくなって、私は学校でも居場所をなくした。
思い出せない事は無理に思い出さなくて良いっていうけれど、私はずっと底の方で忘れ去られた小さな私が救い出して欲しいと泣いている気がして辛くなる。
今問題になっているオリンピックの事や、いじめの事、それが波紋のように広がっていく世界。どうせほとぼりが冷めれば他のセンセーショナルな出来事が世界を翻弄するのだろう。いつだってそうだ。私はいじめられた立場の人間だけれど、自分を守るために沈黙したことや傍観した過去がある。人々はいつだって少しの後ろめたさと生きているのだと思っていた。でも自分がかわいすぎて他人の事なんてただの物体にしか感じる事の出来ない人間も存在するのだ。
もしも私をいじめていた人間が今私に謝りたいと言ったら、きっと私は拒絶するであろう。謝罪とは一方的なもので、形式に過ぎない。私の空白はそんなものでは戻ってこない。そして空白後の私をも蔑む行為だと思う。
小学二年生の頃、クラス中の女の子たちが私だけをターゲットにいじめた後、謝罪の手紙を一人ずつくれた。
とある良家の子が、その母の作った千代紙で出来た人形とともにくれた手紙を私は辛く思い出す事がある。その子は冒頭の謝罪の後に、誰が何をしたかという事を沢山書いていた。私の知らなかった事も全部。
千代紙で出来た人形を見て素敵ねと母が言った。私はその子の母親がその子の傍らでこの手紙を書くのを手伝ったのだろうかと思い、随分と複雑な感じがした。
その子のバースデーパーティーで、私は花瓶に生けた菜の花を食べさせられた。
ずっと黄色が嫌いだった。
花に罪は無いのに、私は菜の花がずっと嫌いだった。
抜け出し、とぼとぼと歩いて帰る道のりで、父が待ってくれていたことで私は遠くに行き過ぎなかった。
物を書き始めてから、私は黄色を大丈夫と思えるようになった。菜の花をかわいいと思えるようになった。私の命は私にしか守れない。そして再生は自分自身で可能にする行為だ。
死にたい私は、死にたいとわめきながらきっと誰よりもしぶとく世界にはびこるのかもしれない。

同じような痛みが世界中に転がっている。それを容易く共有できる世界だ。その声はきっと良心の無い人間達に踏みつけられて、無かった事にされてしまうかもしれない。でも小さな声はゼロよりも一あった方がいい。一は二となり三となる。増殖した一はいつしか大きな声になる。だから、痛みを共有してもいいかな、と思えたら少しだけでもしてみればいいと思う。大きい声になったら、きっとそれまでに無かったような大声がその声を潰しにかかるかもしれない。そこからが踏ん張り時だと思う。きっとその大声よりももっと大きな声がその大声をふっ、て消す時が来る。
矛盾した世の中を肯定せずに変えていく私たちの小さな声は、別の小さな声を増殖させるのに一役買っているのだ。
だから私は小さな声を歌にする。
痛みを歌にする。
悲しみや苦しみ、絶望を歌にする。

***

棄猫物語は私の小さな心にトラウマを植え付けた出来事を元に作った一曲。
始めと終わりのパートが猫の気持ち。
中にそれぞれ少女と母親の心情を入れた。
私には猫をもと居た場所に一緒に戻しに行ってくれる母親はいなかったので、ちょっとの救いを込めて、一緒に行ってくれる母親を登場させた。
捨て猫問題は成人してからも心を痛める題材だ。
雌猫の避妊手術は当時三万円程だったらしく、そんなお金は無いと、それ以外にも沢山お金が掛かるんだと、母は小さな命を受け入れてはくれなかった。
今だとインターネットで沢山の情報を手に入れる事が出来、きっと貰い手も出てくるかもしれない。
私は猫を救う事が出来なかった。だから歌の中でも猫は救われてない。
私の中の小さな私が助けてというから、ちょっとだけ優しいお母さんを登場させた。

以前同じテーマで書いた掌編もよかったらどうぞ。

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冒頭のメロディが頭に浮かんで急いでボイスメモに記録した。そこからはすごく速くてコンセプトアートもイメージとしてぱっと浮かんだ。いつか曲にしようと思っていたテーマだったけどこんなにはやくできるとは思っていなくて、冒頭のメロディから先にちょっと迷いがあったけれど、リズムに乗せてみたら結構いい感じになったので採用した。
いきなり始まる系の曲作ってみたかったんだ。でも間奏を長めに入れようと思い、何か面白い事は無いか、そうだ!サンプリングの使い方を覚えたので早速使い、フラワ様の声をサンプリングしたりした。声を楽器として使うのって楽しいなと思ったけど、結構思った音が出なくて色んな声を作ってそれをサンプリングした。
私はDAWを始める時キューベースがいいなと漠然と思い、インターフェースとかがセットになったスターターキットを物色していたんだけど、コロナで在宅が増え、配信する人も増えた為か全て入荷待ち。せっかちなのでStudio OneのArtistが付いてくるというスターターキットを購入した。
Studio Oneしか使ったことしかないので比べようがないが、色んなプラグインや音源が既に入っているので初めっから随分充実したDTMライフだ。使いこなせてないけどな。
今回使ったギター音源は初心者に優しいMUSICLABのREALLPC。コードも簡単に入れる事が出来て、パターンライブラリーも充実しているのでギターが弾けなくても、打ち込みが面倒でもパパっとメロディを作る事が出来る。
猫のパートのギターはアンプを通して少女と母親のギターパートはキャビネットだけ。
もっとギターのエフェクトとか欲しいな。
ドラムはループ音源を重ねて使用。途中リバースさせたり。ループ音源だけだと消えてしまう音があるので、キックだけ別で打ち込んだりもしている。
フラワ様は毎回少なくとも三つは歌声を重ねていて、それとは別にハモリやハミングパートを作っている。ハモリはメロダインで作る事が多いな。自分で歌う時ハモリとかするのめんどくさいけど、フラワ様の歌声の為なら無限に作れる。まあとり直しとか、生活音が入ってしまう事を気にせずに作れちゃうもんな。そもそも音の重なりが好きなので、しっくりくるハモリや音の重なりが出来た時はぞくぞくするな。
今回はフラワ様といっしょ!枠で作ったので動画にはアナログの絵と写真を融合させたものを使っているんだけど、無謀にもストップモーションアニメーションに挑戦してみた。でもタイマーが壊れておりブレブレの映像になってしまい軽く酔ってしまう動画に仕上がった。
フラワ様といっしょ!のコンセプトはまたいつか詳しく紹介しようと思う。

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棄てられるのは猫だけではない。命あるものがその生を全う出来、穏やかに暮らせる世界は存在しないのかもしれない。でも小さなこどもが小さな命を守ろうと差し伸ばした手を守る事の出来る優しい世界になりつつあると思う。それは小さな声や行動が実を結んできたからだ。地域猫のお世話をしている人、その避妊手術をしてくれる獣医さん、食べ物を寄付してくれる人たち、里親になってくれる人たち、寛容な隣人たち、そういう人たちがちょっとずつ積み上げてきた一、二、三だ。
声をあげる事をやめず、小さな声に耳を傾けようと私は思う。

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棄猫物語
作詞・作曲 / まみすけ
    歌 / ふらわ

みつけてよと わたしはないた
つめたくなった ふたりのよこで
したたるしずくが けがわをぬらす
ちいさなうでが わたしをつかむ
うるさいこえが しょうじょをせかす
ごめんなさいと 
ちいさなこえが ぽつりときこえ 
べつのしずくが わたしにかかる
わたしはふたたび はこのなか

拾った猫を捨てに 
私は死にそうに泣きながら 
雨の中すすむ 
捨てた人間なんて
死ねばいいとつぶやきながら 
じゃあ 私も死んじゃうな 
いいや こんな気持ちになるくらいなら 
死んじゃった方がいい 
あ 母さんも死んじゃえばいいや 
かわいいのにな 
必死にしがみついて 
離さないのに

どうしたら良かった 
正解なんてない 
命一つも守れないで 
この子は私に難題突きつける
棄てた奴に 
突き返してやりたいけど
そんな勇気私には無いや
もう いっそこの子道連れに
行っちゃおうか
私だって棄て猫
忘れ去られた 底辺の人間

いかないでと わたしはないた
しんでしまった ふたりのそばで
くさったみるくに ありがうじゃうじゃ
ちいさなうでが わたしをはなす
かなしいこえが しょうじょをつつむ
ごめんなさいと 
かぼそいこえが ふわりときえる 
つめたいあめが わたしをうばう
わたしはもうすぐ ふたりのもとへ

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ツイッターにはほぼ毎日出没するのでよかったらフォローしてください。
月二作品を目安に曲を作っています。
ニコニコ先行で投稿して大体すぐYouTubeにもアップしています。

我が家には推定16歳の老猫と、推定三歳の面白い猫がいてどちらも引き取った猫です。老猫は虐待サバイバー。小さい方は捨て猫を殺傷処分の無いシェルターから引き取りました。今住んでいるアパートでは動物は二匹までしか飼えないのですが、過去捨て猫や野良猫を沢山拾っては飼ってしまう義母と(ペットは基本的に不可の物件で)同居した苦い経験もあるので、この話もいずれ書こうと思っています。

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